第66話 補給部隊襲撃(2)

 空間感知で伏兵の状態を確認する。

 混乱の中にあると言うよりも、右側の伏兵は、ほぼ壊滅状態であることが確認できた。


 これは、ロビンとボギーさんの狩り場になるかな? いや、ロビンだけの狩り場か。


 先ほど、聖女がもたらした、スキル強奪に関する情報を思い出す。


 スキル強奪 タイプA、あちら側の異世界でライト・スタッフが所持していたスキル。

 スキル強奪の成功率は低いが、一見、制限なく利用でき一番便利そうに思える。しかも、失敗してもスキルのレベルが上がる。スキルのレベルが上がれば成功率もそれに応じて上がる。


 しかし、最高レベルであるレベル5に達した後で何度か使用すると、スキル強奪 タイプA、そのものが消失してしまう。

 消費型のスキルだ。とんでもない落とし穴である。


 間違いなくロビンはこのタイプAとタイプBを所持していた。

 そして、そのタイプAを利用してあれだけの数のスキルを集めたのだろう。その上で、タイプAが消失した。

 これでタイプBしか持っていないのに多数のスキルを所持していることの辻褄が合う。


 タイプBは所有しているスキルを消費することで相手からスキルを奪うことができる。

 生贄型のスキルだ。

 消費するスキルが多ければ多いほど、そのレベルが高ければ高いほど、相手から奪うスキルのレベルも高くでき、成功率も上がる。


 ボギーさんは最初からタイプBしか所有していないので、強奪スキル発動には慎重にならざるを得ない。

 その点ロビンはタイプAで大量のスキルを取得済みだ。

 有り余る生贄となるスキルを、有用でレベルの高いものに入れ替えるだけである。


 ロビンへと目を向けると、そんな状況なのを自覚しているのだろう、顔がわずかにほころんでいるのが分かる。


「じゃあ、あとは頼む」


 白アリに後の指揮を頼む。俺とメロディ、マリエル、そしてテリーで空間転移をする。


 絶賛混乱中の敵の伏兵の横をすり抜けるように、連続転移をして補給部隊の後方へと出現する。

 転移と同時に魔法障壁と重力障壁を展開し、地上五十センチメートルほどの高さに弾幕を張る。


 弾幕は俺の土魔法で生成した鉄の弾丸とテリーの作りだした水の刃の乱射である。

 鉄の弾丸と水の刃で足の機能を破壊された補給部隊の兵たちが、叫び声と共に地面を転げ回る。

 

 ちっ、図られたかっ!


「補給物資の中に兵が潜んでいる。転移者を二名確認っ! メロディ、転移者の能力確認を頼む」


 空間感知を展開したとたんに補給物資が詰まっているはずの馬車の中に、物資に混じって兵の存在が引っ掛かる。しかも、転移者までいる。考えてみれば古典的な作戦だ。


 二重三重に罠を仕掛けたつもりか。

 こちらが補給物資を確保したと油断したところで、不意を突くつもりだったのだろう。

 

 だが問題ない。計略ごと叩き潰す。


「テリー、真ん中の馬車を水で覆ってくれ」

 

 俺の言葉に即座に反応する。

 瞬く間に馬車を大量の水が覆う。巨大な水球の中に馬車が浮かぶ。中にいた兵がパニック状態で馬車からい出してくる。


 い出てきたところで外は水だ。

 呼吸ができないことがパニックに拍車をかける。


 水球の周りは魔法障壁で覆われている。

 加えて、今回は重力障壁でも覆っている。


 わずかに残った、活動できる兵へ向けて雷撃を撃ち込む。

 手加減はしてある。行動不能にするのが目的だ。死ぬことはないだろう。


 便利だな、雷撃。

 撃ち込むと自然と広範囲に広がるため、ピンポイントでの攻撃には向かないが、広域の敵を行動不能にするには適している。


 魔法障壁と重力障壁を解除し、パニック状態にある水球の中の兵へ雷撃を撃ち込む。

 ついでだ、弾幕で足を破壊され転げ回る兵たちにも雷撃を見舞い、静かにさせた。

 

「手前側の男の人がモンスターテイムのレベル5と隠密レベル3を持っています。奥の男の人は空間魔法レベル5と火魔法レベル4を持っています」


 俺の後ろに隠れるようにしていたメロディが、涙声で敵転移者の目ぼしいスキルを耳打ちする。


 メロディの言葉を聞いた俺は転移者の位置を再確認し、そちらへと目を向けた。


 転移者は二名とも魔法障壁を展開していたのだろう、俺の放った雷撃はわずかに麻痺を引き起こす程度にとどまったようだ。

 さすがに転移者だ。

 手加減してあったとは言え、良く耐えたものだ。思ったよりも強力な魔法障壁を使うようだ。


 牽制も兼ねてショットガンのように小さな鉄の弾丸を撒き散らす。

 ここから尚も攻撃をしてくることを予想していたのか、魔法障壁の展開がされていた。小さな鉄の弾丸程度は食い止められた。

 

「お前たち、転移者かっ? それに、何だよこれはっ! 畜生、メチャクチャじゃないかっ!」


 空間魔法レベル5を所持する銀髪の若い男が、俺たちと周囲の惨状を見て驚きをあらわにする。

 

 いちいち質問に答えてやるつもりはない。

 狙うのは空間魔法レベル5だ。

 ただでさえ厄介な空間魔法なのに、俺たちの誰よりも高いレベルである。


 マリエルの底上げがなければ先手を取られていたかもしれない。

 消えてもらおう。


 一気に距離を詰め、肉薄する。

 男の額に右手をあてる。

 ターゲットスキルは空間魔法レベル5。生贄にするのは空間魔法レベル4、弓術レベル3、投擲術レベル3の三つ。いや、さらに斧術レベル3と剣術レベル4を生贄に選択する。


 銀髪の男の右手が俺の左胸にかざされる。

 次の瞬間、特大の火球が発生し爆炎が上がった。


 なッ!

