お決まりの、流れです
「う~ん、これはツッコミどころが満載だなぁ……!」
「本当、ボクもそう思います……」
どうして枢への質問がしずくのところに届いているのかだとか、そもそも内容がセンシティブ過ぎないかだとか、そういう諸々のツッコミどころが多過ぎるこのマシュマロに対して、困惑気味の反応を見せる枢としずく。
だがしかし、芽衣だけはとても朗らかな様子で、質問の送り先である枢へとこんなことを言ってのける。
「いいんじゃない。答えてあげれば、枢くん?」
「うえっ!? い、いや、別に答えることなんて何もないんだけど……」
「でも、前に花咲さんのパイナップルについてのマシュマロが来た時は、滅茶苦茶デカくて柔らかかったって言ってたよね? 今回はなんで何も言えないのかな?」
「あれはほら、事故的なものが組み合わさって、俺がたら姉のあれを触っちゃったことがバレてたから言えただけだし、今回と状況は全く違うから……っていうか芽衣ちゃん? なんか怖くない?」
「うん? 私はいつも通りだよ? どうしてそんなことを言うのかな、枢くん?」
【ひえっ……!?】
【これは黒羊さん。間違いない】
【旦那の浮気に反応して怖い方の羊さんが出てきてしもうた】
【芽衣ちゃんちっぱいだからそういうところ気にしてるんだろうな……おや、誰か来たみたいだ】
画面上ではニコニコと上機嫌に笑う姿が映っている芽衣だが、会話をしている枢には彼女から発せられるなんだかよくわからない威圧感のようなものが感じられていた。
配信を盛り上げるために嫉妬ムーブのようなものを見せている芽衣は、同時に恐妻としての姿も見せているようだ。
「枢くんは大きいおっぱいが好きだもんね~。フルーツバスケット、楽しかったかな?」
「あの、め、芽衣ちゃん? ご存じだと思いますが、俺は別に【VGA】の皆さんとは会ったこともサシで話したこともないですからね? そんなプレッシャーかける必要なんて、これっぽっちもないんですが?」
「……大きいおっぱいが好きだってことは否定しないんだ」
「いや、そこはもう取り繕えないし、嘘を吐いた方がマズい事態になるような気しかしないから……」
「つまり枢くんは、芽衣ちゃんよりも夕張さんたちの方が好き、ってこと!? そんな!?」
「しずくちゃん!? 唐突に乗らないでくれる!? そんな、はこっちの台詞なんだけどっ!?」
既に着火済みの状態で至る所から燃料を投げ込まれているような気しかしない枢は、芽衣の演技に合わせて乗ってきたしずくの行動によってさらに追い詰められる羽目になってしまった。
リスナーたちも空気を読むと、楽しい楽しい火炎瓶投擲タイムを心の底から満喫すべく、コメントを連打し始める。
【食らえ、枢!! つ火炎瓶】
【この日のために大量に用意しておいたナパーム弾だ! 受け取りなっ!!】
【#巨乳に浮気するな枢】
【ちっぱいは最高だろうがよぉっ!! 嫁のお胸を大事に育てんかい!!】
【なんだかよくわからんが食らえっ!】
「ふ~っ……まあ、こうなる気がしたよ。まあまあまあ、これで俺もノルマ達成したみたいなところはあるし? お前らも楽しんでるから良しとする、みたいな?」
「煽っておいてあれだけど、本当に凄いね。これが炎上を使いこなすってことかぁ……」
「枢くん、これに関してはプロ中のプロだから。リスナーさんたちもこういう流れを期待してるからこそ、しずくちゃん宛にああいうマシュマロを送ってくるんだと思うよ」
「実際、昔は芽衣ちゃんのところに同じようなマロが大量に送られてきてたからね……懐かしい話だ」
「あ、二人はこれに慣れてるんだ? ホント、つくづく凄いなぁ……!」
「そうじゃなきゃこういうギリギリのやり取りはできないからね。私たちもリスナーさんたちも全員含めて、色々とわかってる感じかな?」
クスクス、といたずらっぽく笑った芽衣は、しずくにそう言いながら演技を止めた。
リスナーたちも恒例の儀式を終えて満足したようで、コメント欄は何事もなかったかのような平和を取り戻している。
「な、なんか、カオスな統制の取り方だね。治安は悪いけど民度はいい、みたいな」
「なんだかんだで弁えてるんだよ、こいつら。平然とライン上で反復横跳びするのは厄介だけどな」
【くるるん! たら姉のおっぱいと【VGA】のフルーツバスケット、どっちが好き!?】
【デカさはどっちが上だった!? 気になって夜しか寝れないんだけど!!】
【ところで俺の雄っぱいをどう思う?】
【↑すごく……すごいです……】
【小〇構文かな?】
「……しずくちゃんはこんな連中と付き合っちゃダメだよ。飼い主である俺が言うのもなんだけどさ」
「あ、はい」
「ふふふ……! マシュマロの捌き方だけじゃなくて、他にも色々と教えてもらえてよかったね!」
父親のようにしずくに注意を促す枢と、そんな彼の言葉を笑みを浮かべながら聞いた後で娘に語り掛ける母親役の芽衣。
この三人の親子のようなムーブを見ることができたことに、リスナーたちは心の中で歓喜していたのだが――
「っていうかお前ら、この流れをガチに受け止めて後で配信に乗せられないクソマロ送ってくんなよ? いい加減、俺の中で芽衣ちゃんが二番手に落ちるわけないってことくらいわかってんだろうに」
――という、次のマシュマロを出すまでの間に枢が発した一言によって、全員揃って心臓を止められてしまった。
リスナーたちへの注意喚起にかこつけてド直球に好意を伝えられた芽衣はというと、PCの前で顔を真っ赤にして俯いていたそうな。
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