なんか、先輩が燃えたんですが

「え……? えええええっ!? え、え、え、炎上っ!? どどど、どうしてっ!? なんでっ!?」


 予想外の答えにわかりやすく動揺した零が咳き込みながら有栖へと詳しい説明を求める。

 そんな彼の反応に逆に慌てた有栖は、どうどうと零を落ち着かせながらこう釈明をしていった。


「ごめん! 紛らわしかったね。燃えてるのは私でも零くんでもなくって、馬場先輩なの。でも、あながち無関係ってわけじゃなくって……」


「馬場先輩が? あの人、今回は何をしたの?」


 まさかとは思うが、自分たちが二人きりで鍋を囲んでいるのがバレたのでは……と不安になった零であったが、炎上しているのが自分たちではなく流子であることを聞いて落ち着きを取り戻した。

 だが、自分たちに関係がある話題で彼女が燃えているとの有栖の言葉に意味がわからないと困惑する彼に対して、有栖が自身のSNSアカウントに投稿した呟きを見せつつ説明をしていく。


「えっとね……買い物に行った時、【今日の夜ご飯はお鍋にします】ってSNSで呟いたんだけどさ。馬場先輩、その呟きに対してこんなコメントを送ってきてて……」


 そう言いながら、自身のスマートフォンの画面を零へと見せる有栖。

 そこに表示されているコメントを目にした零は、ぐっふっ! という妙な音を響かせながら咳き込むと共に反応に困ったような表情を浮かべる。


【芽衣チャン( ´艸`) 今日の夜ご飯はお鍋にするんだネ(;^ω^) 乙女先輩も一緒に食べたいナ~♥♥♥ 一人でよりも二人で突いた方がお鍋は美味しいし、楽しいと思うヨ( ^)o(^ )食後は芽衣チャンのことを食べたいかなって(なんちて)♥♥♥ 最近すごく寒くなってきたし、今日は二人でぽかぽか温まろうネ(*^▽^*) チュッ♥♥♥】


「え、ええっと……? うう~んと……?」


 実にコメントに困る内容だ。流子が送ってきたメッセージは俗に言うというやつで、なんとも言い難い気持ち悪さが文面からにじみ出ている。

 まあ、彼女も当然ながらギャグでこんなことを言っているのだろうが、それを理解できない人や理解していても文句を言いたくなる人間も多くいるようで、このメッセージに対するファンたちの反応を見た零は、予想通りのその内容に乾いた笑いを漏らす。


【流石にキモイ。尋常じゃなくキモイ】

【女性恐怖症かつ仲がいいわけでもない後輩にこんなセクハラじみたコメントを送るその気持ちがわからん。こんなこと言われて、芽衣ちゃんの食欲がなくなったらどうするんだ?】

【傍から見てると面白いけど、言われた側が困るのは間違いない。自分の立場とか、その辺のことを考えてほしかった】

【清川乙女、新年初炎上おめでとうございます!】

【くるめいの邪魔をするな。枢がいるんだからお前なんかが誘われるわけないだろ】


「……納得の炎上理由かな、これは。ちょっと大袈裟過ぎるような気もするけどさ……」


「先輩からもすごい勢いで謝罪のダイレクトメッセージが送られてきてるよ。私はあんまり気にしてないのに、なんか逆に申し訳ない気持ちになっちゃうな……」


 ある意味では納得の炎上理由なのだが、メッセージを送られた有栖がそこまで気にしていないことを考えると、若干流子が不憫に思えてしまう。

 やっぱり清川乙女にはアンチが多いんだろうなと思いつつ、今回は彼女に非があるから仕方がないかと思いつつ、この程度ならば少し時間が経てば勝手に鎮火されるだろうと結論を出した零がそのことを言葉に出して言えば、有栖もまた同じことを考えていたと答えた。


「でも一応、フォローのコメントは投稿しておくね。流石に先輩が可哀想だし、ノータッチなのはそれはそれでマズそうだから……」


「うん、それがいいと思うよ。しっかしまあ、有栖さんのコメントがこんな炎上につながるとはなあ……」


 やっぱり炎上って本人も周囲からも予想できない形で起きるもんなんだなとしみじみ思いながら苦笑する零。

 有栖が流子へのフォローコメントを投稿してから、少しずつ落ち着いてきたファンの反応を見てほっとした彼は、再び箸を動かして食事を再開する。


「これでなんとかなる……かな? ちょっとびっくりしちゃったけど、これ以上は燃え広がることはないだろうし……」


「お疲れ様。大丈夫だと思うから、そんなに心配しないで。気になっちゃうだろうけど、今はお鍋を食べちゃおうよ」


「うん、そうだね」


 これはもういくら気にしたって仕方がない。あとは成り行きに任せて、鎮火の時を待つしかないのだ。

 炎上のプロフェッショナルである零の言葉に頷いた有栖は、事態の鎮静化を願いつつ、再び食事を始める。

 それと同時に、恒例行事と化したとはいえ、毎回『笑える炎上』程度の騒動で事を収めている零のすごさを再認識した彼女は、やっぱり彼は炎上のプロなのだな~と思いながらもぐもぐとお肉を頬張るのであった。

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