六番手、親友

【カミカミウオミーかわいい】

【ノルマ達成】

【今日も噛んだな(かわいいからヨシ!!)】


「ははは、コメント欄も賑わってるな。一気に雰囲気が柔らかくなったよ。ありがとう、しずくちゃん」


「ど、どういたしまして……! あっ、一期生の魚住しずくです。どうも、こんばんは……」


 登場後の挨拶でいつも通りに噛んだしずくが、恥ずかしさと緊張を入り混じらせた雰囲気で自己紹介をする。

 枢はそんな彼女をリラックスさせるように声をかけながら、自分もまた会話を楽しんでいった。


「しずくちゃんは先輩だけど同い年ってことで、芽衣ちゃん共々仲良くさせてもらってるよね。タメ口で会話できるのも大きいし、一緒にゲームやったりするのも楽しいよ」


「そ、そう言ってもらえて嬉しいな。ボクも、二人と仲良くできて嬉しいし、一緒にゲームをプレイする友達ができて本当に嬉しいからさ」


【スタバトの大会でも優勝したしね! 『Milky Way』はマジで一押しのユニットだよ!】

【これからも同い年チームでわちゃわちゃしてほしい】

【地味にくるるんが普通に敬語を使わないで話せる数少ない相手でもあるからね。本当に貴重】


「リスナーたちもコメントしてるけど、マジでしずくちゃんは貴重な相手なんだよ。俺がリラックスして話せる数少ない相手だもの」


「えっ、そうなの? ぼ、ボク、むしろおどおどしてるから気を遣わせてないか心配なんだけど……?」


「いや~……たら姉とかしゃぼん義母さんとか見てるとわかるけど、あの人たちはちょっと気を抜くとす~ぐ俺を燃やすから。その点、しずくちゃんは絡んでも俺を燃やさないでくれるほぼ唯一の相手だから本当に感謝してるよ、うん」


 現状、先輩や同期と絡むだけで炎上のリスクがある枢にとって、同い年でかつ仲良くしても友情としての面が強く見受けられるしずくは本当に信頼できる相手なのだ。

 単純に癖が強い【CRE8】所属タレントの中で、数少ないまともな性格の人間ということもあるのだろうが……それを抜きにしても、自分と普通に話して、配信をして、ゲームで遊んでも炎上の心配がない彼女は、実に貴重な存在だった。


「声をかけてくれたのもしずくちゃんからだったしね。炎上気味だったところをフォローしてくれたことにも感謝してるし、配信を見て、一緒に大会に出ようって言ってくれて嬉しかったな」


「ボクの方こそ、一緒に【ペガサスカップ】に参加してくれてありがとう。大変なことばっかりだったけど、あの日々があったからこそ今のボクがあって、大切な友達が二人もできたんだと思ってる。大会とか抜きにして、これからも枢くんと芽衣ちゃんとは色んなゲームで……ううん、ゲーム以外のことでも遊んでいきたいな」


 デビューしてからおよそ一年、コミュ障な性格が災いしてあまり人との付き合いが上手くできなかった自分に、ゲーム仲間であると同時に親友とも呼べる存在が二人もできた。

 ただ出会って終わりではなく、枢と出会えたからこそ広がった自分の可能性や未来に思いを馳せたしずくは、今の自分を取り巻く環境への深い感謝の気持ちを噛み締めながら、その想いと共に今後の展望を彼へと告げる。


 そうした後、今度は一つ歳を重ねた枢へと、この一年の目標を問いかけた。


「枢くんはどうしたい? もうそろそろ年も変わるし、何かこの一年でやりたいことってある?」


「う~ん……パッとは思い付かないかな。でもまあ、しずくちゃんとも色んなことして遊びたいし、もっともっと沢山の人たちと出会ってみたい。それができるのがインターネットっていう世界で活動するVtuberの利点だと思うしね」


