姉貴分と、お食事

「……炊いた米と味噌汁がテーブルに並んでるのを見るのっていつぶりだっけな?」


「獅子堂先輩? 普段、何を食べて生きてるんですか? 肉だけを食べて生きていけるのはガチの肉食動物だけですよ?」


「大丈夫だ、牛丼とかよく食べるし。あれは玉ねぎ入ってるし、味噌汁も付いてるだろ?」


「何も大丈夫じゃねえ……! あの、すいません。今度ガチでウチのタレント全員にご飯の炊き方と味噌汁の作り方を教える回をやりたいんですけど、どうにかなりませんか?」


 そんなこんなで完成した鶏の照り焼き+炊き立てご飯とお味噌汁のセットが並べられたテーブルに着きながら、思っていた以上に壊滅的な事務所内の自炊事情に思いを馳せた枢がスタッフへと直談判をする。

 少し前に放送した『おかわり!』の内容を振り返り、上と下の格差が半端ないことになっていることを再認識したスタッフたちも所属タレントの健康を守るために料理講習を本格的に検討した方がいいのではないかと思う中、マコトが自作の料理を見つめながら口を開いた。


「でも、そうだな。こうして出来上がった料理を見てると、なんかやってやった感がすごいな。料理だなんて女の子っぽいことをするのって久々だし、上手くできたら達成感も味わえていい気分だ」


「でしょう? この調子で獅子堂先輩も自炊を習慣化させてください! で、野菜もしっかり食べてくださいね!」


「アタシ、できない約束はしない主義なんだ。とりあえず、料理が冷める前に食べるぞ!」


 綺麗に枢の発言をスルーしつつ、番組を進行するマコト。

 確かにこれ以上、この話題を続けて折角の料理が冷めてはもったいないと考えた枢もまた、彼女と共に食事を堪能し始める。


「じゃあ、いただきます!」


 手を合わせ、元気に挨拶をしてから箸で切り分けた鶏の照り焼きを摘まみ、それを口へと運ぶ。

 自作の料理を頬張ったマコトは小さく、そして満足気に唸ると、歓喜の感情を滲ませた声で感想を述べる。


「美味いね。アタシが作ったとは思えない出来だ」


 甘じょっぱいタレが絡んでつやつやとした光沢を放つようになった鶏肉は、見た目だけでなくその味も抜群だ。

 火もしっかりと通っていて、立派過ぎるその出来具合に感心したマコトが鶏肉をおかずに白米を頬張る中、枢が口を開く。


「本当に上手にできてますよ。完璧に近い出来です。流石は獅子堂先輩だ」


「ははっ、褒めても何も出ないぞ? でもまあ、褒められて悪い気はしないな。ありがとう、枢」


 弟分からの褒め言葉にクールに対応しながら、鶏肉を頬張るマコト。

 美味しい物を食べていると機嫌が良くなるものだと思いながら、彼女は料理ではなくこの番組に出演した感想も述べていく。


「前々からこの番組のことはチェックしてたけど、実際に出てみると見ていた時とはまた違った面白さが発見できるな。いや、当たり前っちゃ当たり前の話なんだけどさ」


「そう思っていただけたら本当に嬉しいですよ。楽しんでいただけて何よりです」


「出演するまではちょっと不安ではあったんだよな。アタシは愛鈴みたいに面白い感じにはできないし、これまでお前がフレンドリーに相手できるゲストばっかりだったわけだろ? そんな中にアタシみたいな先輩らしい先輩が出てきたせいで変に委縮とかされないかなとか、番組が盛り上がらなかったらどうしようかとか考えてたんだけど、杞憂だったわ」


「比較対象がおかしいんですよ。っていうか、獅子堂先輩が普通に料理するってだけでもそれはそれで面白いと思いますし。番組を盛り上げるのはメインパーソナリティーである俺の役目ですしね」


「やるな。流石はデビュー早々に冠番組を持ったタレントだ」


 真面目な性格というか、ワイルドに見えて普通に真人間なマコトは番組の盛り上がりについて心配していたようだが、実際に出演してみてそれが杞憂だったことに安心しているようだ。

 野菜嫌いネタで笑いも取れたし、確かに枢の言う通り、女子力とは縁がない自分が料理しているというだけで興味を持つ者もいるだろうなと考えた彼女は、既に半年以上この番組でゲストを相手にしながら教師役と司会を務めている弟分を褒め称える。


 ただまあ、未出演のゲストのことを考えると、彼の苦労はまだまだこれからが本番だなと考えながら苦笑したマコトへと、枢がこんな質問を投げかけた。


「そういえばなんですけど、そろそろ年末の3Dお披露目&ライブ配信が控えてるじゃないですか。この回が放送される頃にはそれも終わってると思いますけど、一大イベントを目前とした今の気持ちってどんな感じですか?」


「ぬるっと聞いてくるな、おい。脈絡なんもなかったぞ?」


「すいやせん。スタッフさんたちがもう少し取れ高が欲しそうな顔してたんで、MCとして動いてみました」


 三下っぽくそう言う枢に対して、仕方のない奴だなと苦笑を浮かべるマコト。

 しかし、ここで話をすることで気持ちに整理を付けるのもいいかもしれないと考えた彼女は、一呼吸間を空けた後でライブに向けての今の自分の心境について枢と番組スタッフへと語り始めた。

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