救わなきゃダメですか? 異世界

青山 有

第一部 異世界

第1話 詳しい説明は?

 スマホに表示されている時刻を見ると二十三時になろうとしている。改めて視線を車内へと走らせると二十人余りの乗客がこの車両に乗っていた。

 ゴールデンウィークを明日からに控えているためか、いつもよりも乗客が少ないように感じる。


 車両内で会話をしている人はいない。電車が走る音だけが響いている。

 乗っているのはほとんどが会社帰りのサラリーマンかOLと思しき人たちだ。


 女性は五人、何れもアラサーくらいかな? 何をしているのかは分からないが五人ともスマホに夢中である。

 文字を入力している人もいればイヤホンをつけてスマホに見入っている人もいる。


 男性は各年代の層が揃っている感じだ。俺と大差ない学生っぽさの抜けない人から定年間近に見える人までいる。

 ノートパソコンで仕事をしている様に見える人もいれば、疲れて眠っている人や酔っ払って夢現ゆめうつつの人もいた。半数くらいは女性同様にスマホに夢中だ。


 俺の一番近くに座っている、酔っ払って独り言をつぶやいている四十代半ばの男性をチラリと見る。


 ゲームは部屋に帰ってから始めるとして登録だけでもしておくか。周りに人は少ないし居ても酔っているみたいだから大丈夫だろう。

 自分に言い訳しながらノートパソコンを立ち上げた。


 他の女の子に『ひいらぎちゃん』って呼ばれていたな。

 可愛い娘だったなあ。あんな可愛らしくて優しい女の子と付き合えたら楽しいだろうなあ。我ながら単純だとは思うが彼女のことを考えると心が弾む。


 ノートパソコンが起動するまでの間、飲み会――新人同士の飲み会でのことを思い出し、少しだけ、いや、かなり幸せな気分に浸ってしまう。

 久しぶりに長時間女の子としゃべった。二人きりで五分以上は話をしていた気がする。


 隣から聞こえてくる女の子たちの話し声。大河ドラマの役者の話だ。誰の配役は納得がいかないとか、誰が思ったよりも良い男だとか、そんなどうでも良い話に混ざって聞こえてくる甲高い話し声。

 その中に歴女臭れきじょしゅうのする娘がひとりいた。

 ビール瓶を取るふりをしながら、勇気を出して歴女臭れきじょしゅうのする娘を盗み見る。


 あれ? 見間違いかな?

 そこにはオレンジジュースを両手で抱えた、顔も胸も幼い少女がいた。

 なぜ中学生が? しかも美少女だ。ど真ん中じゃないか。誰かの妹かな?


 目が合った。

 長いまつげをした大きな目で真っすぐにこちらを見ている。


「あのー、慣れているんで大体のところは想像できます。間違っていたらごめんなさい。私も新入社員です。短大卒業した二十歳ですから」


 固まっている俺に向かって心得たように彼女――ひいらぎちゃんがオレンジジュースを両手で抱えたまま少しだけにらむ。


「あ、あのごめん。俺も歴史とか好きでさ、歴史の話題が聞こえたんで何となく振り向いただけなんだよ」


 焦る。別にやましいことをしていた訳じゃないのに妙に焦ってしまう。

 コップを持たないほうの左手を自分の胸の前で意味もなく振ったり、コップを持ち替えたりしてしまった。まいったな。これって女の子から見たら変な男に見えたりするのかな?


「気になって振り向いたら女子高生みたいな子がいたと。でも固まらなくても良いじゃないですか」


 朗らかな口調で紡がれたセリフは非難めいていたが、彼女が怒っていないことは俺に向けられた可愛らしい笑顔からも容易に想像がつく。


 許してくれたのかな? 笑顔にドキリッとするが、同時に安堵する。


「本当、ごめん」


 女子高生じゃなくて女子中学生に見間違えたことは秘密にしよう。


 その後、さらに勇気を振り絞って歴史からゲーム、とどめにアニメの話題を振ったところ連続ヒットッ!

