二期生・愛鈴について

「愛鈴はな……色々悩んだと思うんだよ。初対面の時、アタシ結構ひどいこと言っちゃったんだよな。時期的に本人も苦悩してて、その状態で先輩のアタシが追い打ちかけちゃったことを今でも申し訳なく思ってるわ」


「あ~ね。マコトはなあ、口が悪いってわけじゃないんだけど、雰囲気が結構強めだからか人一倍威圧感があるからってのもあるからなあ……」


「その後も本当に色々とあって、大丈夫なのかなって心配してたけど……周囲の助けを借りながら自分の中の悩みとかを解決して、這い上がってきたあいつを見てると、頑張ってるなって思うんだよな。アタシはあいつのそういうところを買ってるよ」


 初対面の時のことを振り返りながら、そこから続く一連の事件に思いを馳せつつ愛鈴について語るマコト。

 乙女が彼女の話に頷きで反応を見せる中、早矢もまた後輩について話し始める。


「あとは演技も上手だよね。演じる幅が広いっていうかさ、大体のキャラは演じられちゃうイメージ」


「そうそう! 普通の女の子からアイドルキャラにギャグキャラ、声劇に関してならショタもいけるし、紗理奈が一人いると助かる演者って名前を挙げてたね!」


「本人は昔、はまり役みたいなのが見つからなくって悩んでたみたいだけど……逆に考えるとそれって大体のことはそつなくこなせる器用さがあるってことでもあるんだよな。その後に貧乏ってワードがつきがちだからネガティブに捉えちゃうだけで」


「ボイスとかも買って聞いてるけど、本当に上手だよ。それに、毎回きっちり仕上げて提出してるしさ」


「枢とかクリスマスボイスが初めての販売だったんだっけ? 間違いなく需要はあったし、なんだったら要望も多く届いてたのに、今まで乗り気じゃなかったからな……」


「まあ、それを言ったらあいつの母親が一番サボってるんだけどね。一年以上Vtuberやってきた一期生の中にも一回や二回だけしかボイス販売してない人とかもいるし、そこはまあツッコめないよね」


「自分の勉強の場でもあるんだろうけど、デビューしてから欠かすことなくボイスの提出を続けてるじゃん? 忙しさにかまけて何度か提出しなかった身からすると、愛鈴ちゃんのそういうところって本当にすごいし、真面目な子なんだな~って思うね」


 真面目なのは間違いない、と早矢の言葉に同意する二人。

 悪い言い方をすると小心者ということになるのだが、それでも自分の夢に向かって頑張る彼女もまた、たらばと同じく応援したくなる存在だ。


 長きに渡る苦悩の果てにようやくというものを見つけ出せた愛鈴を見ていると、本当に良かったと思える。

 同期たちに囲まれて楽しく活動を続けている今の彼女は、とても眩しく見えた。


「いい三下だよ。私の後継者はあいつになるんだろうな~……」


「いや、あいつはお前と違って真面目だから。下ネタも連発しないし、いきなり周りの女の胸を揉んだりしないから。勝手に後継者にしてやるな」


「あはははは! でもほら、事務所の有名な先輩から後継者として指名されたら嬉しいんじゃない?」


「こいつの後継者って不名誉極まりない称号だと思うけどな。酒、女、私生活、だらしなさのオンパレードだろ」


「な~にが悪いんだよ!? ちょっとだめなところがあった方がかわいいだろうがよ!?」


「う~ん……それはちょっとで済むレベルじゃないって、私も思うな!」


 最後に語った乙女への鋭いツッコミが飛び交う中、マコトは腕を組むと神妙な顔になりながらぼそりとこんなことを呟く。


「いや、待てよ……? 愛鈴の奴も結構私生活が壊滅的だったような気がするぞ? 家はほぼ汚部屋状態だって話らしいし……」


「あ~、そういえばそんな話を聞いたね。なんか噂によれば、使い方をミスって電子レンジを破壊したとかなんとか」


「ほ~ら! あいつも私とそう変わんないじゃん! 酒でやらかしたこともあったし、あとは女に溺れさせるだけだな!」


「いや、愛鈴ちゃんがこのまま悪い意味で成長していった場合、辿り着くのは乙女ちゃんじゃなくって……しゃぼんさんじゃない?」


 ああ~、という納得の声が演者、スタッフ双方から漏れる。

 なんだか各方面に流れ弾が飛んでいる気がしなくもないが、いい感じにオチが付いたところで乙女がここまでの話を総括するように口を開いた。


「まあ、なんだ。愛鈴はその頑張りを私生活の立て直しにも向けてくれ! じゃないと、しゃぼんさんみたいになるぞ! 汚部屋がゴミ屋敷にレベルアップしちゃうから、気をつけなはれや! ってことで、次に行こうか!」


 ちょっぴり雑さを感じるまとめ方だが、愛鈴の場合はこれでいいのだろう。

 早矢たちも苦笑を浮かべてはいるが特に乙女の総括にツッコミを入れることなく、彼女の言う通りに次の二期生についての話をしていく。


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