 

 この距離でこんな破壊力のある魔法を放つのかよっ!

 熱と衝撃の一部が魔法障壁を突き抜けてくる。さらに、幾ばくかの熱と衝撃が重力障壁さえも抜けてくる。


 ダメージは軽微。

 だが、それも俺だからだ。

 火球を放った銀髪の男は無事ではないだろう。


 えッ?

 消えたッ! しまった、転移されたか。

 あの状態で少なくとも二つ以上の魔法を並行発動させてきた。

 思いっきりも良い。手強いな。

 それにしても、厄介なヤツを逃がした。個人的には追撃したいが後回しだ。


 取り残された転移者――黒髪の男に向き直る。

 パニック状態なのか、反応が遅いし、行動に意味がない。

 同じ転移者ではあるが、先ほどの銀髪の男とはあまりにも違いすぎる。


 そんなパニック状態の黒髪の男からスキルを奪う。

 弓術レベル3、投擲術レベル3、斧術レベル3と剣術レベル4を生贄にする。

 空間魔法レベル4は温存させる。


 タイプB、発動っ!


 成功だ。


 よしっ! モンスターテイム レベル5を手に入れた。

 今ひとつ、嬉しさとか、高揚感に欠けるが良しとしよう。


 その後、隠密レベル3を奪ってからとどめを刺す。


 ◇

 

 空間感知で周囲と伏兵の状態を確認する。

 周辺と先ほど先制攻撃をしかけた側の伏兵は完全に無力化できているようだ。


 無傷の側の伏兵の動きがおかしい。森の中を散開して移動をしている。

 撤退行動に入っている? 


 先ほど取り逃がした転移者も見当たらない。連続転移して完全に離脱をしたか。


「テリー、メロディ、左側面の伏兵が撤退行動に入っているようだ。森の中に散開しながら移動をしている」


 麻痺している兵の中から、剣術レベル3のスキルを奪いながら二人に呼びかける。


「追撃はできそうか?」


 最後尾の馬車の確認をしていたテリーが作業を中断して聞き返してくる。


「今から合流しての追撃は厳しいと思う。今回の作戦は戦力の半数を削ったことと補給部隊を抑えたことでよしとしよう」


 テリーに追撃をしないことを告げ、上空に向けて狼煙のろし代わりの火球を打ち上げる。


 よし、ひとまず合流し戦果と被害を確認しよう。

 

 それにしても、あの状況から連続して転移しての逃亡か。厄介なヤツだな。

 次の機会には欲をかかずに仕留めるか。

 脅威を取り除くことを優先させよう。


 狼煙代わりの火球を確認しているだろうから、程なく合流してくれるだろう。

 その間、テリーに確保した物資の確認をしてもらう。


 俺は泣いているメロディをなだめたり励ましたりしながら、二人で、生きている兵の拘束と治療を始める。

 余禄として、目ぼしいスキルは順次奪っていく。


 とは言え、タイプAが消費型と判明したので無駄なスキルの取得はできない。

 吟味しながらの取得だ。


 だいたい、タイプBだって消費型でないとも限らない。

 自然と慎重になる。


 拘束と治療を進めながら空間感知で白アリたちの様子を確認する。


 ティナとローザリアが感知で捉えられないのはワイバーンの回収に行っているからだろう。

 

 ……ロビンのヤツ、まだスキル強奪をしている。ボギーさんは既に切り上げて兵の拘束に精を出している。

 ロビンの楽しそうな表情が目に浮かぶようだ。

 合流までまだ時間がかかりそうだな。


「マジック・バッグがかなりの数あった。それと、予想に反して空間魔法のスキルを持っている者やアイテムボックスのスキルを持っているものが相当数いた。全員をひとまとめにしてある」


 補給物資の確認を終えたテリーがこちらに歩きながら説明をする。


 空間魔法――アイテムボックスに物資を収納した場合、その兵が死亡すると収納された物資も消失する。

 これを避けるために、マジックバッグを多用し、アイテムボックス持ちはできるだけ避けるのが通例だ。


 それをしていなかったと言うことは、転移者を含んだこの護衛部隊に絶対の自信があったのか、後方に有り余る物資があるのかのどちらかだろう。

 どちらにしても、軽率なことこの上ない。


 さて、合流と同時にルウェリン伯爵とゴート男爵へ伝令を飛ばさないとな。


 これで遠征軍は大きく戦線を押し上げられる。

 戦略の幅も広がるはずだ。

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