Vtuberって、最高だ
――そこからのライブは、最高としか言いようのないパフォーマンスと演出の連続だった。
トップバッターとして場を盛り上げた早矢に代わって舞台に立ったマコトは、アイドル然とした彼女のパフォーマンスから打って変わったロックバンドとしての演奏と歌を披露する。
雷鳴のエフェクトを背景に、聞く者の魂を震わせ、燃え上がらせるような熱い歌と叫びを上げながらギターをかき鳴らすマコトの姿は、リスナーたちの心を一層熱狂させていった。
かと思えば、三番手として登場した乙女が自由気ままに、アドリブとしか思えないような大暴れを見せる。
色とりどりのライトを浴びながらライブステージ中を所狭しと動き回り、好き勝手な動きを見せる彼女はリスナーたちの爆笑を誘うと共に、それだけの動きを再現できる3Dモデルを使用しているという大きなアピールとなった。
一曲ずつ歌を披露した後は、軽い3Dモデルのお披露目が行われる。
早矢が、マコトが、乙女が、それぞれ自分の頭のてっぺんから爪先までを見せつけ、気に入っているポイントを紹介するなどしながら、三者三様に感想を言い合って自分たちの新たな体について語っていった。
いつも通りに乙女がセクハラをすれば、それを咎めたマコトが彼女の首を絞めて折檻する。
そんな二人の様子を大笑いしながら早矢が見つめ……という、事務所でお決まりになっている流れがリスナーたちの前でも行われている様を目にした零は、不思議な感覚に襲われて息を飲んだ。
バーチャルも現実も、左程変わらなくなっているこの時代。大きな隔たりがありと思っていた二つの世界には、自分が思っているほどの壁なんてないのかもしれない。
現実世界と全く同じやり取りを繰り広げる三人の姿を見ながら、二つの世界で夢を叶えようとしている彼女たちの姿を見つめながら……零は、知らず知らずのうちにマウスを握る手に力を込めていた。
【マコトの姉御のシャウト、最高でした! ギターの演奏も見れて良かったです!】
【乙女自由過ぎwww どんだけ暴れ回ったら気が済むんだよwww】
【正統派アイドルの早矢ちゃん、ロックンローラーの姉御、フリーダムな乙女……三者三様の全く違うパフォーマンスとそれを可能にしてる3Dモデルに喝采を!!】
今、このライブ配信を見ているリスナーたちも自分と同じ気持ちを抱いているのだろうか?
感動とも驚愕とも違う、心を震わせ、熱くしてくれるような不思議な感覚を覚えているのだろうか?
コメントの勢いは目で追うことが困難なくらいになっていて、同時接続数も零がこれまで見たことのない数字になっている。
何もかもが規格外で、新時代で、驚異的で……言葉にできないような感情が心に押し寄せてくる中、三人の配信は徐々に終わりへと向かっていった。
「はい! ではここで、とても大事なお知らせが……なんと! 年が明けて間もなくしたら、【CRE8】に新しい仲間が加わります!!」
「三期生のデビュー……新たに夢を追う仲間を加えて、アタシたちは今まで以上の勢いでこの世界を駆け抜けていくよ」
「もちろん、私たちもぼさっとしてるわけじゃないからね~! 年末年始を面白おかしい企画やら動画やらで盛り上げていくから、楽しみにしてろよ~! 正月衣装も用意してあるから、お披露目配信を楽しみにしててな!」
「今日、初お目見えとなった私たちの3Dモデルですが、そういったイベントが終わった後で改めて一人一人お披露目配信をさせていただくつもりです。新年も、そこから先も、私たち【CRE8】は夢を追って頑張り続けます! みんなも応援、よろしくお願いしますね! ……それでは、本日ラストの曲です。私たち三人の歌、聞いてください」
年末の挨拶と新年の宣伝、そして重大発表である三期生のデビューを告知した三人が、静かにマイクを構える。
静かに、穏やかに、これまでの激しさや無邪気さを封じ込めた早矢たちは、自分たちを応援し続けてくれたファンたちへと、感謝の歌を披露していく。
その歌はとても綺麗で、美しく、そして力強いものだった。
歌が苦手と言っていた早矢も、ロックとは似ても似つかない曲を歌うマコトも、自由奔放さを潜めさせて歌う乙女も、ありったけの想いを込めて歌い、踊っていた。
零はまだ、彼女たちのことをよくは知らない。デビューしてからこれまで、どんなふうに活動をしてきて、どんな苦悩を乗り越えてきたのかもわからない。
だが……その歌声とパフォーマンスからは、彼女たちが今日まで積み重ねてきた努力がはっきりと感じられた。
苦悩を、もどかしさを、恐怖を、幾度となく乗り越えてきたのだろう。
Vtuberとしての活動が楽しいことだけではないことなんて、零も嫌というほどわかっている。だからこそ、それら全てを乗り越えてその上に立ち、夢という名の星に手を伸ばす彼女たちの姿が、何よりも輝いて見えた。
これまで頑張って長い道を歩き続けてきたつもりだったが……まだまだ、ゴールには遠いようだ。
進むべき道の先は遠く、目指す頂は高い。簡単に辿り着ける雰囲気などこれっぽっちもないが、それだからこそ価値があるのだろう。
歩けば歩くほどに、先が開いていく。やれること、やりたいことがどんどん見つかって、あれもこれもと欲が生まれてしまう。
つい一年前は知らなかった、こんな感覚。こんなにも胸を躍らせる何かがあるだなんて想像もしてなかった頃を思い返しながら、あの頃からは随分と変わってしまった今の自分を思いながら、零は自分をここまで変えた元凶に思いを馳せ、呟く。
「マジで……Vtuberって、すっげえ……!」
諦めが身に染みていた自分をここまで欲深い人間に変えた出会い。どれだけボロボロになっても前に進むだけの理由をくれたもの。
どこまでも熱く、熱く、熱く……この胸の内に滾る大切な夢に気付かせてくれたVtuberという存在を思いながら、零は笑う。
偉大な先輩たちが積み上げた努力の結晶を見つめながら、いつか絶対にそこに辿り着いてみせると自分自身に誓いながら、早矢が言った通りの最高の一時を存分に味わった彼は、心に燃え上がる炎を強く感じるように、左胸を抑えて瞳を輝かせるのであった。
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