 どこかの意地悪女がひいらぎちゃんを連れて行くまでの間、五分以上も二人きりで会話を楽しんだ。


 うん、これで明日からのゴールデンウィーク、誰とも会話しなくても俺は生きていける。

 もっとも、初めから会話の予定なんてないけどな。今夜からテストサービスが開始されるVRMMOを始める予定だ。


 そんなことを考えながらユーザー登録を終え、キャラクター設定に移る。


 ◇


 目的のサイトへアクセスすると『テストサービスプレーヤー様 ~限定一万人~』と書かれたページが表示された。

 普通この手の注意書きってのは読まないように小さく書くものだよな? そんなことを考えながら妙に大きく書かれた注意書きを読む。


『お詫びとお知らせ

 本テストサービスですが当初は限定一万人様とお知らせしてプレーヤーの皆様を募集しておりました。

 しかし、応募総数が多く限定数の変更を望む皆様の声にお応えし、人数の上限を撤廃することと致しました。

 人数の上限数の撤廃に代わり登録時間にて制限をかけさせて頂くことと致します。皆様にはご了承頂けますよう、お願い申し上げます。

 尚、登録時間の制限ですが日本時間の四月二十八日 二十三時五十九分を以てテストプレーヤー様の登録を終了とさせていただきます。

 皆様にはご理解と――――』


「おいっ! どう言うことだよっ!」


 電車の中にもかかわらずノートパソコンに向かって叫んでしまった。


 少ないとはいえ乗客は居る。数名がこちらを振り返った。

 無言の乗客を乗せている車両内で、ノートパソコンに向かって独り言を叫ぶ若い男。そりゃあ、不審にも思うよな。


 いや、そんなことよりも今何時だ?

 ノートパソコンの画面を見ると二十二時五十六分と表示が出ている。キャラクターメイキング開始は二十三時からだったな。

 俺は急ぎユーザー登録を終え、開始時間の二十三時ジャストを待ってキャラクターメイキングへと移った。


 ◇


 先ずは名前か。注意書きをみる。


『世界でのあなたの名前です。漢字は使用できせん。二十文字以内でお願いします』


 名前:ミチナガ・フジワラ

 ゆっくりと名前を考えている時間はない。本名に似ている歴史上の人物の名前を選ぶ。しかし、カタカナにすると一緒だな。


『世界でのあなたの性別です。申し訳ございませんが、男・女の二つからどちらかしか選ぶことができません』


 性別:男

 いまさらだが男と女以外の要望があったのだろうか? 気になる説明文だったな。


『世界でのあなたの年齢です。成人は男女ともに十五歳です』


 年齢:十八歳

 成人とは言ってもさすがに十五歳は厳しいだろう、制限とかあっても嫌だしな。


『使用できるスキルを選んでください。世界であなたが使用できるスキルです。魔法もこのスキルに含まれます。スキルは最大の力となります。プレーヤーにより選べるスキルの数、魔法の属性が異なります』


 何だよそれ、時間があれば何度もやり直して納得がいくまで出来るってことか?


 魔法系スキル

 武術系スキル

 生産系スキル

 ・

 ・

 ・

 特殊系スキル



 スキル系統が羅列されているだけだ。試しに魔法スキルをクリックすると、さらに、地魔法、水魔法、火魔法、風魔法などの馴染みのある魔法の属性が羅列されている。

 やはり説明文もなしか。フンッ、オタクをめるなよ。

 地魔法(50)? この横の数字は何だろう? レベルかな? まぁ良い、先へ進もう。


 気になるのは特殊系スキルだな。

 クリックすると五十個くらいのスキル名が表示された。


 ざっと見渡すと気になるスキル名が三つ。


【スキル強奪 タイプA(5)】

【スキル強奪 タイプB(4)】

【スキル強奪 タイプC(5)】


 やっぱりこれだろう。詳細は分からないがどれにする? ひと先ず三つ全部選んで後で考えるか。


 あれ? 【スキル強奪 タイプA(5)】を選んだら横の数字が(5)から(4)に変わった。もしかしてこの数字はゲーム内のスキル所持者の上限か?

