おおいぬ座の、夢

 ……ぶっちゃけた話をするとそんな儀式はないのだが、メグは何か勘違いをしているようだ。

 しかし、先の配信でマナも自分の夢をリスナーたちの前で堂々と発表していたことだし、止める理由も見つからず、彼女の夢に興味を持ってもいるリスナーたちは抜群のチームワークを発揮すると、メグの勘違いをそのままにしておくことにした。


【よし! では、聞かせてもらおうか! おおいぬ座の夢とやらを!】

【わきゅわきゅ! どきどき!】

【この瞬間はこっちも緊張しちゃうな……】


『あ、えっと、そうは言ってもマナちゃんみたいにはっきりとこれ! って言えるものがあるわけでもなくってですね……ええっと、どう説明すべきなんでしょうか……?』


 勢いよく話し出したまでは良かったものの、そこから続く言葉が出てこずに狼狽するメグ。

 リスナーたちがそんな彼女を落ち着かせるべくコメントを送る中、自分なりに言葉を選んだ彼女がこう話を始める。


『スタートから失敗しちゃったり、さっきから励まされてばっかりな私を見ていて、皆さんもお気付きだと思うんですが……私、元の世界では本当に叱られっぱなしの役立たずでして……猟犬としても番犬としてもダメダメな犬だったわけなんですよね』


【緊張しいなだけなんじゃないかなと思うけどな】

【う~ん、失敗が失敗を呼ぶパターンと見た!】

【正直、一回ミスると落ち着かなくなっちゃう気分はわかる】


『それでまあ、そのですね。怒られて凹んで、そういう時に見たVtuberさんの配信が心に染みまして……私も誰かの心を明るくしたいって、そう思うようになったんです』


 自分の過去について語るマナが、Vtuberの配信を通じて自分が救われたことを告白する。

 憧れの存在から、その光に手を伸ばしたくなったと、そう暗に告げた彼女はリスナーたちへとこう続けた。


『自分に何ができるかなんてわからないですし、今も皆さんに励まされてばっかりで夢の実現には程遠いですけど……少しずつ、学んでいきたいです。自分にできることを増やして、【CRE8】の発展に貢献できる人間になって、ファンの皆さんの気持ちを明るくできるようなVtuberになりたいって、そう思ってます』


【いいじゃん! 素敵な夢だと思うよ!】

【もうこの時点で俺の心は明るくなってるから、その夢は叶ってるかも】

【何を以て達成したかと問われると答えるのが難しいけど、配信を通じて前に進んでることが俺たちにもわかる夢だと思う。頑張って!】


『あの、本当にありがとうございます。冒頭からそうですけど、皆さんの応援にとても救われてます。いつかは活動を通じて、恩返しができるように頑張りますね』


 そう言って、柔らかく微笑むメグの姿には、見る者の心を和ませるものがあった。

 きっと彼女は目標を高く設定しているのだろうが、それだけVtuberとしての活動に真剣に取り組もうとしているということなのだろう。


 コメントでも言われていた通り、何を以て叶えたと定義するのは難しい夢ではあるが……一歩ずつ前に進む彼女の姿に、心惹かれる人たちは少なからずいるはずだ。

 そういった人たちに希望を与えられる星になりたいと、そう語るメグにはリスナーも惜しみのない応援と賞賛のコメントを送っている。


【メグお姉ちゃんが凹んだ時に見たVtuberってCRE8所属のタレントなの?】


『あ、はい。そうですよ。ただやっぱりここでお名前を出すと迷惑だと思いますので、頃合いを見て、発表させていただきますね』


【やっぱりその人とコラボとかしてみたい?】


『それはまあ、そうですね……いや、でもやっぱり恐れ多い気がしてご迷惑を掛けちゃう気がするので、コラボは暫くは無理そうだなぁ……』


【誰なんだろう? 気になる】

【この辺の予想を楽しみつつ、答え合わせも楽しみにしてるわ!】

【いいじゃん。CRE8のこれまでの活動を見て、憧れた人がやってきた。Vtuberも星座も繋がってるって感じがして、素敵やん】


『わ、わ、わっ……! お、思っていた以上に反応があって嬉しいですけど、この話で盛り上がり過ぎるとタグとかファンネームを決める時間がなくなっちゃうので、この辺でストップしましょう! あ、改めて、初配信、よろしくお願いします!』


【は~い! りょうか~い!】

【色々決めて、これからの活動に備えよっか!】

【リレー配信は時間がきっちり決まってるからね。リスナー側も配慮が大事】


 どうにかこうにか、盛り上がるリスナーたちを制して初配信の中ですべきことをやり始めるメグ。

 リスナーたちもそんな彼女に協力し、タグやファンネームの案をコメントで出し始める。


 マナの配信ほどの爆発的な盛り上がりはないかもしれないが……これはこれで、理想的な配信の形の一つだ。

 バトンを渡す側であったマナの配信が驚異的なまでに盛り上がったからこそ、こういった落ち着いた雰囲気の中で話ができる初配信の良さが引き立てられている場面を見るに、二人の相性は非常にいいことがわかる。


 性格、容姿、夢が具体的か抽象的か、そういった数々の要素は本当に正反対だ。

 しかし、だからこそ……マナとメグは最高の姉妹なのだろうと思いながら、リスナーたちは緩やかに流れるこの時と配信を楽しむのであった。

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