降下直後、開戦


『枢くん! 芽衣ちゃん! 目的地に降りたらすぐに装備を整えて! あっちのチームが仕掛けてくる可能性が高い!』


『わ、わかった!』


『ですよね、っと! 何か謎の威圧感が背後から押し寄せてきてますもん!』


 完全に自分たちをマークしているように思える祈里の気配に怯えながら、陽彩の指示に返事をする零。

 物資の散策を効率良く行うために途中で散開した3人は、目的地である基地の別々の位置へと降り立っていく。


 ガクンッ、という視界の揺れに対応しながら着地と同時に走り出した零は、大急ぎで間近に見えていたサプライボックスを開け……その中身を目にして、絶望の呻きを上げた。


『うげぇっ!? ものの見事にアーマーと弾しかねえじゃねえかよっ!?』


 どうやら自分は相当に運が悪いらしい。一刻を争うこの状況で、最も重要な武器が入っていない箱を2連続で引いてしまうのだから。

 とりあえず、追加の体力となるアーマーだけを装備した零は、次なるサプライボックスを探すべく走り始めたのだが――


『見つけましたよ、蛇道さ~んっ!!』


『うおおおっ! おおおおっ!?』


 時すでに遅し。最低限の武器のみを手にした祈里が、それを乱射しながら攻撃を仕掛けてきた。


 本来ならば弱い武器であるはずのハンドガンしか持っていない彼女であるが、素手の零にとってはそれすらも大きな脅威だ。

 単発の発砲音が響き、着弾エフェクトが周囲で舞うと共にアーマーの耐久値が削れていく様を目にした零は、物資の探索を諦めると迫る祈里から離れるべく、建物の方へと全力でダッシュし始める。


『すいません、見つかりました! 今、全力で逃げてます!!』


『ごめん! こっちも2人に襲われてる! 武器とアーマーが取れたから倒したら助けに行くけど、すぐには援護できない!』


 走りながら、背後から銃弾を撃たれながら陽彩へと現状の報告を行えば、彼女もまた祈里以外のメンバーに襲撃されていることがわかった。

 本来ならばこういった事態を避けるために、索敵キャラを使っている自分が周囲の警戒を行うべきだったのに……と、自分自身のことでいっぱいいっぱいになっていたせいで仲間たちを窮地に陥らせてしまったことを後悔する零。


 そもそもが安全策を採ろうとしていたがために開始早々に本格的に戦闘を行うとは思っていなかったという甘えがあったのではないかと油断していた自分を叱責しながら、兎にも角にもこの危機的状況を脱するために必死に考えを巡らせていく。


 どうにか祈里を振り切って、武器を手に入れて、迎撃態勢を整えて……そうして体勢を立て直さなければと考えながら走る彼を追う祈里もまた、仲間たちと話をしながら敵チームを追い詰めにかかっていた。


『奈々さん、羽衣さん、そちらの状況はどうですか!? いい感じで推しを追い込めてます!』


『ちょっと強引過ぎたんじゃない!? ってか、この人かなり強いんだけど!』


『だから開始早々仕掛けたんです! 魚住しずくさんのゲームの腕前は【CRE8】どころかVtuber界でもトップクラス! 私たちがまともに戦って勝てる相手じゃありません!』


『向こうが態勢を整える前に奇襲して、倒しちゃおうってことね? 建前はわかったけど、本音は?』


『推しと1秒でも早く邂逅したかったからに決まってるじゃないですか!』


『正直でよろしいっ!! でも多少は自重しろっ!!』


 推しへの愛の重さ故に暴走する祈里に巻き込まれた形になった奈々と羽衣は、冷静なようで冷静でないリーダーにツッコミを入れつつも彼女の作戦に従って自分たちの役目を果たすべく動き続ける。

 彼女たちが2人がかりでしずくを仕留め、自分が逃げる枢を倒し、残る芽衣を3人で仕留めるという奇襲作戦で零たちを追い詰めつつある祈里は、妙に興奮している謎のテンションのまま、実に楽しそうな声で叫んだ。


『推しを傷つけるのはファンとして本意ではありませんが、これは本気の勝負! 申し訳ありませんが勝たせていただきますよ、蛇道さん!!』

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