実を結んだ、努力

『ああ。やっぱり気になっちゃいますよね、そこ』


 マリの問いかけに対して、そうくるだろうなと予想はしていたとばかりに苦笑気味に男が言う。

 朗らかで丁寧な雰囲気ではあるが、彼女がどうしてこんな話を持ちかけてきたのかという理由はマリにとっても確認したい部分だ。


 このコラボ、【反省厨】側からしてみればメリットしかないわけだが……企業勢である相手からしてみればデメリットの方が目立つ案でもあった。

 マリたち側の数少ない不安点である『相手側のファンがこのコラボを拒絶するかもしれない』という可能性が現実になった際の恐ろしさは、実際に目にした彼女が重々理解している。

 女だらけのVtuber事務所に男性タレントがデビューした際に巻き起こった大炎上を思い返した彼女は、コラボを持ちかけてきた相手へと再び同じ質問を繰り返す。


「何故、私たちなのでしょうか? コラボをするなら、他にいい相手を選ぶこともできるのでは……?」


 自分たちのことは自分たちが一番理解している。

 確かに【反省厨】は今、Vtuberファンたちからの注目を集めているグループだが、それが炎上すれすれのものであることもわかっていた。


 いわば【反省厨】ははぐれ者の集まり。バーチャルの世界で大失敗してしまった他に行き場のない者たちが徒党を組んだ、あぶれ者たちの集団だ。

 個人勢であるが故に自由度は高いが、その自由さと無法を取り違えたことが原因で炎上した彼らにはアンチだって多い。

 少なくとも、あまりよろしくない噂を聞くVtuberたちである【反省厨】と推したちがコラボすることを一般のファンが嫌がるのはごくごく自然な反応であるはずだ。


 企業勢である相手側にとって、【反省厨】とのコラボは諸刃の剣。

 そんなリスクを背負わずとも、他に注目を集めているであろうVtuber事務所のメンバーを誘ってコラボ企画を行えばいいというマリの考えは的外れなものではない。


 下手を打てば、【反省厨】諸共炎に包まれて大炎上してしまいそうなこのコラボをどうして持ちかけてきたのか?

 その答えを確かめるための質問を口にしたマリへと、通話の相手が落ち着いた声で答えを述べていく。


から、ですかね。単純に、それ以上の理由はありませんよ』


「……どういう意味でしょうか?」


『言葉通りの意味です。私は【反省厨】の皆さんとお話したり、一緒に遊んでみたいと思ってコラボを持ちかけたんですよ』


 屈託のない雰囲気でそう告げる相手の言葉に困惑するマリ。

 そんな彼女に対して、相手はこう続ける。


『一度は大炎上して引退の危機にまで瀕した人たちが、手を取り合ってグループを結成した。腐らず、諦めず、叩かれながらもVtuberとして活動する皆さんの姿を見て、どうしてそこまで頑張るんだろうって思ったんです。その理由を聞いてみたいし、間近であなたたちのことを見てみたいと思った。だから、コラボにお誘いした……それが理由じゃ駄目ですか?』 


「駄目、ってことはないですけど、でも……」


 個人的な好みが理由だと答えた相手に対して、どう返すべきか悩むマリ。

 そんな彼女の心を見透かしたかのように、向こうが口を開く。


『ああ、もちろん私たちにもメリットはありますよ。アウトロー集団である【反省厨】さんとコラボを行うことで、私たち自身の活動の幅が広がるんです。Vtuber界隈が清楚でお行儀よく、だけじゃあ生きていけない世界だっていうのはアルパさんだってよくご存じでしょう?』


「それは……そうですね」


『そういったメリットも合わせて、私は事務所に自分の想いを伝えた上で【反省厨】さんとコラボがしたいって言いました。それで……事務所側もOKを出してくれたんです。皆さんが活動する姿や配信を観た上で、コラボをしても問題ないと事務所が許可を出してくれたんですよ』


「……!?」


 Vtuber事務所が、所属タレントに【反省厨】とのコラボ許可を出した。

 その言葉が意味することは一つ、相手側の責任者がマリたちを信用したということだ。


 確かに事務所からの許可がなくてはこんな大規模なコラボなんて実行できるはずがないと、向こうである程度の話がついているからこそこうして話を持ちかけてもらえているのだと、そのことを遅まきながら理解したマリが驚きに目を見開く中、話を続けてきた相手が言う。


『……不安な気持ちも理解できます。ですが、これは【反省厨】の皆さんにとってもチャンスなはず。お互いに協力して、応援してくれるファンたちのハートを鷲掴みにしてやりませんか?』

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