三期生、『トライヴェール』

 『トライヴェール』……【CRE8】三期生としてデビューする三人のタレントたちで構成されるユニットの名前がそれだ。

 三角を意味するトライと冬を意味するイヴェールを組み合わせて作られたユニット名の通り、こいぬ座、おおいぬ座、そしてオリオン座という冬の大三角形を構築する星座たちをモチーフにデザインされた彼らは、デビュー配信の日を目前に控えていた。


 既に公式サイトで名前や設定が公開されると共に、配信プラットフォームやSNSにはアカウントも設立されている。

 しかし、声に並ぶVtuberの目玉の一つである2Dモデルに関しては未公開のままで、秘密に包まれた三期生に対してはファンたちも期待を募らせると共に初配信の日を今か今かと待ち侘びていた。


 そして今、零の目の前には後輩としてデビューするタレントの一人であるマナ・ハウンドこと轟紫音がいる。

 彼女と予想外の出会い方をしてしまったことを驚きつつも、零はもう少し記憶を探って後輩の設定を思い返していった。


 マナ・ハウンド……異世界出身の獣人。メグの妹。

 気ままな性格で何を考えているかわからない、自由(獣)人。面倒を見てくれる姉やオリオンの手を常に焼かせている。

 こちらの世界に来てしまったことに関しても特に気にしていない様子で、むしろ日々を楽しんでいる模様。

 折角なのでこちらの世界で沢山の友達を作りたいと思っている。


(う~ん、確かに自由人な上に何を考えてるかわかんねえなあ……)


 元々、【CRE8】に所属するVtuberたちはその魂を担当する人間に合わせて容姿や設定がデザインされているが、紫音ことマナの場合は今までの誰よりも中と外の差が小さいのではないだろうか?

 というよりも、素の性格がアニメキャラやVtuberの設定に近しい紫音は、異世界出身の獣人という部分を除けば、ほぼほぼマナそのものといっても差し支えがなさそうだ。


 まだVtuberとしての立ち絵は見ていないが、紫音もかなりの美少女であることは間違いない。

 どこか眠そうな印象を受ける垂れ目はぱっちりとしているし、他のパーツもかなり整っている。


 ほとんど表情が変わらないところが残念ではあるが、初期のリアのような無口キャラが受けていたことを考えると、これはこれで人気が出るかもしれない。

 背丈的には低めではあるが有栖や陽彩のようなロリ身長というほどではないし、そういった意味でも今の【CRE8】にはいないキャラかもしれないなと考えながら、零は念のための質問を紫音へと投げかけた。


「……一応、聞いておきたいんですけど、薫子さんからは俺にご自分の正体を明かしても大丈夫だって言われてるんですよね?」


「はい。引っ越しのご挨拶をする際にそういったお話もするだろうからと、寮住まいの阿久津先輩、入江先輩、喜屋武先輩にはお話しても大丈夫だと許可は頂いてます。ついでと言ってはなんですが、この後で私……というより、マナの姉であるメグ・ハウンドの中の人も挨拶に来る予定です。わんわんお~」


 紫音のその言葉に深いため息を吐く零。

 有栖の時もそうだったが、こういう人を寄越す時には薫子には一言連絡をしてほしいものだ。


 自分や沙織はまだしも、あまり女性と話すことが得意ではない有栖に事前予告なしで後輩と二人きりで対面させるというのは難易度が高い。

 あるいは、自分にだけサプライズで彼女たちと会わせるためにわざと伝えなかった可能性もあるが、それはそれで腹が立つ。


 まあ、そのことを紫音に言っても仕方がないなと気を取り直した零が、とりあえず納得するためにうんうんと何度も頷いていると……?


「おっ? またチャイムが……?」


「来たみたいですね。私も一緒にお迎えしましょう。いざ鎌倉、じゃなくて、玄関」


 ぴんぽ~んという軽快な音がリビングに響き、来客を零たちへと告げる。

 先ほど紫音が言っていたメグの魂を担当する人物が挨拶に来たのだろうとあたりをつけた零は、先んじて玄関へと向かった紫音の後を追って玄関へと向かうと、軽く返事をしながらドアを開けた。


「はいはい、すいません。今、開けますね。ちょっとだけお待ちを……」


 少しフランクな雰囲気で声をかけつつ、ゆっくりと玄関の扉を開ける零。

 そこに立っていた女性は彼の姿を見るや否や、ガチガチに緊張した様子で挨拶の言葉を口にしてきた。


「ははははは、はじめましてっ! こ、この度、こちらでお世話になることになりました、ううう、臼井伊織うすい いおりと申します! みじゅ、未熟な後輩ではありますが! ど、どうぞ、よろしくお願い申し上げ奉りますっ!!」

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