【それでまた炎上する、と……枢の未来が見える見える……】

【燃えても応援するから思うがままに活動してくれよ、くるるん!】

【火炎瓶と消火器ポチっておかなきゃ……】


「お~い、なんかおかしくねえか? そこは普通に応援しろよ」


「あはは……! 枢くんは愛されてるんだね、いいなぁ。ボクも応援してもらってるけど、ちょっと羨ましい」


「いや、憧れるようなもんじゃあないよ? 何も利点ないからね、本当に」


 特別……というより、異質な関係性を築いている枢とそのファンたちの様子を微笑まし気に観察したしずくの呟きに対して、彼が冷静なツッコミを入れる。

 確かにまあ、あそこまで過度に燃やされたり、そのことに対してキレたりするような雰囲気は自分には似合わないかと思い直しつつ、しずくはこう続けた。


「あとは、そうだな……言われなくてもそうすると思うけど、芽衣ちゃんとも仲良くね。ただ、ボクの前でイチャつくのはやめてください。反応に困ります」


「いや、そんなことしてないと思うけどな……? イチャついてる、俺ら?」


「そこはみんなのコメントを見ればわかると思うよ。リスナーはいつだって正直だから」


【は? 無自覚でイチャついてんの? やっぱ夫婦じゃん】

【結婚式はまだですか? っていうか、既に執り行いましたか?】

【結婚しろください。ご祝儀はいくらでも出しますから¥20000】『いのりちゃんねる(公式)さん、から』

【正妻の隣に俺も置いてください¥20000】『Pマンさん、から』


「ええ……? 本当にそう見られてんの? マジでわかんねえわ……」


 枢と芽衣、双方の親友という立場であり、そのイチャつきの最大の被害者でもあるしずくからの苦言(?)に反応するリスナーたち。

 そのコメントを確認した枢が(本当に何故だか)首を傾げる中、クスクスと笑った彼女は改めて祝福の言葉を贈った。


「本当におめでとう、枢くん。こうして友達のお誕生日を祝えて、ボクもすごい嬉しいよ。また一緒に、ゲームしようね」


「ははっ、今度は噛まずに言えたね。こちらこそ、これからも仲良く遊ぼうよ。芽衣ちゃんも一緒に、三人でさ」


「うんっ!」


 元気に明るく、友情を感じさせる会話を繰り広げる枢としずく。

 出会えたことで広がった可能性と、結ばれた絆と、これからも続いていくであろう関係性を思わせるやり取りをリスナーたちへと見せた後、話を締めにかかる。


「じゃあ、そろそろボクも行くね。あ、えっと……ボクはA、です。多分、合ってると思うよ……?」


「別に報告しなくてよかったのに! ここで流れを断ち切る算段がーっ!!」


「ご、ごめんっ! で、でも、次に来る人、色々とやる気満々だから……ボクが言わなくても結果は変わらなかったと思うけどな……」


 お決まりのバストカップ報告まで律義に行ってくれたしずくへと、大慌てでその必要はないと告げる枢。

 時すでに遅しというやつではあるが、それでもこの妙な流れを止められる誰かを待ち続けている彼ではあるが、残念ながらもうそのタイミングはどこにもなさそうだ。


「まあいいや! しずくちゃん、お祝いに来てくれてありがとう! また遊ぼうね!」


「うん! ばいば~い! ここからも配信頑張ってにぇ! あっ、また噛んじゃっ――」


【カミカミだった上に途中で通話を切っちゃうウオミー、かわいい】

【かわいいの化身か~?】

【ウオミーが嘘をつくとは思えないから本当にAカップなんだろう。もっと小さいかと思ってた】


「最後の最後までかわいかったなぁ……なんかこう、本当に純粋に友達に誕生日を祝ってもらった感があったわ。さてさて、お次のゲストをお呼びしましょうかね。なんか、順番間違った気しかしねえけどさ」


 愛鈴からのしゃぼん、そして祈里という三連続アタックによって崩されたエモい雰囲気をしずくの活躍によって取り戻した枢であったが、その次のゲストの名前を確認した瞬間、苦笑を浮かべた。

 若干の後悔を抱えながらも彼女を通話チャンネルへと招き入れれば、予想通りの展開が彼の前で繰り広げられる。


「どうも! 身長149㎝! スリーサイズは上から89-58-87のGカップ! 尻軽なのにお尻が重いでおなじみのサソリナだよ~!」

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