聖王伝説~地球に選ばれた勇者の話~

ミヤイリガイ

プロローグ 戦火の中に咲く一輪の花

 今から20年前の2000年。

 平成の時代、戦争なんてもう無いだろう。誰もがそう思っていた。しかし、戦争は起こった。人類対異星人の戦争だ。彼らの侵略から地球を守るための戦争戦いは、あらゆる化学兵器を用いて迎え撃つも圧倒的な力である異能により人類はギリギリの戦いを知られていた。地上の家屋やビルが壊され人々の生活はかなり困窮していた。

 当時、ガルド星人侵略部隊の団長だったアレクは、戦火により廃れきっていた日本に降り立つとそこで一人の少女と出会う。建物の焼け跡にある大きな炭となった柱に背もたれていた少女は、綺麗な金色の髪が腰まで伸びている。その姿は、ガルド星に居ては見る事の出来ない珍しい光景だった。実に美しいと感じていたアレクは、腰に携帯した銃に手をかけながら少女に声をかける。

「両手を挙げてこっちへ来い」

 すると、少女は無言のまま手を挙げてゆっくりとアレクの方を見る。食糧不足のせいか、痩せ細った小柄な体にやつれた頬をしているが、茶色の瞳には、激しい怒りを抱えながら少女は、眉間に皺を寄せながらアレクを睨む。きっと恋に落ちたのはこの時だとアレクはずっと思うのだろう。環境や他者による妨害にも屈しない精神力。彼の中で少女の存在が大きくなる。

 そんなアレクの気持ちとは裏腹に少女は腰に携帯した長剣を鞘から抜きゆっくりと立ち上がる。傷つき倒れても何度でも立ち上がるそんなこの星の人々にアレクは、何度も心を打たれていた。その中でも少女の立ち姿はまさに戦場に咲く一輪の花。

「──死ね!」

 花には棘がある様に少女は、敵であるアレクに向かって叫ぶ。

 少女の第一声が死ねとは……

 いままで数多くの星を侵略してきた実績を持つエリート部隊の団長アレクとってこれほど胸に突きささる言葉はない。

 アレクは侵略行為が嫌いだ。自分達の私利私欲の為に他の人たちを蹂躙なんて本当はしたくない。けど、その意志は儚く散った。たまたま彼には、ガルド星最強の実力がありそれが周りに認められた彼はみるみる逆らえない立場にまで上り詰めてしまう。

 そんなアレクのことを侵略してきた悪魔かのように睨んでいる少女は、手にした長剣の先をアレクに向けながら突進する。

 いつもなら、躱して背後に回ってから銃を抜き確実に相手を仕留める。けど、今のアレクはどうしてか目の前で命を奪おうとする少女の事を殺す気にはなれなかった。気が付けば、腰に携帯していた銃を放り捨て、両腕をあげていた。自分でもこの様な行動に出た事を不思議に思うもやはり、侵略すると言う行為に疲れたのだと思う。なら、最後に美しいと思った彼女に命を奪ってもらおう。アレクは、それを瞬時に考えたのだ。

 しかし、それを見た少女は、息を荒くしながらアレクの懐ギリギリのところで突進した足を止める。剣先はアレクの首に少し当たっていて一筋の血が剣先から柄へ流れる。チクッとした痛みだけがアレクを襲うがそれ以上はなく、彼の致命的にはならなかった。

「どうした、地球人。この様な攻撃では俺は死なんぞ?」

 野太いがどこか落ち着きのある声が少女に向けて発した。アレクは、懐で俯いている彼女をよく見るとその腕は震えていた。侵略してきた異星人を殺すのにも心を痛くしてくれる彼女の優しさを感じる。だが、ここは戦場だ。そんな生やさしい気持ちでは彼女は、異星人に命を狩られる。それがこの星の人々の限界なんだと気づいてしまう。

「──抵抗しない人は、殺せない」

 重い口を開きながら少女は、そう答えると、長い髪で隠れた目元から一筋の涙がこぼれ落ちた。日常が無惨にも壊され、破壊した憎き相手がそこに立っているのに少女はゆっくりと剣を鞘に収めた。しかし、侵略慣れしているアレクは一つの質問を地球人にした。

「俺がそこに捨てた銃を拾ってお前の命を奪うとか考えなかったのか?」

 侵略なんてただの騙しあいだ。相手が隙を作るのを言葉や暴力を使い隙が出来たところを一気に突く。そう言ったあらゆる精神論に恥じる行い。それが侵略だ。だが少女は、アレクに背を向けて数歩歩いてからこう言った。

「――考えているわ、けど何もしてこない人を殺す事は私には出来ない。そしてそうまでして生き残ろうとして仮に私を殺されても仕方が無い……」

 少女の言葉は一旦止まる。今の少女を見れば隙だらけだ。今すぐ自分から離れた所に捨てた銃を取れば目の前の敵を殺せる。しかし、少女は笑顔でアレクの方を振り向いた。

「けどその時は、末代まであなたの事を呪うわ!」

 初めて見る少女の笑顔。アレクは身動きすることが出来なかった。勿論一目惚れをしたと言うこともあるがそれ以前にこんな勇敢な戦士を酷い騙し合いで殺す事は出来ない。そう思った時には既に勝敗が決していた。アレクは、そんな地球人に再び問う。

「地球人、名前を聞こう」

「私の名前は、リン。リン・アラロード」

「リン・アラロード、確かに覚えた。俺の名はアレクだ」

 その後、リンに一目惚れをしたアレクは彼女の故郷である地球と同胞たちを守るべく、ガルド星侵略部隊の敵となり全面戦争の末、ガルド星人から地球を守り抜く事が出来た。

 そして地球では数多くの地球人がそこに暮らしながら平和を噛み締めて日常生活を謳歌している。

 しかし、それは表向きに過ぎなかった。

 今も尚、この美しい青い星やそこに住む知的生命体を狙おうと様々な異星人が密かにこの星へ来訪しては、侵略の準備をしている。

 我々の目の届かない所で、今日も彼らは侵略者として一日を過ごしている。




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