傷なんかじゃあ、ないさ

「そっか……この動画、ライルさんにも協力してもらって作ったものだったんだね……」


「はい。っていうかライルさんに提案されたからやってみた企画だったりします。折角だし、挑戦してみたら? って……はずかったですけど、でもこれもいい機会かなって、そう思って作ってみたんですよね」


 今はもういなくなってしまった人。枢にとって初めてできた、同性のVtuber仲間。

 崩壊した【トランプキングダム】に所属していたハートの騎士を思い返しながら手にしたグラスを煽った枢は、シャンメリーを一気に飲み干すと共に頬笑みを浮かべながら口を開く。


「あの忙しい時期に絵を描いたり編曲したり、どうやったらそんな真似できるんですかね? 本当、化物みたいな人ですよ、ライルさんは」


「……そうだね。きっと、弟分である枢くんの初めてのソロ歌ってみた動画を最高の仕上がりにしたいって思って、頑張ってくれたんだろうね……」


 きっと、ライルは色々と責任を感じていたのだろう。

 自身の境遇もそうだが、枢に歌ってみた動画を投稿することを提案した自分が彼の前からいなくなってしまうこともまたその想いに拍車をかけていたのかもしれない。


 それでも……彼は最後に枢に対して自分のできることを全て行ってからこの世界から立ち去った。

 そうして彼が遺してくれた物を使ってこの動画を仕上げた枢もまた、それがライルに対してできる最大限の恩返しだとわかっていたからクリスマスの日に動画を投稿したのだろう。


「なんかすいませんね。俺がタイミングをミスったせいで微妙な空気にしちゃって」


「いや! 別にあんたは悪くないわよ! ちょっとその、私が触れなくていい部分に触れちゃったというか、なんというか……」


 下手をこいたと大きく書かれている顔をして、気まずそうに枢へと謝罪する愛鈴。

 リスナーたちのコメントも若干しんみりとしつつ、彼への謝罪の言葉であふれ始める中、パンッ、と大きな音を響かせるように手を叩いた枢が言う。


「そんな顔しないでくださいよ。俺はライルさんのことが好きですし、引退してしまった今もその気持ちは変わりません。確かに決して気持ちのいい形での去り方ではなかったかもしんないっすけど……それでライルさんのことを触れちゃいけない過去みたいに思われるのは、俺としても望んでないっすから。昔、そういう人がいた。その人とクリスマスの夜にもう一度会えた……そういう感じであの人のことを懐かしみながら聞いてもらえたらいいなって、そう思います」


「枢……」


 それでいい。それでいいのだ。

 何も過去をなかったことにする必要はない。ライルと過ごした時間は枢にとって大切な思い出であることに変わりはないし、そのことを恥じたり秘匿したりする必要なんてどこにもないのだから。


 胸を張ろう。そして、彼という人間がこのバーチャルの世界に確かに存在していたことを語り継ごう。

 それがきっと、今の自分にできる彼への敬意の表し方だから……と思いながら、笑みを浮かべた枢が言う。


「……ま、クリスマスの夜ですし、こんなロマンチストっぽいこと言ってもいいでしょ。それに、あの人のことだから本当にどこかで聖夜の奇跡を起こしてるかもしれませんしね」


 案外、本当にライルならば……優人ならば、奇跡を起こしているかもしれない。

 そう思いながら、多少沈んでしまった空気を再び盛り上げた枢が口を閉ざす。


 動画の中の彼が歌う優しい声とその言葉を胸に染み込ませるように押し黙りながら、一同はライルの思い出を振り返っていたのだが――


「あの、ちょっといがね?」


 不意にビシッと手を挙げたリアが、枢の方を見やる。

 なんとなく彼女が言おうとしていることを理解している彼が苦笑気味に息を吐きながらリアへと向き直れば、彼女はこんなことを尋ねてきた。


「編曲どが、イラストどが、その辺のごどライルさんがやってけだのはわがったんだげど……動画編集やった人もいますよね?」


「ぎくっ……!」


 わかりやすく……というより、わざとらしくリアの言葉に動揺したことを表す声を上げる人物が一人。

 彼女もまた自分と同じくこの場の空気をどうにかしようとしてくれているのだなと苦笑する枢に向け、リアが続けて言う。


「概要欄確認すたっきゃ、movie……って書いであるんだげど!? 羊坂さん、わんどよりもはえぐ蛇道さんの歌っこ聴いぢゃーんだが? ズルぇ!」


「……てへっ、バレちゃった!」


「通りでさっきから黙ってると思った! あ~、そういうこと!? そういうことなのね!?」


 ぺろっと舌を出して、これまたわざとらしく&かわいらしくリアの言葉に反応する芽衣。

 その事実に気付いたたらばと愛鈴もまた、彼女に乗っかって場を盛り上げていく。


「ええっと、つまり……この動画はくるめいからみんなに向けたプレゼント、ってことぉ!?」


「あっ、ふ~ん……? クリスマスも仲良しでいいわね~。私たち、そろそろお暇する? 残りの時間は二人だけで過ごせば?」


「あ~あ~あ~、こんな空気になるだろうからバレたくなかったんだけどな~! 気付かれちゃったならしょうがね~か~!」


 悪びれもせず開き直りながら、今度は楽し気に笑いながら……おどけるように肩をすくめた枢は、最後にリスナーたちに向けてこうアピールしてみせた。


「つーわけであれだ。俺の歌と芽衣ちゃんの編集でお送りするこの動画、思いっきり堪能してくれよな!」


【そうする! ありがとう!】

【枢と芽衣ちゃんからクリスマスプレゼントを貰えたってことは、これつまり俺はくるめいの間に生まれた子供ってことか】

【よっしゃ無限リピートしてやるわ! クリスマスプレゼントありがとうな! 枢! 芽衣ちゃん!】


「あっ! ついでみたいで癪に障るけど、この配信が終わった後に二期生全員で歌ったクリスマスソングメドレーがリア様のチャンネルに投稿されるからそっちも見て! 聞いて! 頼んだわよ!」


「久すぶりに五人で歌えで楽すくてあっただ! みんなも喜んでけるど嬉すい!」


 少し前のしんみりとした空気が完全に払しょくされた、明るく賑やかなパーティー会場に二期生たちの声が響く。

 リスナーたちも彼らの楽し気な雰囲気に引っ張られてコメントを送り始める中、この盛り上がりを見て取ったたらばがパーティー最大のイベントの開催を宣言した。


「よ~し! じゃあ、そろそろメインイベントやっちゃおうか! 楽しい楽しいプレゼント交換会の、始まり、始まり~っ!」


――――――――――

【CRE8 STAR MAP】の方でクリスマスに起きた奇跡のお話が投稿されてますので、気になった方は読んでみてくださいね!


ついでに【忍者と姫はVtuber】という新作も昨日の更新でプロローグ部分が終わって、このお話と一緒に本格的なストーリーが始まっています!

良ければ序章を読んでもらって、感想を教えてくださると嬉しいです!

ブクマと星が貰えたらもっと嬉しい!(強欲)


とにかく楽しんでもらえたら嬉しいので、めんどくせえ共々よろしくお願いします!

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