 慌てて残り二つの【スキル強奪 タイプB】と【スキル強奪 タイプC】を選択する。


 危なかった、選択できた途端に数字が(0)に変わった。

 念のためスキルを確認する。


【スキル強奪 タイプA】

【スキル強奪 タイプB】

【スキル強奪 タイプC】


 チェックをした三つのスキルがステータスに反映されていた。良し! 取得できている。

 これではっきりした、スキル取得は早い者勝ちと言うことか。


 次だ。


 と、待てよ? ってことはあれか。キャラクターメイキングのやり直しはもの凄く不利ってことになるな。

 途中で回線遮断とかのリスクは避けたい。

 電車を途中下車して本腰を入れてキャラクターメイキングすることにした。


 ◇


 従魔術――モンスターテイムとかも面白そうだけど、やり直しはできないんだ。ここは堅実に行こう。

 あと、闇魔法がグレーアウトしている? これは俺には取れないってことなのか?

 先ほど読んだ説明文の中に『プレーヤーにより選べるスキルの数、魔法の属性が違います』とあったが、それか?


 最初から向き不向きの属性があるのだろうか?

 まあ、良いや。考えてもしかたない。先ずは空間魔法だな。チートの定番だ。


 しかし、空間魔法の選択画面に進むと既に(0)と表示されグレーアウトしている。

 遅かったか。


 次、回復魔法だ。回復は必須だから光魔法を取ろう。あとは生活と攻撃手段か。

 光魔法を取った途端、地 水 火 風 の魔法がグレーアウトした。いや、それだけじゃない。他の全てのスキルがグレーアウトしている。


 見えないだけでスキル毎にポイントみたいなものがあるのかもしれない。

 そう考えれば納得がいく。

 強奪系スキルなんて、普通に考えて反則的なスキルだ。消費ポイントが多くて妥当だろう。


 ◇

 ◆

 ◇


 ――――よし! 強奪系スキルに全てをかけよう。それと光魔法だ。本当は若干器用貧乏みたいでも、出来るだけ多くの属性が使えてどんな状況にも対処できる方が好みなんだがな。


 魔法系スキル:

 光魔法


 特殊系スキル:

 スキル強奪 タイプA

 スキル強奪 タイプB

 スキル強奪 タイプC


 強奪系スキルを一つでも外せばもっと数を取れた気もするが、強奪系は絶対だ。自分が欲しいというのもあるがそれ以上に他者に渡すリスクの方が大きい。

 スキルにはレベルがあったはずだが――ここまでレベルに関する設定や表記は見当たらなかった。まさか全部のスキルが初期レベルか? 得意スキルくらいは選ばせて欲しかったなあ。


『入力が完了致しました。これでよろしいですか?』


 時計を見れば二十三時五十一分だ。思った通り、結構時間が掛かったな。

 何があるか分からないしギリギリはやめよう。よし、これで登録だ。

 俺は登録のボタンをクリックした。 


 ◇

 ◆

 ◇


 あれ? 駅のホームに居たはずだよな?

 周りを見渡すと、そこは何もない白い空間……ではなく、大勢の人たちがいる白い空間だった。


 白い空間といっても、壁のような人工物があるわけじゃない。一面、濃い霧がかかったような感じなのだが遠くにいる人も霞むことなくはっきりと見える。

 距離感のつかみにくい、全方位が真っ白な空間に、ざっと見て、七・八十人の人が点在している。数名で固まって会話している人たちもいれば、俺のようにひとりで周囲を見渡している人もいる。


