数日後、二期生通話チャンネルにて

「あ゛~……やっぱり炎上しやがったよ、こんちくしょうめ」


「げ、元気出して、零くん……!」


「あんたって本当にタイミングが悪いっていうか、炎上の神様に愛されてるっていうか……」


「ばって、今回はいつもと比べだっきゃ比較的小規模な炎上で済んでえがった……とはしゃべれねよね、やっぱり……」


 そして数日後、複数のVtuberと共に枢たちがサンユーデパートとコラボを行うという告知が出た時、やはりというべきか予想通りというべきかはわからないが、蛇道枢は炎上した。

 とはいっても、少し前の厄介CP厨たちが起こした炎上がぶり返した程度のものであり、基本的には被害は軽微だったのではあるが、それでも精神を摩耗することに変わりはない。


 通話越しにうんざりとした様子で愚痴をこぼす零のことを二期生たちが励ます中、一人罪悪感を抱いている沙織が申し訳なさそうに彼へと謝罪する。


「なんかごめんね、零くん。私たちのせいで大騒ぎになってるみたいで……」


「いや~……今回に関しては喜屋武さんも須藤先輩にも非はないっすよ。ただちょっと、間と組み合わせがマズかったっていうか……」


 沙織から謝られた零であったが、別に今回の炎上に関しては誰が悪いという話ではなく、一部のファンが暴走しているだけだと述べつつ微妙な表情を浮かべる。

 ただまあ、確かに彼女が相手でなければここまでの騒ぎにはならなかったかもしれないという思いもあるが、それを沙織に言ったところでどうにもならないし、罪のない彼女を責める必要なんてないだろう。


 元々、くるめい不仲疑惑とでもいうべき問題で厄介CP厨が騒いでいたところに蛇道枢のもう一つの最大手CPであるたらくるの情報が舞い込んできたのだ、そりゃあ、騒いでいる連中も枢が芽衣からたらばに乗り換えた! だのなんだの言って彼の下に突撃してくるだろう。

 それに加え、尻軽ビッチのサソリナこと左右田紗理奈との繋がりが生まれたという情報まで出たのだから、杞憂民も騒ぎ立てるに決まっている。


 DMは閉じてあるものの蛇道枢のマシュマロには今現在もとんでもない量のクソマロが放り込まれてきており、その数を確認するだけで気が滅入ってくる零へと、有栖が改めて励ましの言葉をかける。

 

「面倒なことになっちゃってるかもしれないけど、零くんも喜屋武さんも何も悪いことをしてないんだから堂々としてていいよ。お仕事、大変かもしれないけど、頑張ってね!」


「うん、ありがとう。有栖さんの方こそ、俺に妙な気を遣って無理にをやろうと思ったりしないでね? あと、このことに関して面倒なマロとかメッセージが送られてきてたら、本当にごめん」


「それこそ零くんが謝ることじゃないって。大丈夫、私だって半年以上Vtuberやってるんだし、この程度なら自分一人で対処できるよ!」


 そう、明るい声で枢へと有栖が言う。

 実際のところ、彼女の下にも【くるるんがたら姉に取られちゃいそうだけど動かないの?】というような面倒な声が大量に届いているのだが、これから大切なコラボ案件に臨む零に必要以上の負担も心配もかけたくないと考えている有栖は、この問題はしっかり自分の力のみで対処しようと考えていた。


 こうして多少の炎上にはびくともせず、零のことを思い遣れるようになった有栖は、確かに成長し、強くなっている。

 お互いに相手を想い合う零と有栖の様子に、やっぱりこの二人はこうでなくちゃとしみじみと思う残りの三人であったが、ここで沙織が余計なことを思い出すと共にそれを言葉として発してしまう。


「そういえばだけどさ。零くん、須藤先輩に呼び出されてたよね? 紹介したい人がいるから、一緒にご飯でも行こうって……あれ、どうなったの?」


「え……? 零、あんた先輩にデートに誘われてんの!? あのサソリナ先輩に!?」


「そ、そうですけど、そこまで騒ぐ必要あります? それに、デートじゃないっすよ。人を紹介したいって言われてるだけですし……」


「ばっか! 仮にそうだとしてもね、ちょっとは疑いなさいよ! 相手は仮にも尻軽って呼ばれてる人なのよ? なにを考えてるかわかんないじゃない!」


「天ちゃん、あんまり会ったことない人のことを悪く言うの、よくないと思うさ~。私が思うに、須藤先輩はそんな悪いことを考えてるような人じゃあないと思うよ~」


 尻軽のサソリナというイメージが先行しているのか、澪に対して偏見ともいえる見方をしている天のことを沙織がやんわりとたしなめる。

 彼女の言葉を受け、自身の言葉を反省した天は口を紡ぐも、微妙に気まずい雰囲気になった上にこう聞かれてしまったこともあった零は、正直にその件に関して同期たちへと報告を行う。


「いや、そのことなんですけどね……実はこの後、食事することになってまして……」


「まっ、マジぃ!? あんた、大丈夫なの!? 相手はロリ巨乳よ、ロリ巨乳!! 向こうがそういうお誘いをしてきても、断れるんでしょうね!?」


「何を考えてるんだ、あんたは!? だから、そういうんじゃなくってただ人を紹介してもらうだけですって!!」


 この後、澪と会うという零からの唐突な報告に仰天した天が深読みし過ぎた発言をするも、即座にそれは零によって斬って捨てられた。

 そのままわーぎゃーと騒ぐ二人をよそに、有栖が誰もが気になっているであろう部分についてツッコミを入れる。


「でも、誰なんでしょうね? 須藤先輩が零くんに紹介したい人って……」


「事務所の人……ってわげじゃあなさそうだよね。だったら事務所で会うでもいいわげですし」


 わざわざ零を食事に連れ出してまで会わせたい人物とは誰なのか? という最大の疑問に首を傾げる二期生たち。

 【CRE8】の関係者でないことくらいしかわからない状況下で、少しだけ難しい顔をした零が言う。


「まあ、その辺のことを確かめるためにも話をしてきますよ。これから一緒に仕事をする人でもありますし、先輩の顔を立てる必要もあると思うんで」


「う~ん……タイミングがタイミングだから心配ではあるけど、その辺に関しては気を付ける以外ないしね。気を付けていってらっしゃい。あと、報告はきちっとすんのよ! 誘惑されても乗ったらだめだからね!!」


「だから、そういうんじゃないですって! そろそろ家を出るんで、これで失礼しますよ。んじゃ!!」


 いい加減しつこいぞとばかりに通話を切り、一足早く退室する零。

 これから澪と会う彼のことを不安に思いながら、天は唯一澪と顔を合わせた沙織へと問いかける。


「ねえ、本当に須藤先輩っていい人っぽかった? 猫被ってたりとか、そういう感じしてない?」


「……ないかな。零くんも言ってたけど、私によく似てると思う。良くも悪くも裏表がないっていうか、純粋過ぎて悪意とかを抱えてたらすぐにわかりそうな人だと思うから、零くんを利用して何かを……ってことはあり得ないと思う。ただ――」


「ただ、何?」


「――私がみんなに首の傷を隠していたように、須藤先輩も何かを隠してる可能性はあるんじゃないかな……って、その可能性は否定できない、かな……」


 自分と似ている、その第一印象から思い付いたもしかしたらの可能性を同期たちに告げる沙織。

 少しだけ零のことを不安に思いながらも、それでも自分を救ってくれた彼ならば澪の期待にも応えられると信じている彼女は、これから長い期間、共に仕事をする仲間である先輩と彼との会合が上手くいくことを祈り続けるのであった。

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