一方その頃、甥と叔母は……?
「そうかそうか! 有栖とのデート、楽しんできたか!! そいつはよかった! うんうん!!」
「大袈裟なんですよ、薫子さんは。っていうか、なんでそんなに喜んでるんですか?」
「そりゃあお前、なあ? なあ!?」
一方その頃、陽彩に先んじて薫子との面談……もとい、昨日のデートについての事情聴取に臨んでいた零は、何故だかとても嬉しそうな彼女の反応に苦笑していた。
社長と社員ではなく、叔母と甥という関係性で話をしていた二人の間には、若干の温度差が存在しているが……まあ、どちらも楽しそうなので良しとしよう。
「ついに、ついにこの時が……! 思えば長いようで短い、されどやっぱ長い道のりだったなあ……!」
「だから、なんでそんなに嬉しそうなんですか? 自分のことでもないっていうのに……」
甥からの報告を受けた薫子が、しみじみと感慨に浸りながら呟く。
本当にようやくこの日が訪れたのだと、随分と回り道を重ねてきた零と有栖の関係性が発展したことを喜ぶ彼女は、今にも泣きしかねないくらいに感動していた。
出掛けるまで頑なにこれはデートではないと言っていたあの零が、ついに有栖とのお出掛けをデートだと認めた。
それだけではなく、手を繋ぐことまで成功した上に延長戦まで辿り着いてみせただなんて、予想以上の前進ではないか。
今のところ、デートで何があったのかの全てを聞き出せたわけではないが、現時点でも十分に甘々な一日を過ごせたことはわかっている。
その上で、二人きりで夜の街へと消えていった零と有栖が何をしていたのかという部分に関しては、非常に興味があるところだ。
まあ、その辺のことを無理に聞き出すつもりはないが……零の保護者として、二人の上司として、一応は話を聞く義務はあるだろう。
自分には監督責任があるのだから、これは仕方がないというか当然の責務というやつだ。
さりとて急にその話を振ったとしても零だって気恥ずかしいだろうと考えた薫子は、一つ咳払いを置いてからやや回り道をすることに決めた。
「ようやく有栖と出掛けることをデートと認めたか。本当に、遅過ぎるんだよ」
「すいませんね。まあ、その辺に関してもいつまでも認めないってのは逆に有栖さんに失礼だと思いましたし……やることやっておいてただのお出掛けなんてのは、やっぱ通らないでしょうからね」
「おお……っ!!」
どこか余裕のある態度でそう言いながら、温かいお茶を啜る零。
そんな彼の姿を目にした薫子は、甥が一皮剥けたことを感じ取ると共に感嘆の呻きをもらす。
やはり、人間を成長させてくれるのは異性の存在と恋愛なのだと、どこかで聞いたその意見に今ならば深く同意できるような気がする。
元から落ち着きがあったし、年齢の割に大人びていた零だが、今は更にその雰囲気に磨きがかかっているように思えるし、前に会った時より心なしか大きく見えた。
有栖という特別な存在を得て、彼も深みを増した大人の男になったのだと……そう理解した薫子は、その有栖へと思いを馳せる。
まだ顔を合わせてはいないが、彼女もきっと女性として成長を遂げているのだろう。
具体的にいえば、綺麗でかわいい女の子になっているはずだ。
こちらも元からかわいかったのではあるが、やはり恋は女性を美しくするというのだからそうなっているに違いない。
男性は恋愛をすることで大人っぽくなり、女性は綺麗になる。
今の二人の姿を見ることでその意見の正しさが理解できるような気がした薫子は、あふれてきそうな涙をぐっと堪えながら、零から見えない位置でこれまたぐっと拳を握り締めていた。
(ようやく……本当にようやく、あの零に青春がやってきた……! 本当によかった……!!)
毒家族からいびられながらも特待生の座を獲得するために勉学に励み続けてきた零には、学生時代に恋人なんてものを作る余裕はなかった。
そういう甘酸っぱい思い出を作る機会を得られずにいた零が、社会人になってようやく恋愛というものを楽しむようになったことが、薫子には嬉しくて嬉しくて堪らない。
奇しくも相手は似たような経験を持つ有栖であるし、特別な存在という表現にぴったりだろう。
これからもお互いに支え合いながら、今まで味わえなかった幸せを関係性を発展させていくと共に楽しんでいってほしいと、そう願う薫子はうんうんと一人で何度も頷いている。
……まあ、こんなことを考えながらも心のどこかでは「もうこの二人の方が自分よりも経験豊富なのでは?」という疑問が湧いてきたりもしたのだが、それは見て見ぬふりをすることにした。
瞳からほろりとあふれた涙の理由が感激や感動だけではないということを理解しながら、今はそれを忘れておこうと思いながら、再び咳払いをした薫子は緊張しながら零へとこう問いかける。
「それで、その……有栖とは、どこまでいったんだい?」
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