勝てなくっても、楽しめればいい
「げ、ぇ……!?」
唸るように、呻くように、喉から声を絞り出した零が陽彩の言葉に反応する。
試合の立ち上がりどころかそこからの展開に大きく影響するランドマーク争いに参加すらできないという状況がどれだけ厳しいものなのかは、まだ経験が浅いスタバトプレイヤーである彼にも理解できた。
このままでは試合開始の時点で他のチームたちにかなりのアドバンテージをつけられてしまうと焦った彼は、どうにかその状況を打破できないかと考えを巡らせていく。
「あの、例えばの話なんですけど、スクリムに参加できなかったチームには何かしらの救済措置があったりしませんか……?」
「ないよ、そんなもの。少なくともランドマークを設定する権利は不参加チームにはない。参加チームよりも参加してないチームの意見が通っちゃったら、誰だってスクリムに参加しなくなっちゃうもの」
「そ、そうですよね……じゃ、じゃあ、本番で他のチームのランドマークに降下して、その場でランドマーク争いをするとかは……?」
「やってもいいけど、滅茶苦茶嫌われるし絶対に炎上するよ。各チーム、それぞれが自分たちのランドマークの特性を活かした戦術を考えているわけで、それを台無しにする降下地点被せっていうのは禁じ手なんだ。実際、プロリーグでも同じことをしたチームが優勝候補チームの逆転の芽を摘んじゃって、炎上したこともあったし……やるだけリスクが高い戦術だと思うな」
「え、ええっと、う~んと……」
救済措置もない、大会本番でのサプライズもほぼ禁止事項になっている。
つまりはもう、スクリムに参加できない時点で零たちの不利は確定しており、それを踏まえた上で【ペガサスカップ】に参加するしかないというわけだ。
どうにかしてスクリムに参加する方法はないかと考える零であったが、悪い意味で大いに注目されている自分たちが他の参加者と絡むことによって炎上の余波が広がってしまう可能性を考えると、それも難しいという結論に至ってしまう。
誰かに迷惑をかけた結果、治まりつつあった炎の勢いが再び勢いを取り戻すかもしれない以上、慎重な行動を余儀なくされるのは当然のことだ。
暫くの間、思考をフル回転させてこの問題を打破する方法を模索していた零であったが、流石の彼でもこれはどうしようもないという結論に至るしかない。
顔を上げた彼が非常に難しい表情を浮かべていることを見て、この絶望的な状況を理解したのだろうと判断した甜歌が小さくため息を吐きながら同僚をチクリと刺す。
「どっかの馬鹿のせいで配信は荒れるわ、肝心の大会でドデカい不利を背負う羽目になるわ……本当に最悪としか言いようがないわよ。私たちは優勝目指して頑張ってるのに、それを邪魔して嬉しい?」
「………」
軽い一刺しどころかざっくり心臓までを貫きかねないその嫌味に七種は顔を青くして俯くことしかできないでいる。
社長であるいつきが視線で釘を刺すも、甜歌はまだまだ同期に対する不満は残っているぞと無言の主張をするかのようにしかめっ面を浮かべたままだ。
強気な性格をしていることも知っているし、信頼していた同期に裏切られたショックを抑えきれない気持ちもわかるが、もう少し落ち着いてほしいな……と、重苦しい空気を生み出している甜歌の七種への憎悪に零が戦々恐々とする中、この雰囲気を払拭すべく、陽彩が口を開いた。
「で、でも、大丈夫、ですよ……! 確かに不利な状況にはなっちゃってますけど、絶対に負けるってわけじゃないですし……【ペガサスカップ】を楽しむって目的に関しては、この問題は障害にはなりません、から……!」
引っ込み思案で弱気な陽彩が、精一杯のフォローと慰めをするように一同へとそう告げる。
緊張でカチコチになりながらも真っ直ぐに前を向いた彼女は、焦りつつも必死に自分の考えを全員へと語っていった。
「大会で勝つとか負けるとか、そういうのは二の次だってボクは思います。まずは参加するボクたちが楽しまないと、それを観てくれてる人たちにゲームの楽しさが伝わらないと思うから……だから、【ペガサスカップ】に参加して試合を楽しむことさえできれば、別に負けちゃっても問題はないですよ。この状況だって、一種の縛りプレイだと思えば十分に楽しめるはずですから」
大事なのは試合の結果ではなくその過程だと、何より重要なのは大会の中でゲームを楽しむことだと、そう主張する陽彩。
彼女の夢であり、今回【ペガサスカップ】に参加する大きな理由である沢山の人たちにゲームの楽しさを伝えるという目標を達成するためには、それが何よりも大事なのだと……そんな陽彩の考えを、零は心の中で肯定していた。
彼女の言う通りだ。どんな不利な状況であろうとも、それすらも楽しんでしまえばそれでいい。
確かに勝つことは大事だが、それ以前にゲームを楽しめなければプレイする意味はないと……そう考えた零が、賛同の意見を口にしようとしたその時だった。
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