一緒に計画を立てて、楽しんで

「アトラクション、すごかったね! 音響も映像も本格的で、びっくりしちゃった!」


「宇宙の再現度っていうか、表現が想像以上に力が込められてて、流石だなって俺も思ったよ。遊園地ってすごい所なんだなあ……!!」


 十数分後、有栖が希望していたシューティングゲームを楽しめるアトラクションに搭乗した二人は、興奮気味にその感想を言い合っていた。

 宇宙船の乗組員となり、迫る隕石やエイリアンを撃退しながら先へと進んでいく……という設定のアトラクションだったのだが、音楽や映像、小物や人形に至るまでの全てに乗客を楽しませようという気概が感じられたその内容に、満足を通り越して驚きすら感じているようだ。


「すごい人気アトラクションらしいよ。本当は二時間は待たなきゃ乗れないんだって!」


「そう言われても納得できるレベルだね。開園直後に来たお陰で、待ち時間ゼロで乗れたのはラッキーだった」


 受付口から離れながら、これからこのアトラクションを楽しもうと並ぶ人々の長蛇の列を眺めながら、そんなことを話す二人。

 早起きしたお陰でストレスなく人気アトラクションを楽しめたことを幸運に思う有栖の腕の中には、かわいらしいタコ型エイリアンのぬいぐるみが抱かれている。


「ありがとうね、景品を譲ってくれて」


「いいよ。有栖さんが喜んでくれるなら、俺としても嬉しいしさ」


 流石はハイスペック人間というべきか、あっさり景品獲得スコアを上回る成績を叩き出した零は、貰ったぬいぐるみを有栖へとプレゼントしたようだ。

 そこそこのサイズを誇るそれを笑顔で抱き締める彼女の姿を見つめる零の言葉に嘘はなく、有栖が喜んでくれて本当に良かったと彼は思っている。


「それ、ずっと抱いたまま園内を周るの大変でしょ? 入り口の近くに荷物を預かってくれるカウンターがあったはずだから、一旦そこに行こうか」


「わかった!」


 もう一つの目当てである蒸気機関車のアトラクションもファストパスを手に入れたし、ここからは余裕を持ってのんびりと遊園地を楽しもう。

 そのために少し邪魔なぬいぐるみを預けようという言葉に同意した有栖と共に、零は遊園地の入り口付近にあるエリアへと戻っていく。


 お土産用のお菓子やキャラグッズが並ぶショップが多く存在するそのエリアでは、マスコットキャラクターたちが楽しそうに手を振っては来場者たちを迎え入れていた。

 一人で荷物を預けに行った有栖を待つ間、ぼーっと近くにあった掲示板を眺めていた零は、そこに書かれていた文字を何の気なしに言葉として呟く。


「へえ、警察のマスコットキャラが遊びに来てるのか。そういう催しもやってるんだなあ……」


 別に興味があるわけではないが、ぬいぐるみショーのあれやこれやの予定も掲示されてあるそれをぼんやりと眺めた後、零が横へと視線をスライドさせる。

 ちょうどそのタイミングでぬいぐるみを預けて戻ってきた有栖が、そんな彼へと質問を投げかける。


「お待たせ。零くん、何を見てるの?」


「ああ、おかえり……いや、ここのテーマパーク、パレードもやってるんだなって。昼と夜で二回やるみたいだし、時間をチェックしておこうかなって……」


 午後二時と、夜の七時半。遊園地の目玉ともいえるパレードが行われるというお知らせを見ながら有栖へと答える零。

 特に夜のパレードはクリスマスの季節に合わせた特別なものであるという情報にほうほうと唸りながら有栖の反応を窺ってみれば、瞳を輝かせた彼女の期待に弾んだ声が返ってきた。


「本当だ! 折角だし、どっちも見ていこうよ!」


「うん、そうだね。じゃあ、それも踏まえて予定を立てていこうか」


 楽しそうに自分を見つめながら口を開いた有栖へと、柔らかな笑みを浮かべながら応える零。

 ファストパスを取ったアトラクションに乗るタイミングやランチに加え、二回のパレードの鑑賞を予定に組み込みながら園内を周ることになったわけだが、二人はむしろその時間割をどう作り上げるかの話し合いをすることを楽しんでいるようだ。


「今が大体十時前でしょ? 昼のパレードが十四時からだから、四時間くらいの空きがあるよね? 蒸気機関車のアトラクションに乗る時間が――?」


「十一時過ぎかな。それが終わったら十二時前だろうから、そこでランチにしようか。ゆっくりご飯を食べた後、余裕を持ってパレードの場所取りをしよう」


「そうだね。あっ、そうだ! 零くん、朝ご飯食べてないでしょ? 朝食代わりってわけじゃないけどさ、さっき話したクリスマス限定のチュロス、食べに行こうよ!」


「おっ、いいねえ! じゃあ、それ食べながら園内を見て回ってさ、お昼をどのレストランで食べるか決めようか。乗りたいアトラクションがあったら、それも時間を確認する感じでいこう!」


 自分の意見をはっきりと伝えてくれる有栖のお陰で予定が立てやすいなと思いながら、自分一人でああでもないこうでもないと悩んでいた時よりもずっと楽しく計画を立てられていることを零が喜ぶ。

 やはり、自分一人で何でもやろうとすると空回ってしまう部分もあるのだろうなと、一緒に遊びに来ているのだから、自分だけでなく相手と一緒に話しながら一日を楽しむこともまた大事なのだなとしみじみと思いながら、有栖と共に歩いていると――?

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