ランドマークという、重要要素


「重要な意味って……マップの確認とか作戦を立てるための情報収集以外にも意味があるんですか?」


「……ああ、阿久津さんはスタバトだけじゃなくてFPSゲーム自体に詳しくないんですね。なら、知らなくても仕方がないか……」


 物々しい陽彩の言葉に眉を顰める零に対して、彼がFPS初心者であることを思い出した甜歌が納得したように頷く。

 リーダー同士で妙に通じ合っている2人の反応に戸惑う零であったが、そんな彼へと陽彩がスクリムに参加できないことで生まれる不都合についての詳しい説明を行っていった。


「あの、零くんはっていうゲーム用語を知ってる、かな……?」


「……いえ、すいません。全然知りません」


「えっと、ランドマークっていうのはバトロワ系FPSゲームで使われてる用語で、最初の着地地点を意味する言葉なんだ」


「主にプロ同士の試合やこういった大会で使われる言葉だから、知らなくても仕方がないと思いますよ」


「あ、そうなんですか……ご丁寧にどうも……」


 簡潔にランドマークというゲーム用語について解説する陽彩と、その言葉を知らなかった零へのフォローをする甜歌。

 やっぱりこの2人、妙に息が合ってないか……? と訝しがる零であったが、今はそんなことよりも陽彩の話を聞くべきだと考え、彼女の解説へと耳を傾ける。


「今更説明する必要もないと思うけど、スタバトってゲームが始まったらステージの上空を飛ぶ飛行機から飛び降りるところからスタートするよね? で、降りた先にある武器やアイテムを拾って戦いの準備を整える。それが基本的な動きでしょ? そして、スタバトはアイテムの内容はランダムだけど、アイテムが置いてある場所は固定されてる。ランドマークっていうのは、そういうアイテムが多く集まってる初動が安定しやすいポジションのことを指す言葉でもあるんだ」


「あ、ええっと……? ランドマークっていうのはゲームが始まって最初に降り立つ場所のことを指してて、それと同時に初動が安定しやすい位置でもあって……?」


、って考えるといいかもしれませんね。プロたちが研究した結果、そういった場所がスタバトのマップには20か所近くある。このランドマークの選択が後のゲームの展開を大きく左右するんです」


 陽彩と甜歌からのW解説を聞きながら、必死に情報を噛み砕いていく零。

 ランドマークというゲーム用語が持つ多様な意味に翻弄されながらも、彼は少しずつ理解を深めながら2人の話を聞き続けていた。


「零くんは知らないと思うけど、こういう大会での試合は野良でプレイする試合と違って、物凄く展開が遅いんだ。配信でやってると降下した直後に戦いが始まったりするけど、プロシーンではそんなことはほとんどない。降り立ったランドマークにあるアイテムを漁って、準備を整えて……そこから状況を分析しながら動いていくんだよ」


「これは配信を行っている人間に対する配慮みたいな部分もありますね。試合が始まって30秒で即脱落、なんてことになったら、そこから試合終了までずっとトークで場を繋がなくちゃいけなくなりますから。見せ場も何もなくあっさりと負けた上、そのテンションで試合の実況をしなくちゃならないだなんて、考えただけでも地獄でしょう?」


「ああ、なるほど……! 確かにそれは避けたい事態っすね……」


「ただこれはあくまで試合がスローテンポで進むことが原因で生まれた配信者に対するメリットであって、それが目的ってわけじゃあないんだ。さっきも言った通り、こういう大会ではまずは降下先でしっかりと準備を整えて、そこから動き始める。ランドマークの目的は、その基本的な動きを確実に可能にするって部分にあるんだ」


 ふむ、と小さく呻きながら腕を組む零。

 陽彩と甜歌の説明のお陰で少しずつランドマークについて理解していった彼は、それらの情報を組み合わせた上で頭の中で結論を導いていく。


 ランドマークとは、最序盤に動くための準備がしやすい、アイテムが多く落ちている場所のこと。

 当然だが、ランドマークの中でもアイテムが多く置いてある地点やステージの中央にあるお陰で安全地帯に残りやすくなる場所などの差は存在しており、そういった特徴を踏まえて強いランドマークや弱いランドマークというものが存在している。


 最初にアイテムが大量に確保できればそれだけで有利が取れるし、安全地帯への移動距離が短くなれば敵と遭遇する可能性も低くなり、部隊の被害を最小限に抑えられる。

 各チームは自分たちのプレイスタイルを加味した上で自分たちに合ったランドマークを選択し、作戦を練るというわけだ。


「それで、そのランドマークを決める実質的な機会っていうのが、このスクリムなんだよ。練習試合を何回かして、各チームのランドマークを全員が把握する。その上で、もしも自分たちとランドマークが被っているチームがあったらどうするのか? っていうのを決めていくんだ」


「固執せずに退いて別のランドマークに降り立つのか? それとも他のチームにこの場所は譲らないという意思を見せて同じランドマークに降下し続けるのか? そういった駆け引きをしつつ本番での動きを決めるっていう意味合いもある、本当に大事な機会なわけですね」


「ははぁ、なるほど……!! ん? ちょっと待ってください。俺たち、そのスクリムには参加できなさそうなんですよね? その場合ってその、つまり……?」


 ようやく全てが理解できたと、ゲームに対する膨大な知識を持つ陽彩たちの解説に感謝しつつ頷いた零であったが……理解してしまったが故に思い至った絶望的な事態に気が付くと共に顔色を変えた。


 ここまでの話を聞くに、ランドマーク選びというのは試合に勝つためには本当に重要なものであり、その調整と最終的な決定はスクリムの中で行われるとのことだが……自分たちはそれに参加することはできない。

 それが意味することを理解し、表情を引き攣らせる零に対して、彼自身の考えを肯定するかのように陽彩が述べた。


「……スクリムに参加できない以上、ボクたちはランドマーク争いにも参加できない。つまり、他のチームが使わなかった弱いランドマークからのスタートを余儀なくされるってことだよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る