CRE8Animation【歓迎会をやろう!】

清川乙女の、陳情

「忘年会も新年会もないなんておかしくないっ!?」


 【CRE8】の事務所、その一室に集まっていたメンバーは、唐突に妙なことを叫んだ乙女へと冷ややかだったり驚いたりした視線を向けている。

 雑誌をめくっていたマコトがはぁ、とため息を吐く中、多少の困惑を表情に浮かべた枢がそんな彼女へと声をかけた。


「清川先輩、急にどうしたんですか? なんか悪いものでも食べたんですかね?」


「気にすんな。時折ああなるんだ。発作が起きたと思って放置しとけ」


「そこっ! そんな辛辣なこと言ってないで少しは私を気にしろよ! 私の嘆きを聞けって!!」


 冷ややかな視線を浴びせるマコトと枢のコンビを指差しながら叫んだ乙女がぶんぶんと腕を振り回しながら不満を露わにする。

 放置しても触れても面倒くさいことになるんだろうな……と、この場に集まっている面々がそんなことを思う中、優しい芽衣がおずおずとした様子で乙女へと声をかけた。


「あの……清川先輩は何がそんなにご不満なんですか? 私で良ければ、話を聞きますけど……」


「芽衣ちゃん! やっぱり芽衣ちゃんは優しいね~! 他の(自主規制)共と違って、天使そのものだわ~! あ~、癒される~! ハグしちゃお、ハグ! ぐえっ!?」


 ピー音が入るほどの汚い言葉を口にした直後に芽衣へと抱き着こうとした乙女であったが、動き出したその瞬間にマコトから強烈なボディブローを食らってその場に崩れ落ちた。

 自主規制レベルの暴言を浴びせ掛けられた彼女は蹲る乙女の傍にしゃがみ込むと、怒りを露わにしながら問いかける。


「あんまり調子に乗るんじゃねえぞ、次は本気でいくからな。で? お前は何が悲しくてこんな馬鹿みたいな真似をしてるんだ?」


「ぐっふっ……! ちょっとタンマ、マジでいいとこ入ったぁ……!!」


 げほっ、ごほっと咳き込んだ乙女が、痛みを忘れるべく深呼吸を繰り返す。

 そうして落ち着きを取り戻した彼女は顔を上げると、マコトをはじめとしたこの場の集った面々へと自身の不満を訴えていった。


「今年も始まってそこそこ経っちゃったからあれだけどさ~、この時期に忘年会も新年会もやらないっておかしくない!? 一年お疲れ様でした~! とか、今年もみんなで頑張ろうね~! とかの意識がないのか、ウチの事務所は!?」


「しょうがないだろ。年末はアタシたちの3Dライブで忙しかったんだし、そんなことやってる暇なんてなかったじゃないか」


「忙しかったからこそでしょ!? 労をねぎらうとか、大変だったライブの打ち上げとか、そういうのをやってもいいわけじゃん! 私たち頑張ったよね? だったら少しくらいご褒美寄越せよ、運営!!」


 くるっと振り返り、この動画を見ているであろう視聴者……もとい、事務所運営に対して訴えかける乙女。

 アニメの中でも自由奔放な姿を見せる彼女の言動にため息を吐くマコトであったが、芽衣は乙女の訴えに同情しているようだ。


「言われてみれば、確かに可哀想ですよね……先輩たちも頑張ったんだし、事務所のみんなでねぎらってもいいと思うんですけど……」


「でしょ~? まあ、芽衣ちゃんが個人的に私をねぎらってくれるのならそれはそれで構わな……むぎゅっ!?」


「まあ、気持ちはわからなくもないっすけどね。ただ、清川先輩の個人的な欲望が透けて見えるから、いまいち賛同しにくいっていうか……」


 またしても芽衣へと迫ろうとした乙女をクッションを挟んで撃退した枢が難しい表情を浮かべながら言う。

 単純に酒が飲みたいという欲望に従っての発言なのであろうが、普段の言動が言動だからな……と枢が考える中、バーンと音を立てて部屋の扉が勢いよく開き、そこから数名の人物が姿を現した。


「乙女ちゃんのその願い、しかとこの耳で聞いたよっ!」


「ささっとお悩み解決しちゃうさ~!」


「いえーい! 飲み会だ~! 打ち上げだ~っ!」


「おっ、お前らっ! 私のピンチに駆け付けてくれたのかっ!?」


「……どこもピンチじゃなかったと思うのは俺だけですか?」


「諦めな、枢。このノリは逆らえないパターンだ」


 どこぞの魔法少女戦隊よろしく決めポーズを取りながら部屋に入ってきた早矢、たらば、紗理奈の三人へと、オーバーなリアクションを見せる乙女。

 ツッコミ役である枢とマコトが早くも役目を放棄する中、一同を代表して早矢がこんなことを言ってみせた。


「新年会も忘年会もシーズンは過ぎちゃったかもだけど、みんなで集まってわいわい飲み会はしたい! というわけでやろう! はい! やることが決定しました!」


「かなり強引に話を進めてるけど、どうするつもりだ? アタシらが個人でやるならまだしも、そんな大規模な飲み会をやるなら相応の理由が必要だろ?」


「ふっふっふ~……! 安心して、マコトちゃん! うってつけの理由があるから!」


 みんなで集まって飲み会をやるにしても、そのための理由付けがほしい。

 新年会や忘年会はシーズンが過ぎているし、3Dライブのお疲れ様会ならばビッグ3以外の面々は参加させる必要がないため、その理由としては薄いだろう。


 という、マコトの指摘に対して得意気に笑った早矢は、もったいぶった様子を見せた後……用意しておいた飲み会の大義名分を発表する。


「飲み会をやる理由、それは……三期生の歓迎会だ~っ!!」



―――――――――――――――


今回の短編はこのお話ともう一本を予定しています。

ただ、七部のお話で使おうとしていた展開とそっくりなことが現実で起きてしまったので、ちょっとシナリオを練り直すかもしれません。(もう面倒なので開き直るつもり満々)


ギフトのリクエストへの返礼にもう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

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