休憩中、応接室にて
「すんません。なんか、1人で熱くなっちまって……」
「う、ううん。こっちこそごめんね。ボクが不用意なことを言ったせいで、真桑さんの逆鱗に触れちゃったみたいで……」
休憩時間中、応接室で休んでいた零は先の自分の失態を2人へと謝罪していた。
そんな彼の言葉に大きく首を振った後、陽彩もまた彼へと謝罪の言葉を述べる。
大会に参加する以上、ゲームを楽しめればそれでいいだなんて考えは自分たちを応援してくれているファンたちへの裏切りに他ならないという甜歌の意見を気にしている様子の陽彩の表情は、どこか浮かない様子だ。
零がそんな彼女に対して励ましの言葉をかけようとした時、薫子が陽彩の肩を叩きながら言う。
「陽彩、お前は何も間違っちゃいないよ。零も言ってたが、お前の夢や考えを否定する権利なんて誰にもない。堂々と胸を張りな、お前の夢を応援してくれているファンたちは、お前が勝つことよりも夢に向かって努力する姿を応援してくれてるんだ。そんな風にしょぼくれてちゃ、その声援に応えられないだろう?」
「……はい」
所属事務所の代表であり、自分の夢をよく理解してくれている薫子からの励ましは、陽彩の心に強く響いたようだ。
まだ悩んでいる雰囲気こそあるものの、多少は気持ちを上向きにした陽彩が顔を上げて頷く姿を見た薫子は、今度は甥である零へと向き直ると口を開く。
「零、あんたの気持ちはわかるが、ここは話し合いの場だよ。喧嘩売られたからって熱くなるんじゃない……って、事務所の社長として言っておくがね、星野薫子の本心としちゃあ、よく噛みついたって言ってやりたいところさね。誰かの夢を応援するために怒れるお前のことを、私は誇りに思うよ」
「あ、あざっす……!」
「ただし! ……話し合いの前にも言ったが、昨日の配信でやったみたいな真似を相談なしにやるのはダメだ。そこんところは肝に銘じておきなよ、わかったね?」
「う、うっす!」
褒められたり釘を刺されたりと忙しいが、この感じから察するに薫子はそこまで怒っているわけではなさそうだ。
そのことに対してほっとしつつも、少なからず彼女に心配と迷惑を掛けてしまったことに申し訳なさを感じた零は、甜歌に負けず劣らずに暴走気味な自分自身の行動を猛省する。
(ちょっとやり過ぎな部分は否めないよな。
悪いことをしているわけではないが、配信者として危険な橋を渡っていることは確かであり、それを事務所側の人間が止めるのは当然のことだ。
薫子にもそうだが、昨日の配信を観たであろう有栖や天たちからも朝方に心配が多分に込められた怒りのメッセージが送られてきていたし、そういった自分のことを想ってくれる人のためにも、今後はこういった行動は自重しなくてはならないだろう。
……まあ、今後も必要に応じて燃えに行くつもりではあるが、と考えたところで本気で怒って自分を問い詰める有栖の姿を想像した零が先程よりも強い申し訳なさを感じる中、ここまで黙っていた陽彩が口を開くと共に、ぽつりとこんなことを呟く。
「……何だか真桑さん、様子がおかしくないかな……? 上手く言えないけど、本当に変だと思う……」
「う~ん……確かにそうですよね。言い争ってる時は頭に血が上ってたから気が付かなかったけど、この場であんなことを言うのっておかしいにもほどがありますし……」
陽彩の言葉を受けた零が、申し訳なさ(と泣きながら自分を怒る有栖の妄想)を振り切るかのように様子が変であった甜歌のことを考え始める。
強気な性格であり、勝利に対する執着が人一倍強いということは聞いていたが……あの空気の中でそんな我の強さを出すのは、確かに妙だ。
所々にそういった気の強さを感じさせる言動は見受けられていたが、少なくとも途中までは零たちに対しては敬語で接して、そういった態度を見せないようにしていたはずだ。
そんな彼女が突如として陽彩の意見を否定し始めたことに対して、零だけでなく陽彩と薫子も疑問を深めている。
「やっぱり、ボクが余計なことを言ったから怒ったのかな? ファンの期待を裏切ってるって言われたら、確かにその通りだし……」
「そんなことはないよ。真桑甜歌の意見は間違っちゃいないが、絶対に正しいってわけでもない。陽彩の意見とは違う、また別の正解ってだけさ。でも、だからこそなのかもね。あの子がムキになっちまったのは……」
「え……?」
何か甜歌の豹変の理由に心当たりがあるかのような薫子の言葉に、驚いた零が顔を向ける。
単純な性格の問題だけではなく、あそこまで彼女が躍起になって陽彩や零の意見を否定しようとした理由は何なのか? そう、零が薫子に問いかけようとした、その時だった。
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