蛇道枢、復帰配信
「おいっす~! お前ら、久しぶりだな~! 【CRE8】所属Vtuber蛇道枢、只今復帰しました~、ってな!」
【おかえりくるるん!(クソデカボイス)】
【そんなに長くない期間だったけど、くるるんを感じられなくて寂しかったよ……】
【おかえりなさい、枢! ご飯にする? お風呂にする? それとも、火・炎・瓶?】
――数日後、蛇道枢のチャンネルでは、久しぶりの配信が行われていた。
長いようで短い、されども体感時間としては相当に長いような気がしなくもない彼の休止期間が明けたことを、リスナーたちも大喜びしているようだ。
「うん、まあ、なんだ……デビューからちょっと経った時と、入院した時も含めると三回目か? でも今回は今までとはちょっと違う感じだったと思うから、お前らにも心配させちゃったかなって思ってる。ごめんな」
【くるるんが謝る必要ないって! 気持ちはすごいわかるしさ!】
【正直、不安ではあった。このまま戻ってこないんじゃないかとも思ってたからこそ、こうして元気な姿を見せてもらえて嬉しい】
【あんなことがあったからね、枢が凹んでもちかたないね】
配信の冒頭、話は当然ながら枢が暫く休みを取る原因となった【トランプキングダム】の解散と引退したライル・レッドハートに軽く触れるものとなっていた。
慰めともフォローとも取れるリスナーたちからのコメントに苦笑しつつ、枢はそれらを乗り越えた現在の心境を彼らへと語っていく。
「ライルさんが引退して凹んでないって言えば、そりゃあ嘘になるかな。初めてできた男性Vtuberの友達だったし、あの人とはもっと色んなことをしてみたかった。それが叶わないでいなくなられた時はショックだったけど……いつまでも足を止めてるわけにはいかないなって思ったんだ」
【無理に進む必要もないと思うよ。くるるんはくるるんのペースでいけばいい】
【ライルのことは俺もショックだった。本人が悪くないってのが余計にそう思わせる】
【善人が割を食う世の中なんだなって……でも、くるるんが前を向けるようになってよかったよ】
「まだ完全に吹っ切ったわけじゃあないんだけどな。でも、いつまでもぼさっと突っ立ってても何も始まらねえし……ここで立ち止まって歩くことを止めちまったら、それこそライルさんに顔向けできねえ。凹む時もあるだろうけど、それでも足を止めずに歩いていくよ。きっと、あの人もそれを望んでる」
意思表明を行いつつ、前向きな意見を述べる枢。
きっと立ち止まることはあるだろうけど、そこから歩き出す強さを自分は持っているはずだと……そう、自分自身を信じてこれからも夢に向かって歩いていこうと心に決めた彼がコメント欄に目を向ければ、そこにちょっと気になる文を見つけた。
【それで、今回は芽衣ちゃんに慰めてもらったんですか? それともたらばのたわわなたらばにダイブしたんですか? 気になって夜しか眠れないので答えてください!】
「夜しか寝れないって十分ぐっすりいってんじゃねえか。まあ、拾っちまったからには答えるけどさ……今回は芽衣ちゃんに慰めてもらいました、はい」
【!?!?!?】
【唐突なくるめいを宣告するんじゃあない! 心臓に悪いだろうが!!】
【芽衣ちゃんに、慰めてもらった……? それは意味深な意味なんですか? ねえ!?】
「いや、それ以上は答えねえよ? まあまあ、あとはご想像でってことで……な?」
枢の意味深な回答に、コメント欄が一気に湧き立つ。
良くも悪くも先の彼の言葉に過剰なまでの反応を見せるリスナーたちに対して、枢はクククと喉を鳴らしてから煽るようにしてこう言ってみせた。
「ほら、来いよ! 今日は俺も覚悟してきたからよ、好きなだけ燃やしていいぞ! 遠慮せず投げ込んでこい! 休んでた分、思いっきり燃えてやるからよ!」
【あの、その、くるるん! なんていうかえっと、ありがとうな!!】
【待ってたぜ、この時をよぉ!! つ火炎瓶】
【やはりお前は俺たちを裏切らない男だ!】
「あははははは! そうそう、これこれ! やっぱ俺の配信はこうじゃなくっちゃなあ!!」
どこか他人事のような、されど確かに現実としてこの状況を受け止める枢の楽しそうな声が響く。
復帰早々に自分から燃えにかかった彼は、久方ぶりの炎上を経験すると共に、リスナーたちもまた彼が完全復活したことを祝うかのように火炎瓶をコメントと共に枢へと投げ込み続けるのであった。
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