独りぼっち、個人勢

【こんアルパ~! 質問なんですけど、マリちゃんって誰かとコラボする予定とかないの?¥500】『ぽけ(牧草農家)さん、から』


『ん? ん~……コラボねえ……』


 蛇道枢の前世にまつわるデマ騒動が落ち着いてから暫く経ったある日の配信のこと、マリは牧草農家の1人がスーパーチャットと共に投げかけてきた質問に対して、何とも言えない表情を浮かべて唸っていた。

 少しその質問の返答について悩み、考え、迷った後、これ以外の答えはないではないかとこの逡巡の無意味さに苦笑を浮かべた後、彼女が回答する。


『ない、かな。残念だけど、今のところは欠片も予定がないよ』


 自嘲気味に笑いつつ、一拍の間を空けるマリ。

 呼吸を整えた後、彼女はその辺の事情について牧草農家たちへと語っていく。


『そもそも私にはVtuberの知り合いとかいない状態だったし、人脈作る前に大炎上かまして孤立しちゃったからね……まだ腫れ物状態の私を誘ってくれるようなお友達なんて、残念ながらいないわけよ』


【なるほど……なんかごめん】

【炎上前はどうだったの? コラボのお誘いとか来てた?】


『いや、実を言うとそうでもなかったんだよね。伸びはしてたけど方向性がだったじゃない? サシでも複数人でも放り込むと危険な女だと思われてた感があったんだと思う。SNSでも絡んでたVtuberさんとかあんまいなかったしさ』


 好き嫌いがわかれる過激な配信を行っていた少し前の自分のことを振り返ったマリがそう説明を行う。

 今度は笑うのではなく少しだけ凹んだ雰囲気でため息を吐いた彼女は、愚痴るようにして牧草農家たちへとこう言った。


『だからちょっと羨ましいんだよね、事務所に所属してるVtuberさんたちとかがさ。同期同士で助け合えるし、コラボ相手とかにも困らないわけじゃない? もちろん、そういうところに所属してる分、活動内容に制限がかかっちゃう部分もあるんだろうけどさ、それでも仲間がいるってすんごく心強いことだと思うわけよ』


【わかる。孤独って意識しちゃうと辛いよね】

【マリちゃんには俺たちがついてるぞ!!】


『ありがと。牧草農家たちのことを忘れてるわけじゃあないし、大切には思ってるよ。ただやっぱ、配信上で絡める友達はそれとはまた別だよね……』


 過激な活動内容の弊害はこういうところにも出るのだと、独りぼっちで配信を続けていたマリはそのことをしみじみと実感していた。


 これは炎上の有無に関わらず、単純に危ない発言や行動を見せる相手と絡むリスクを考えた結果、そうなっていると言った方が正しいだろう。

 コラボ相手の言動によって自分のチャンネルがBANされるだなんて冗談にもならないのだから。


 マリは凄まじいまでの伸びを見せていたが、チャンネル登録者数1万人程度のVtuberならば掃いて捨てる程いることも確か。

 過激な物言いをするマリによってファンが荒れたり、チャンネルが存続の危機に瀕することを考えれば、彼女と絡まない方がいいと考える者が多くなるのは当然の話だ。


 そこに大炎上が加わった結果、マリは完全に腫れ物状態となって個人勢の中でも孤立した存在になってしまっている。

 元々、仲が良かったVtuberがいるわけでもない彼女にはコラボの誘いなど来るはずもなく、今日もこうして1人で寂しく配信を行っているというわけだ。


 自身の炎上の発端が芽衣をコラボに誘ったことだということを考えると、何とも皮肉な話ではないか。

 そして、あの炎上を機に変化した枢と自分の境遇を考えると、どうにも明暗がくっきり分かれてしまっていて嫌になってしまう。


 デビュー当時は【CRE8】の箱推しファンたちから存在を疎まれ、同期とコラボを行うという告知が出ただけで炎上するような人間だった枢も、今やその人間性を周知されると共にファンたちから認められつつある。

 最初に絡んだ芽衣はもちろんのこと、新たに花咲たらばとも関係性を築きつつある彼は、今後も他の同期や先輩たちと出会い、絆を結んでいくことだろう。


 それに比べて自分は……と、ネガティブなことを考えそうになる自分自身の思考をマリはすんでのところでストップさせた。

 他人を羨んでも仕方がないし、こういう活動方針を選んだのは自分で、自由で奔放な活動のツケが回ってきているだけなのだと言い聞かせた彼女は、それでも溢れるため息と共にこんな愚痴をこぼす。


『これが個人勢の悲しみってやつかねえ……自分から動けばいいのかもしれないけど、こういう立場だとコラボのお願いをするのも気が引けちゃうしさあ……』


 マネジメントをしてくれるスタッフもいなければ、気軽に絡める同期もいない。

 自由であると同時に孤独でもある個人勢の辛いところを嘆くマリであったが、他にも個人勢であるが故の悲しみは存在していた。

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