Vtuberに、なっていなかったら?
「んじゃまあ、次は俺の方に来た珍しくまともなマシュマロを紹介するね。本当、貴重な普通のマシュマロだから、よく味わって食べさせて」
そんなこんなでしずくからバトンを受け取った枢は、配信の冒頭に表示したようなクソマロではなく、友人たちにも答えやすい普通のマシュマロを提出する。
自身が言う通り、本当に珍しいノーマルなお便りを配信画面に表示した彼は、それを読み上げると共に答えについて考えていった。
『Vの仕事と言う概念が無かったら自分自身は此の様な仕事又は職種に付いていたんだろうな というので皆さんは何に成っていたと思いますかね』
「Vtuberにならなかったら何になってたか? かぁ……。改めて考えると難しいね」
「これは三人いることだし、自分以外の二人がどんな職業に向いてるかを考えた方がいいかもね。そっちの方が客観的にものが見れそう」
割とあるあるな質問に対して、自分自身のことではなく自分以外の共演者がどんな職の適性を持っているかを考えることにした三人は、暫しの間、その答えを探るためにシンキングタイムを取る。
ややあって、芽衣としずくはほぼ同時に枢に適した職業についての答えを述べてみせた。
「やっぱり枢くんはあれ、だよね?」
「うん。コックさん! 料理上手だし、真面目だし、綺麗好きだしで、必要なもの全部揃ってるよ!」
【これ以上ない正解が出たパターン】
【確かにくるるんといえば炎上か料理上手のイメージだし、料理人の職がぴったりだよね!】
【面倒見の良さを活かして保育士とかもありじゃないかと思ったりしたけど、やっぱコックの方が合ってるような気がする】
「あ~、コックか。確かに最初はそっちになろうとか考えてたなぁ……」
家族に家を追い出された時のことを振り返りつつ、しみじみとその際の自分の考えを思い出す枢。
特に資格は持っていなかったが、料理の腕にだけは自信があったから、どこかの料理屋に住み込みで働かせてもらえないかな~……なんてことを考えていた自分の運命は、薫子にスカウトされたことで大きく変化した。
良くも悪くも、Vtuberとしてデビューしたことで普通の人生は送れなくなってしまったが、そもそも毒親にネグレクトされた上に家を追い出された時点でまともな人生とは言い難いので、今更という話だろう。
だが、もしも薫子がVtuber事務所の社長をやっていなかったら、もう少し平均に近しい人生を送ることにはなっていたはずだ。
そういう意味では、薫子の存在が大きなターニングポイントになったのだなと思いつつPCの前で頷いていた枢の横で、今度はしずくへと芽衣が言う。
「しずくちゃんは……やっぱりゲーム関連のお仕事をしてそう。それこそ、本格的にプロを目指したりとかさ」
「ええっ!? ぼ、ボクには無理だよ。そんな大それた道に進む度胸なんてないって……!」
「いや~、わからないよ? しずくちゃん、時々凄く大胆なことをするからさ。もしかしたら、一念発起してプロゲーマーを目指しちゃったりするかもしれないじゃん!」
「あぅ……ボクみたいなコミュ障陰キャには絶対無理だと思うけどなぁ……」
「あくまでVtuberになってなかったらって話だし、実際にそうなってるかどうかはまた別の話だよ。でも、私はしずくちゃんならプロとして活躍できると思うけどな」
「あ、ありがと、芽衣ちゃん……」
【う~ん、仲良し! 今日もめいしずはてぇてぇ!】
【この間に挟まっても燃えない男がおりゅってマジ?】
【そいつすげえな。きっと何をやっても燃えない聖人みたいな奴なんだろうな】
しずくを褒め殺しにする芽衣と、そんな芽衣の言葉にもじもじとしながらもお礼を言うしずく。
似た性格をしている二人のなんともかわいらしいやり取りをありがたく見守るリスナーたちがふざけ半分のコメントを送る中、話題は最後の一人である芽衣に適した職業へと移っていく。
「私は……どうなんだろう? あんまり人と話すの得意じゃないし、この中で一番の社会不適合者だっていう自覚もあるしなあ……」
「いや、流石にボクよりは上だと思うよ? ボクの場合、まともに人と話せないわけだし……」
「ありがとう。でも、接客業みたいな人と思い切り関わる仕事は無理だってレベルなのは間違いないし、手に職系も取り立てて特技みたいなのがあるわけでもないし……普通の会社員になるのも勉強が苦手だから難しそうだし、私が一番就職に苦労する人間だと思う」
「そう? 俺は芽衣ちゃんにぴったりの職業に見当がついてるけど」
「あっ、ボクもボクも!」
「えっ!? 本当!? 二人とも、凄い!!」
社会不適合者である自分に適した職業をあっさりと見つけ出してしまった友人たちの言葉に驚きを露わにした芽衣が、その職がなんであるかを二人に聞く。
彼女からの促しを受け、まずは枢が自分の答えを発表し始める。
「動画編集者とかどう? 芽衣ちゃん、色んな人から編集が上手だって褒められてるじゃない。二期生ウイークでやった俺のドッキリに対する反応を編集したのも芽衣ちゃんだし、リスナーたちからの反応も上々だったでしょ?」
「あ、確かに……! めいとのみんなも薫子さんも、私が編集した動画は見やすいって言ってくれてるね!」
「そうそう! サムネとかもセンスあるし、裏方として誰かを支えるっていうのも芽衣ちゃんは得意そうだしさ。これは立派な芽衣ちゃんの特技だと俺は思うよ!」
芽衣が持っているサムネイル作りに対するセンスの良さや、動画編集の丁寧さをよく知っている枢が自信たっぷりにそう動画編集者としての職を推せば、彼女もまた自分の武器となるそれを思い出してぱあっと表情を明るくする。
自分ではなかなか思い付かない特技も周囲の人間ならば簡単に見つけ出してもらえる……ということを実感した芽衣は嬉しそうに頷くと、もう一人の回答者であるしずくへと話を振った。
「それでしずくちゃんは何を思い付いたの? もしかして、枢くんと同じ答え?」
「あ、ううん。ボクはちょっと違って、別の職業……正確には職業じゃあないかもしれないんだけど、これが一番なんじゃないかなって思うのがあって、その……」
若干言い淀みながらも、ここまでの配信の流れを見守ってきたしずくはこの発言が問題にならないと判断したようだ。
爆弾……とまではいかないが、リスナーたちにとっては火炎瓶発言くらいにはなる大胆な答えを口にしてみせる。
「枢くんのお嫁さん……とか、いいんじゃないかな、って……!」
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