カップリング絵も、悪いことばかりじゃあないみたい

「有栖ちゃんっていうか、芽衣ちゃんの場合は本当に恩恵が大きかったと思うさ~。人気度の高まりにつれてそういう絵も増えたけど、ネガティブなイラストは本当に少なかったと思うしね~」


「実際、今、私が見てるサイトで時系列順に成人向けイラストを確認するとよくわかるわよ。ある時期を境に泣き顔ばっかりだった芽衣ちゃんの絵が、一気に幸せいっぱいのイラストばっかりになってるもの」


「あ、はい。多分ですけど、枢くんと絡み始めたのと、ストーカー騒動が知れ渡った時期ですかね? 性的な被害に遭ってることがわかったから、そういう絵を見直そうってめいとのみんなやVtuberファンのイラストレーターさんたちが投稿を自粛したのと、その……」


「枢くんとイチャイチャしてるイラストの方がいい! ってなったってことだね~! なはは~!」


 開けっ広げにそう言って笑う沙織であるが、今回に限ってはその表現がぴったりという他ない。

 タイミングや様々な出来事が重なったということもあるだろうが、くるめいの人気が爆発的に高まったからこそ、自分たちのR18イラストは今も生産され続けているのだと理解している零と有栖の前で、天が言う。


「実際そうよね。私が知ってる同人絵師さんなんかも、夏コミフェスでくるめいの本を出してる人がいたし……成人向け漫画は流石にたらくるに負けてたけど、【CRE8】のカップリングっていったらくるめい、っていう人が大多数なのは間違いないわよね」


「ほへ~……! わっきゃ読んだごどねはんでわがらねばって、人気みだいでえがっただね! 阿久津さん!」


「……ええ、そう思うことにしますよ」


 大まかなポジティブポイントとしては、あまり明るい雰囲気ではなかった羊坂芽衣の成人向けイラストが、くるめいのお陰でノーマルな方向へと向かったことが挙げられるだろう。

 ストーカー騒動もありはしたが、枢との絡みがなければ的なイラストが主流となり、羊坂芽衣の印象は今とは全く違うものになっていたかもしれない。


「R18のイラストっていうのは、こういう活動をしていれば必ず生まれるものだと思ってますし……度を超えたセクハラとかじゃなければ、私も平気です。ただ、そういう絵を期待して検索しためいとのみんなが凹んだり悲しい気持ちになるような状況になるのは嫌だったので、今みたいに幸せな私……私でいいのかな? その、羊坂芽衣のイラストが増えてくれたことは、嬉しく思ってます」


「うんうん! 有栖ちゃんがそう思ってるのならよかったさ~! 枢くんも、グロテスクな絵ばっかりの状態から脱却できたのはよかったよね~!」


「まあ、はい。それは俺も思ってます。でも正直、有栖さんを巻き込んじゃったみたいで申し訳なかったですし、それに何より――」


「当ててあげる、、でしょ? いや~、その気持ちは理解できるわ~。なにせ自分とチョメチョメしてるのと同じ顔した人間と毎日のように会って、話してるわけだもんね~……」


 羊坂芽衣がそうであったように、蛇道枢も彼女と出会ったことでR18Gが主流の状態から抜け出せたわけだが……それに伴う弊害として、現実世界で物凄く気まずいというデメリットを抱える羽目になってしまっていた。

 お互い、こういうことに慣れているはずもなく、性格も引っ込み思案である有栖は特に意識してしまうとダメだったようで、一時期は零の顔をまともに見ることもできないこともあったそうな。


 零の場合は、有栖が思い切り動揺している姿を見たお陰で落ち着くことができたのと、元来のスルースキルを最大限に発揮することでどうにか対処したわけだが、それでもやっぱり気まずいものは気まずい。

 今でこそようやく慣れることができたが、今後も先輩や他の事務所の女性Vtuberと絡む度に新たなカップリングが生み出され、それに応じた成人向けイラストが制作されることを考えると、少しだけ気分が滅入ってしまいもする。


「CP絵っていうのはね~、やっぱ地雷な人も多いから、デメリットもあるよね~」


「あっ、わーも知ってます! 同担拒否ってやつですよね!?」


「だからこそ配慮されて伏字とかになってるわけだし、CP厨とか何が地雷で暴れ回るかわからない連中を刺激しちゃう可能性があるのも怖いわよね。でも、うん……避けられない事態だと思うし、遅かれ早かれこうなってたと思うから、まあいいんじゃない?」


 他人事だと思いやがって、とざっくばらんとした結論を出した天へと心の中で憎しみをぶつける零。

 描かれている側としてはそんな簡単に受け入れられるようなものでもないんだぞと、そう無言で彼がツッコむ中、恥ずかしそうにしている有栖が口を開く。


「でも、はい。私もそう思います。確かにそういうイラストを見ちゃった時は零くんと気まずくはなっちゃいましたけど、最近は慣れてきましたし……枢くんが相手なら、別にいいかなって……」


 ……恥じらいある乙女らしい意見ではあるが、ちょっと……いや、かなり危険な気がしないだろうか?

 あくまで有栖が話しているのは羊坂芽衣と蛇道枢の成人向けイラストに関することであって、本当にそういうことをする雰囲気で話しているわけでもないし、阿久津零ではなく蛇道枢のことを話しているんだから、妙に緊張するなと零は自分自身に言い聞かせる。


 平常心、平常心だ。実際の行為ではなく、イラストについて話しているだけなんだから、それで興奮する方が色々とマズいだろ……と、心の中で自分と会話する零であったが、この空気の中で天がまたしても余計なことを言ってきた。


「いや~、愛されてていいわよね~! でも、その枢くんは他の女とあ~んなことやこ~んなことをしてるわけで、芽衣ちゃんだけがお相手じゃないのが悲しいところだわ~!」

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