改めて、ポーズを決めましょう

「で? ポーズはどうします? 体格差のある男女三人って、地味に難易度高くないですかね?」


「言われてみればそうだね。私たちもポーズに関して詳しいわけじゃあないからなぁ……」


「……ちなみに、二人は前にどんな感じでプリクラを撮ったの?」


「えっ? ああ、こんな感じのポーズ、かな……?」


 零の発言から続いた一連の流れの果てに、陽彩からそんな質問を投げかけられた有栖が反射的にかつての光景を再現する。

 ぽふっ、と音を立てて零に背中を預けた彼女は、そこで彼に抱き締められた際の記憶と自分が恥ずかしい真似をしていることに気が付いて、顔を真っ赤に染めた。


「あっ!? ご、ごめんっ! その、零くんに迷惑かけるつもりはなくって! 何も考えないまま参考になるならってやっちゃったけど、これなんの意味もない行動だったね!!」


「いや、大丈夫だよ。だから有栖さん、少し落ち着いて」


 ほんの一分前までは陽彩を落ち着かせていた有栖は、今度は落ち着かされる側に回ってしまった。

 あわあわと慌てながら早口で言い訳を口にする彼女に対して、不意打ちを受けて内心では結構ドキドキしている零が優しく声をかける。


 そんな二人のやり取りを間近で見ていた陽彩は、自分の一言が発端だったとはいえ、友人カップル同士のイチャイチャを見せつけられているかのような複雑な気分になっていた。


「と、とりあえず、ポーズについて考えようよ。普通に三人並んで撮影するんじゃ味気ないし、折角の思い出なんだからさ」


「そうだね。前みたいに、プリクラ機が提案してくれるポーズを見てみようか」


 有栖がようやっと落ち着きを取り戻した後、改めて提案を行う零。

 その言葉に頷いた有栖は機械を操作すると、画面に映るポーズの一例を確認していくが――


「集まって襟クイ、あごのせ、並んで肩に手を置く……う~ん、どれも難しいっていうか、なんていうか……」


「基本が同性で同じくらいの身長のメンバーで撮影することを前提として考えられてるみたいだから、ボクたちにはマッチしてないよね」


「やっぱ俺が邪魔なんじゃないっすかね? ずば抜けて背が高いのも性別が違うのも俺だけですし、有栖さんと蓮池先輩だけで撮影すれば――」


「「それは駄目っ!!」」


 プリクラ機が提案してくるポーズは、やはり男女三名で撮影するにはちょっとばかり相応しくないものばかりであった。

 身長が揃っていないということもそうだが、男女が密着するというのは中々に難易度が高く、零も炎上の危険性を抜きにしても避けた方がいいのではないかと考えてしまっている。


 ここは自分が抜けて、同じ女性同士であり身長も近い有栖と陽彩だけでプリクラを撮った方がいいのでは……? と提案する彼であったが、それを口にした瞬間、二人から猛烈な勢いで否定とダメ出しをされてしまった。


「今日の思い出のためのプリクラなんだから、三人で撮影しなきゃ意味ないでしょ! 零くんのことだから私たちのことを思い遣っての発言なんだろうけど、逆効果だからね!」


「有栖ちゃんの言う通りだよ。ここで零くんを仲間はずれにして撮影したら、それこそ意味がなくなっちゃうってば」


「う、うっす、すいません……」


 まさかここまで反発されるなんて、と思いながらも自分の不用意な一言が二人を怒らせてしまったことを反省する零。

 逆に言えば、ここまで怒ってもらえるくらいに二人から大切に想われているのかな……という考えを思い浮かべた彼は、ほんの少しだけ緩んでしまった口元を隠すように右手を顔に当ててポーズに悩むふりをする。


「でもどうしようか? 本当に難しいね……」


「ここにあるポーズじゃなくてもいいんだし、ある程度のアレンジを加える形にすれば……あっ!!」


 そんな彼を放置して、有栖と共に改めてプリクラ機が提案するポーズの一覧を見直していた陽彩は、何かを見つけると大きな声を出した。

 その後、すぐさま振り返った彼女は、口元を隠している零へとこんなことを言う。


「零くん、ちょっとしゃがんでもらっていいかな?」


「は、はい? しゃがむ、っすか……?」


「どっちかっていうと屈む、かな……とにかく、体勢を低くしてほしいんだ」


「はぁ、わかりました」


 いったい何をしたいのだろうかと思いつつも、陽彩に言われた通りに体勢を低くしていく零。

 最初は膝を折ってしゃがんでいたのだが、割と要求されている背の高さ(低さ?)が思っていたよりも下だったことに気が付くと、撮影スペースに膝をついて半分正座をするような格好になり、そこからまた高さを調節していった。


「こ、こんくらいでいいっすか?」


「うん。ありがとう! それで、ボクたちでこうやって左右を挟んで……」


 最終的に、有栖と陽彩よりも顔半分程度低い位置にまで背を調整した零が、膝立ちの格好になりながら二人へと問う。

 その高さに満足した陽彩は、有栖と共に彼を左右から挟むと、それぞれが零の頭を撫でるようにして手を乗せてみせた。


「これでいいんじゃない!? 身長も密着具合の問題もクリアしてるし、仲良しそうに見えるしさ!」


「プリクラ機にも『あたまをぽん!』のポーズで登録されてるから、それに適した撮影モードになってくれるみたいだしね! 最高だよ、陽彩ちゃん!」


 自分の頭を撫でながら楽しそうに会話する二人の話を聞く零は、この状況に対する気恥ずかしさに何とも言えない表情を浮かべている。

 髪を梳かす細い指の感触だったりだとか、頭皮に触れる柔らかく小さい手の感触に彼がドギマギとする中、普段とは逆に零を見下ろす側になった有栖がクスリと笑うと、彼へとこんなことを言ってきた。


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