 男性六割の女性四割と言ったところか。男性は二十代・三十代がもっとも多いようだ。

 ネクタイだけを外したワイシャツ姿の人たち、休日のサラリーマンのような格好の人たちが多いか。


 年代も格好もさまざまだが共通していることがある。

 皆、驚きと戸惑いを露わにしているということだ。この場に適応している人はひとりも見当たらない。


 数名で固まって会話している人たちは、少なくとも俺よりも先にここへ来ていると考えてよいだろう。その表情は驚きと戸惑いの色は見えるが、パニックにはなっていない。

 あそこの集団に加わって、何か知っているか聞いてみるか。


 俺と同じように突然ここへ紛れ込んだとしたら、得られる情報に大きな期待はできないな。

 何か知っている望みは薄いか。


 それにしても何だよ、この景色のない空間は。あまりにも現実離れをしている。

 まるで、Web小説やラノベで見かける、VRMMOのデスゲームか異世界転移もののようだな。そんな突飛もない、現実離れした考えが脳裏をよぎる。


 俺と同年代の男性が数名で固まっている集団へ向かって歩き出した。

 目的の集団へ向かう途中、ひとりで大声を上げている男性や罵り合っている人たちもいたが無視をして進む。


 歩く速度が遅い。

 別に重力が大きいとか、速度が上がらないとかではない。


 俺自身の問題だ。やはり恐怖心がある。

 足元も見た目は白い霧だ。

 それこそ、足を踏み出したらそのまま落下してしまいそうな、そんなことを想像させる。


 足の裏には、そこに何かがある感触が伝わってくる。

 だが、その見た目――ただの白い霧にしか見えないことが歩く速度を上げることをはばむ。


 慎重に歩を進めながら周囲を観察する。


 少人数のグループが少しずつ出来てきている。

 面白いことに男女混合のグループは少ない。同性同士で集まっている人たちが目立つ。特に女性はそうだ。

 ひとりで困惑しているのは主に年配の男性で、女性の方が、或いは若い人ほどグループを形成している。


 女性は男性に比べて若い人が多いな。十代後半の学生がちらほらと見えるが二十代に見える人たちが一番多いように見える。

 二十代の一人暮らしかな? かなりラフと言うか薄着の女性につい目が行ってしまう。


 なっ?


 突然、薄着の若い女性グループが視界から消え、目の前に白く大きな物体が飛び込んできた。

 白くて大きな物体は下着姿のおっさんだった。俺と薄着の若い女性グループの間に突然割り込むようにして現れた。


 何だって! 今、俺の目の前に人が出現したっ! そうか、こうやってここへ来たのか。

 って、ここどこだよ!

 それにどうやって来たんだ?

 何でここにいるんだ?

 これまで押し殺していた疑問が、一気に意識の表層へと浮かび上がる。


「あなたも、今、ここへ来た方ですよね?」


 Tシャツにジャージと言う、寛いだ格好の男性に話しかけられた。歳の頃は俺と同じくらいだろうか?


「え? ええ、そうです。あなたもですか?」


 一瞬、混乱して取り乱しそうになったが、この男性に話しかけられたお陰で平静を保てた。


「私もと言うよりも、ここにいる人全部がそうみたいですよ」


 俺の質問を言外に肯定し、近くにある小グループに視線を走らせている。


「じゃ、そうなのかな?」


「間違いないでしょうね、あのゲームが原因としか考えられないでしょう」


 不安そうな表情で話し合う声が聞こえる。

 

「じゃあ、Web小説でいうところの、デスゲームなんでしょうか?」


「どうでしょうね、もしかして、この空間から察するに、転生とかトリップじゃないですか?」


「ともかく、今は情報を集めて、もとに戻る方法を探すのが先決ですね」


 周囲に注意を向けるだけで、いろいろな情報と言うか憶測が入ってくる。しかし、現段階では重要な情報だ。

 小グループをよく観察すると、女性のグループは話し込むというよりも、身を寄せ合うようにして不安を共有しているように見える。


 話し込んでいるのは二十代、三十代のサラリーマン風の男性が多い。しかも、同好の士というかお仲間感がひしひしと伝わってくるのは気のせいだろうか。


「やっぱりあのゲームが原因ですかね?」


 足を止めて話しかけてきた男性に向き直る。

 他に考えられないよな。


「恐らく間違いないでしょうね。幾つか小グループもできているようですし話を聞きに行ってみましょうよ」


 その男性も不安なのだろう。

 幾分蒼ざめた表情で周囲の様子をうかがいながら提案をしてきた。


「ええ、私もそのつもりで、あのグループへ向かっていたところです」


 同年代で固まっているグループを視線で示し、そこへ向けて二人で歩き出した。


「私は藤原路永ふじわらみちながです。ゲームの登録はミチナガ・フジワラ」


 俺は改めて本名とゲーム登録のユーザー名を伝え、右手を差し出す。


「申し遅れました。私は志村誠一です。ユーザー名はセイ・シムです」


 志村誠一と名乗った男性は俺の差し出した右手を取り握手を交わした。


「時間だ」


 誰かがつぶやいた。登録の締め切り時間のことだろう。それを合図にグループ間の交流が加速する。


「ここはどこなんだ?」


「やっぱり、あれかな、転生とかか?」


「デスゲームかもしれないぞ」


 先ほど聞こえてきたような内容の話があちらこちらで始まった。

 そこには不安と戸惑い、パニックとも受け取れるヒステリックな声も聞こえてくる。


「あっ! 藤原さん!」


 え?

