近付く、クリスマスの気配

「――坊や? ちゃんと聞いてるっすか!? 自分、とっても大事な話をしてるんすよ!?」


「ああ、はいはい。聞いてます、聞いてますよ」


 とまあ、そんな感じで数日前の出来事を振り返っていた零は、面倒くさそうに梨子に返事をしながら顔をしかめた。

 梨子の方は一目でわかるくらいに怠そうにしている彼の態度によよよ、とショックを受けた(ふりかもしれないが)様子を見せながら、涙声で嘆く。


「ああ、嘆かわしいっす。いつから坊やはママと女心を大事にしない男の子になっちゃったんすか……!? 一年に一度のクリスマス! 恋人たちがキャッキャウフフな夜を過ごす、聖なる一日っすよ!? そこで有栖ちゃんにアタックしないでなんとするんすか!? ここは一気に勝負をかけて、二人で聖なる夜ならぬ性なる夜をっすね……!!」


「それ以上言わせねえよ!? あんた、思考がCP厨と薄い本のハイブリッドっていうめんどくささの極みに達してるって! 俺と有栖さんはそういう関係じゃあねえの! 何度言えば理解するんだっつーの、まったく……!!」


 話がシモの方向にいこうとしたところで慌ててそれを止めた零が怒気を強めながら梨子へとツッコむ。

 息子の剣幕に圧され気味になっている梨子であったが、それでも多少は言い分があるようで声を小さくしながらもこう抗議してきた。


「いやでも、なんだかんだで有栖ちゃんも期待してたりするんじゃないっすか? やっぱこう、女の子ってそういう生き物っすし……」


「ないない、あり得ません。一人だけ特別扱いされることを望むような人じゃないですよ、有栖さんは」


 ばっさりと梨子の意見を斬り捨てつつ、時間を確認してそろそろこの部屋を空けなければならないなと考えた零が後片付けを始める。

 その片手間で返事をした感というか、自分の意見をそこまで真面目に受け取っていないという彼の雰囲気に梨子は不満気な表情を浮かべていた。

 

「ちぇ~、なんだかんだで坊やも肝心なところがダメな男の子っすね~……! クリスマス当日に自分の言葉を思い出して、慌てるがいいっすよ、ふんっだ!」


「肝心なところどころか何から何までダメな加峰さんにだけは言われたくないです。クリスマス当日にあれができてない、これもできてないって慌てるのもそっちじゃないっすか」


「あ~っ!? 言ったっすね!? もう怒った! これから一緒にお買い物に行って、有栖ちゃん用のプレゼントを一緒に選んであげようかと思ったのに、もうママは協力しません! 自分一人でどうにかしなさい!!」


「なんでキレてるんですか、意味わかんないっすよ。っていうか、加峰さんが一緒だとさっきみたいな大袈裟なプレゼントにしかならないじゃあないですか」


 勝手にヒートアップする母親と、それを見て苦笑する息子。どこか本物っぽい親子の雰囲気を漂わせる二人のやり取りは、コミカルでありながら心温まるものだ。

 片付けた荷物を手に梨子と共に部屋を出た零は、事務所を歩きながら彼女へとこう問いかける。


「どうします? いい時間ですし、どっかで飯でも食べていきますか?」


「おっ、いいっすね! んじゃ、焼肉行きましょ、焼肉!! やっぱ昼は焼肉っしょ~! ひゃ~っは~っ!!」


 部屋を出るまでの不機嫌さが一変、あっという間に上機嫌になって腰をぐりんっと捻りながら背中を倒した妙なポーズでこちらへと振り向いてきた梨子の姿に、本日何度目かわからない苦笑を浮かべる零。

 女心と秋の空なんて言葉があるが、これはまた別の意味だよな……と目まぐるしく変わる彼女の心境と合致しているようでそうでもないその言葉を思いながら、零は二、三つ小言で梨子を突く。


「そうやってテンション上げてるところ悪いですけど、次の会議までに歌う曲をリストアップするための話し合いもしますからね? ただ食事するだけじゃないってことをお忘れなく!」


「うぐっ! わ、わかってるっすよ……! もう次は泣き言を言わずに話ができるようにしておくっす。自分だって伊達に二十年以上生きてるわけじゃあないっすから!」


「……本当に? 次はまともに話し合いに参加できます?」


「……次の、その次くらいまでは許してもらえたら嬉しいな~、って……! あっ!? そんな目で見ないで! ママに軽蔑しきったそんな視線を向けないで!! 一生懸命頑張るから! これでも自分、必死にやってるから! そこらへんの努力を評価して~っ!!」


 やっぱりダメ人間はダメ人間だなと、既に普段となんら変わらない態度を見せるようになった梨子の正直な反応に小さく頷きを繰り返しながら零は思う。

 まあ、彼女の言う通り、ダメ人間なりに多少はやる気を見せている部分だけは評価しようかなと思いながら……窓の外を眺め、そこから見える街の景色から少しずつ近付くクリスマスの雰囲気を感じ取った彼は、僅かに笑みをこぼしつつ、義母との食事に出掛けるのであった。


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