思い出を、形に
「おっ、お揃いの、新衣装……!? ボクたち三人の……?」
自分の言葉をオウム返しする陽彩へと、大きく頷いてみせる零。
自分の顔と、タブレットの画面に表示されている自身の分身の姿を交互に見つめていた陽彩へと彼は続けて言う。
「実を言うと、今日のお出掛けに参加した一番の理由はこれなんですよね。通話で話すより、こうして直に会って相談したかったんで、有栖さんから話を持ちかけてもらって助かりました。ただ、なんか途中からどう話を切り出せばいいのかわかんなくなって、挙動が怪しいところがあったかなって自分でも思ってて……そのせいで蓮池先輩に妙なプレッシャーかけちゃったみたいで、なんかすいません」
「えっ!? あ、いや、そんなことは……」
どうやら零は、勝手に緊張して自爆した陽彩の数々の失態を自分のせいだと思っているらしい。
実際はそんなことはなく、彼女には零がこの話をどう切り出すべきかと悩んでいるだなんてことを感じ取る余裕すらなかったわけなのだが、その勘違いのお陰である意味では陽彩は助かっていた。
「まだこのデザインも仮の案で、完成形とは程遠いんです。二人さえ良ければ、一緒にこの衣装をどう仕上げるかとかを話し合って、作っていけたら嬉しいんですけど……」
「うっ、うん! いいよ! 凄くいいと思う! お揃いの新衣装、とっても素敵だよ! 賞金の使い道としてもこれ以上のものはないって!」
零の言葉に対して、大声で賛同の意を示した有栖が次いで陽彩へと視線を向ける。
彼女と同じく三人で揃えた衣装の制作を喜ばしく思っている陽彩であったが、その感動を上手く言葉にできずにぱくぱくと口を開け閉めし続けていた。
「あ、あの、その、う、上手く言えないけど、その、ボクも嬉しいし、えっと、あの……!!」
「喜んでくれるんですね、よかったぁ……! ちょっと不安だったんですよ。衣装のデザインに関しては心配してなかったんですけど、お揃いとか気持ち悪いっていわれたらどうしようかな~、って……」
「そ、そんなこと、言わないよ! ぼぼぼ、ボク、嬉しいよ! こういうふうに三人で活動した記念とか、思い出を形として残してくれるの、凄く嬉しい! あ、ありがとう! 零きゅんっ! ……あぅ、また噛んじゃった……」
たどたどしくも自分の想いを零へと告げた陽彩は、おなじみの噛み癖を披露すると顔を真っ赤にして俯いた。
彼女がいきなり大声を出したことを驚いていた零であったが、その言葉が途切れたところでふわりと笑みを浮かべると、陽彩へと頭を下げながら感謝の気持ちを告げる。
「ありがとうございます。【ペガサスカップ】で優勝したこともそうですけど、蓮池先輩のお陰で沢山の思い出ができました。先輩の言う通り、この思い出を形に残したくってこういう提案をさせていただいて、それに賛同してもらえて俺も嬉しいです」
「……嬉しい同士だね、ボクたち。おんなじだ」
「はい。気が合いますね、俺たち」
零の話を聞いた陽彩は顔を上げると、そんなことを彼へと言った。
零もまた陽彩の言葉に同意しつつ、嬉しそうにはにかむ彼女を優しい瞳で見つめる。
終わり良ければ総て良しという言葉があるが……その言葉を適用するのなら、今の自分たちは最高の形で今日という日のお出掛けを締め括れたといえるのではないだろうか?
親友二人が嬉しそうに笑いながら話す姿を見ていた有栖は、胸の内に湧き上がってきた温かい感情にふわりと笑みを浮かべると、ぱんぱんと手を叩いて注目を集めてから声をかける。
「じゃあ、折角だしここで要望をまとめちゃおうよ! ざっくりとでいいから、こうしたい! っていうのを話し合って決めちゃおう!」
「そ、そうだね! こうして顔を合わせて話した方が、楽しいもんね!」
「なら、お店にも悪いですしもう少し何かを注文します? 今度は美味しく小籠包を食べられるよう、正しい食べ方を教えてあげますよ」
食事会は終わったが、そのまま新衣装の制作についての相談会を始めることにした三人が、わいわいと話しながら店員を呼ぶ。
仲良くなりたいと思っていたのが自分だけではなかったことや、友人たちと楽しいひと時を過ごせることを心の底から喜んでいる陽彩は、零と有栖と共に相談を重ね、最高のお揃い衣装を作るための話し合いを重ねていくのであった。
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