 いきなり聞き覚えのある声に名前を呼ばれる。この声って? 気持ちを落ち着かせながらゆっくりと振り返ると予想通り見知った顔があった。


「ひいらぎちゃんか、偶然だね。どうしたの、こんなところで」


 ゆっくり振り返ることはできたが、気持ちは全然落ち着いていない。ひいらぎちゃんに再会出来たことで、心臓がバクバクいっている。


「お知り合いですか?」


「ええ、会社の同僚なんですよ」


 ひいらぎちゃんと俺を交互に見ながら尋ねる志村さんに、ひいらぎちゃんのことを紹介する。


 最初は同僚と言う単語に驚いていたが、二十歳だと知ってからは驚いたことなど露ほども感じさせずに会話している。

 なんてそつのない人なんだ。ちょっと見習いたいな。


「おおぉーっ!」


「なんだ?」


「誰だ、あのひとは?」


 どよめきと疑問の声が響き渡る。


 一際大きな声の方を振り向く――その途中で信じられないものを目の端に捉えた。空中に女性が浮いている。しかも美人だ。

 インターネットで見た、北欧のモデルのような容貌をしている。


『皆さん、事情をご説明いたしますので静かに願います』


 頭の中に直接、無機質な女性の声が響いた。あの空中に浮いている女性の仕業か? まあ、それ以外考えられないよな。


「おいっ! どう言うことなんだ? 納得のいく説明をしろよ」


「これって誘拐? 拉致? 許されないよね?」


「私たちに何をさせようと言うんですか? 基本的に自由人なんですよ、私たちは」


「事情を説明しろ、事情をっ!」


「帰せよっ! もとの世界に帰してくれっ!」


 数名ほどが女性の言葉を無視して騒ぎ出した。

 そこには大声で高圧的なもの言いや空中に浮く女性に向けて、したり顔でクレームを言う――周囲に嫌悪感を振りまく男たちだ。なかには理解不能なクレームも聞こえてくる。

 

 先ほどまでの不安や戸惑いの色はわずかだ。

 対話すべき相手が出てきたこと、その相手が若い女性と言うこともあってか強気になっている。


 だが、次の瞬間、無数の罵声と怒号により騒いでいた男たちが逆に糾弾される。そして言葉と物理により袋叩きにされ、次いで静寂が訪れた。

 皆、話を聞くことの重要性を理解している人たちである。


 そうだ。今はこの女性の話を聞くことが最優先事項だ。質問はその後でも良いだろう。俺は女性の言葉を聞き漏らすまいと全神経を集中させた。


『ご協力ありがとうございます。では、ご説明を始めさせて頂きます』


 そう言うと彼女は皆に向けて説明を始めた。


『先ず、皆さんにはこれから異世界へと転移していただきます。


 転移する異世界は二つのうちいずれか一方で選択することは出来ません。完全にランダムです。

 転移する異世界はどちらも今夜登録していただきましたVRMMOに酷似した世界ですので、いまさら説明は不要と判断いたします。


 転移にあたり、言語には不自由しないよう配慮いたします。

 人ひとりが一年間ほど生きていけるだけの通貨と衣服、武具はお渡しいたします。


 生きていくために必要な力は皆さん自身が既にお持ちの力となります。皆さんには能力――相手のスキルを読み取るスキルと、自身のスキルを隠すスキルをお渡しいたします。それ以外でこちらから新たに 何らかの力を与えることはございません。

 キャラクターメイキングで取得した能力はそのままあちら側――異世界で使うことができます。



 目的は異世界を救い、存続させること。

 必須のミッションはダンジョンの攻略。

 戦う相手は同胞。



 では、転送致します』


 質問や抗議の声が聞こえたような気がするが、周囲の景色が草原に変わるのに合わせてその声は風の音と入れ替わっていった。

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