第3話 ピンチはチャンスⅡ

 まりんちゃんを人質にしている超美麗な死神さまとの距離、およそ十五メートル。ほんの少しでも距離を縮めようとすると……

 シロヤマが意を決して一歩、右足を踏み出してみる。すると、超美麗な死神さまの大鎌の刃が、つきつけているまりんの喉元に迫った。

 あの目は本気だ。これ以上動けば、まりんちゃんが危ない。超美麗な死神さまを睨めつけながら、シロヤマは歯噛みした。

「やれやれ……わたくしが居なければ歯が立たないとは、なげかわしい」

 溜め息交じりで落胆する男性の低い声が聞こえた。次の瞬間。

「死神たるもの、己の気配を消して相手の背後をつ。このくらいはできてもらわないと困りますねぇ」

 いつの間にか背後に忍び寄っていたセバスチャンが、りしい笑みを浮かべて、引き抜いたサーベルの先端を、超美麗な死神さまの首筋につきつけながらシロヤマを窘めた。

「セバスチャン!」

「見るも無惨な状態になる前に、彼女を解放してもらいましょうか」

 眼光鋭く、セバスチャンがどすの利いた声を出す。殺伐としたセバスチャンを脅威と感じたのか、無言でゆっくりと大鎌を降ろし、超美麗な死神さまはまりんを解放した。解放された瞬間、まりんは駆け出した。

「まりんちゃん!」

 前方に向かって思い切り駆けたまりんはそのまま、名を叫んだシロヤマの後ろに隠れた。

存外ぞんがい、あなたも素直な死神かたですね」

 超美麗な死神さまの本質を見抜き、クスッと笑ったセバスチャンは次の指令を下す。

「では、あなたが今、右手に携えている大鎌を、前方にいるガクトくんに向けて、手放してもらいましょうか」

 手厳しいセバスチャンの指示に従い、観念した超美麗な死神さまはシロヤマの方へ、大鎌を投げ出す。

 スー……と畳の上を滑る黒い大鎌が、固唾かたずんで見守るシロヤマの足下に到達し、おもむろに腰を屈めて拾い上げたシロヤマの手に収まった。

「いいこですね」

 耳元で優しく囁いたセバスチャンはサーベルを降ろし、畳の上に投げ捨てると、ガバッと超美麗な死神さまを抱きしめた。

「私からの、ご褒美ほうびです。死神になって、三百年以上になりますが……これほどまでに扱いやすい死神に出会ったことはありません」

 愛情を込めて、後ろからぎゅっと抱きしめるセバスチャンは

「おかげで、私との契約がスムーズに完了いたしました。この瞬間からあなたは、私の命令無しでは動けません。身も心も全て、私にささげなさい」

 まるで超美麗な死神さまを愛するような、優しい口調で最後の指令を下した。

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