百合の間に挟まる男は、死刑
「わあ……大きいとは思ってたけど、撮影スペースも思ってたより広いんだね……!」
「五人とか六人入って撮影できるような機種もあるからね。三人なら余裕だよ!」
「そ、そうなんだ。あれ? お金を入れる場所が見当たらないんだけど……?」
「ああ、それは外にあると思うよ。そっちの方で撮影の設定とかするから、一旦出ようか」
「あ、うん……なんか有栖ちゃん、プリクラに詳しくない? もしかして結構慣れてる……?」
「そんなことないよ! 前に一回撮っただけだって。ね、零くん!」
「ああ、うん。そうだね……」
初めてのプリクラに戸惑う陽彩に説明をしつつ、以前の記憶を引っ張り出して撮影の設定を決めていく有栖。
そんな彼女からの満面の笑みを向けられながら話を振られた零は、若干の焦げ臭さを感じながら軽く同意してみせる。
確かにまあ有栖の言っていることに嘘はないし、親友である陽彩にいいところを見せられることが嬉しくてテンションが上がっているんだろうなと考えながらも、二人でプリクラを撮ったという彼女の発言は聞き方によっては意味深にも思えるだろう。
実際、その発言を受けた陽彩は驚愕の形相を浮かべて完全に硬直してしまっているし、その雰囲気から彼女の脳内では何か過激な妄想が繰り広げられているであろうことが一目で理解できた。
おそらくは恋人同士が撮影するであろうあんなプリクラやこんなプリクラなんかを想像し、その間に自分が挟まることに対して罪悪感を募らせているのかもしれないが……今現在、それに対して恐怖を覚えているのは他の誰でもない零だ。
一見すると前回の有栖と二人きりでのプリクラの方が危険度は高めに見えるが、こちらもこちらで別ベクトルでの危うさがある。
仲のいい女の子二人の間に、男性である自分が入るという状況がそれだ。
古来より、オタクたちの間には「百合の間に挟まる男は死刑」という絶対のルールが存在している。
女性だらけの事務所である【CRE8】にて唯一の男性Vtuberとしてデビューした蛇道枢に多数送られてきていた(なんだったら今もぽつぽつ送られている)そのメッセージを思い浮かべた零は、楽しそうに設定を決めていく有栖と陽彩を見つめながら嫌な妄想を繰り広げていた。
(もしも、万が一、このことをぽろりと配信上で口にしたら――)
有栖か陽彩が三人でプリクラを撮影したということを雑談か何かの際にファンたちに言ってしまった時に起きる惨劇など、容易に想像がつく。
大量の火炎瓶と暴言マシュマロと死刑宣告が自分へと投げ込まれる地獄絵図を思い浮かべた零は、これが現実のものにならないことだけを祈り続けていた。
だが、友達三人でプリクラを撮ったというのは男女二人きりで撮影したのと比べると罪が軽い気がする。
そのため、陽彩辺りがお出掛けの思い出を雑談で語る際にぽろっと言ってしまいそうだなと予想した零は、彼女に釘を刺すのではなく想像が現実になった時のための心構えを決め始めた。
「……零くん? なんだか顔が怖いよ。これからプリクラを撮るんだし、もっと表情を柔らかくしないと駄目だよ!」
「ああ、ごめんね。大丈夫、大丈夫だから……」
ぺかー、という陽光が差しているような効果音が似合う明るい笑みを浮かべる有栖へと、ぎこちない笑みを返す零。
後のことは後のことであると、今は有栖と陽彩に楽しい思い出を作ってもらうことだけを考えるべきだと、後々の炎上を予測しながらも、彼は火種を作りにプリクラ機の中に入っていく。
二度目となる今回の撮影は、最初の時とはまた違った緊張感がある。
だがしかし、自分よりも十倍は緊張していそうな陽彩の様子を見ると、それがどこかに吹き飛んでしまうのだから不思議だ。
「さささ、撮影っていつ始まるの? ぽっ、ポーズはどうすればいい?」
「落ち着いて、陽彩ちゃん。ほら、リラックス、リラ~ックス……!」
【ペガサスカップ】本番を迎えた時よりも緊張している彼女を落ち着かせるために声をかけ、共に深呼吸を行う有栖。
やっぱり二人は仲がいいなと思いつつ、次の機会では自分抜きでプリクラを撮ってもらおうと思いながら、零も気にしていたポーズについて話をしていった。
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