お家デート大作戦、始動
「わ、私、ですか……? でも、私はもう、零くんを励ましてて、それでもあんな状態なわけで……」
沙織からの指名を受けた有栖であったが、既に自分は行動を起こした後であり、その上で零が未だに立ち直れていないという事実からその重責に対して尻込みしているようだ。
しかし、そんな彼女の言葉に首を振った沙織は、その意見を否定すると共にこう述べる。
「違う、違う。逆さ~。有栖ちゃんが励ましてあげたからこそ、零くんはどうにか外出して、面談ができるくらいにまで回復してるんだよ~。有栖ちゃんが零くんの心の中にあるつかえを取り払ってあげて、本音と弱音を吐き出させてあげたからこそ、多少は前向きになれてるんだと私は思うさ~」
「……言われてみれば確かにそうね。下手に強がって何事もなかったかのように振る舞われたり、逆にべっこべこに凹んで家に引きこもるよりかは今の状態の方がマシっちゃマシか……!」
「
そこで言葉を切った沙織が、再び有栖を指差す。
彼女だけでなく、天と陽彩からも期待を込めた眼差しを向けられた有栖は、ごくりと息を飲むと共に弱々しい声を発した。
「わ、私にできますかね? あそこまで凹んでる零くんを前向きにする、とか……」
「できるできる! っていうか、有栖ちゃんができなかったらもう他の誰もできないって!」
「ボクもそう思うよ。零くんが自分の心に誰かを触れさせるとしたら、それは有栖ちゃんしかいないと思う。だから、頑張ってみて。ボクたちも協力するからさ」
「………」
同期や友人の説得を受けた有栖が、小さな拳を握り締めながら遠くに見える零の背中を見やる。
自分よりも大きくて、頼もしく見える彼の背中は……どうしてだか、普段よりもずっと小さく見えていた。
優人がいなくなった直後、自分の腕の中で涙しながら弱音を吐く彼の姿を思い出した有栖は、心を落ち着かせるように深呼吸をする。
そう簡単に心臓の鼓動が落ち着くことはなかったが、それでも覚悟を決めることができた彼女は、自分を見つめる仲間たちへと力強くこう言った。
「……わかりました。零くんのために私にできることがあるのなら……一生懸命、頑張ってみます」
一人の友人として、これまで助けられ続けた者として、そして、正妻として……零のために尽力すると、沙織たちに宣言する有栖。
彼女の言葉にぱあっと表情を明るくした一同が喜びを露わにする中、有栖は早速三人へと相談を持ち掛けた。
「あの……それで、具体的にはどうすればいいんですか? その辺りがいまいちわからないんですけど……」
「う~ん……まあ、抱き着いても意味はないわよね。沙織の胸に反応しないなら、有栖ちゃんのおっぱいじゃあ尚更の話だし……」
「や、やっぱり、気晴らしにどこか連れて行くとか? それで、明るい気分になってもらうとかかな……?」
「いや、それじゃだめさ~。さっきも言った通り、今の零くんに必要なのは強引に気持ちを前向きにすることじゃなくて、つらくて悲しい気持ちをじっくりと受け入れさせてあげること。違う環境に連れ出しても意味がないさ~」
「え、ええっと、じゃあ、どうすれば……?」
デートに連れ出す、という陽彩の案を却下した沙織へと、具体的な解決方法を尋ねる有栖。
そんな彼女に対して、真剣な眼差しを向けた沙織がこの場合の最適解を述べる。
「普段と変わらない環境下で、零くんの懐に飛び込みつつ、悲しみを受け入れる手助けをする……この条件を満たす解決策はたった一つ、お家デートをすることさ~!!」
「お家デート……なるほど、それなら確かに零くんの本音を引き出しやすいかも……!!」
以前に零が自分に弱音をこぼしてくれた時も場所は彼の家であったと、そのことを振り返った有栖が沙織の言葉に大きく頷く。
自宅という零の領域に踏み込むことで、彼の心にも同じように入り込むことができるのではないかと考えた彼女がやる気を見せる中、仲間たちもまた有栖を励まし始めた。
「具体的な作戦は私の家で説明するさ~。とりあえず、場所を移動しよう」
「会話デッキもそれなりに必要ね……その辺は私に任せて!」
「え、えっと、ボクは……おすすめのゲームを紹介するよ! 零くんと一緒にプレイするための、ゲーム! それくらいしかできないけどさ、ボクも零くんの友達として、元気になってほしいと思ってるから……!」
「ありがとうございます、皆さん。私、頑張って見ます。それで、必ず零くんのことを……!」
というわけで、仲間たちからの援護を取り付けた有栖が、零を元気にするための作戦を練るために沙織の自宅へと移動していく。
気の抜けた零を立ち直らせるためのプロジェクト、『有栖と零のお家デート大作戦!』はこうして始動し、刻一刻と実行へと進んでいくのであった。
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