7日目、そしてこれからも
『……で、この配信に繋がるってわけか。なんか、振り返ってみるとあっという間だったような気もするけど、本当に長い1週間だったね』
『そうだね……楽しい1週間だったよ、本当に……』
初日の裁判配信から、6日目のクイズ配信に至るまでの振り返りを終えた枢がしんみりとした口調でその思い出たちを総括する。
芽衣もまた、そんな彼の言葉に同意するように頷いた後、自身の気持ちを噛み締めながら呟きを発した。
今日、この日までの1週間。準備期間を含めればもっと長い時間を、同期たち5人で過ごした。
色んな案を出し合って、企画を立てるために話し合って、そのための準備を全員で進めて……その合間に出かけたり、他愛のない話で盛り上がったりと、仕事をしているとは思えないくらいに楽しい毎日を送ってきた。
そんな毎日も、今日で終わり……気が付けば、あれだけ大量に用意したお好み焼きのタネも随分と少なくなっている。
ジュージューというホットプレートの上で物が焼ける音を聞きながら、少しずつ物悲しい雰囲気が漂ってきていることを感じながら、たらばが口を開き、同期たちへとこう述べた。
『楽しかったよ。うん、楽しかった。最初はどうなるかと思ったけど、この5人でデビュー出来てよかったって、私はそう思ってるさ~』
『いやあ、もう、本当に……その、どうなるかと思わせた元凶としても、みんなと一緒でよかったと思うわ。配信だけじゃなくて、色んな場所に5人で出掛けたり、こうしてご飯食べたりしたりしてさ……この数週間、滅茶苦茶楽しい毎日を過ごせたよ』
『私も……女の人が苦手で、枢くん以外全員が女性だって聞いた時、ちゃんとお話出来るかな? って心配でした。でも、みんな優しい人たちばっかりで、気が付けばこうして普通に会話が出来るくらいの関係性になれていて……誰か1人でも欠けてたら、こんな風にはなれなかったんじゃないかって、そう思います』
『男だからって理由でデビュー直後に大炎上かました身としては、こうして同期とオフコラボが出来るようになったってことが奇跡としか思えないっすね。本当に色々なことがありましたけど、今が楽しければそれでいいって思えるようになったことが、最大の進歩なのかも』
デビュー直後から今日に至るまで、本当に様々な出来事があった。
ファンからの反発、デマの拡散、インターネットセクハラに前世問題、更には同期の不仲説や事務所を巻き込んだ騒動など、数か月の間に起きたとは思えない数々の事件に巻き込まれたものだ。
だが、自分たちはそれを1つ1つ乗り越え、その度に同じ事務所に所属する同期として、それぞれの夢を追う仲間として、絆を深めることが出来た。
自分たちの夢はバラバラだけれども、掲げた目標に向けて歩き続けているという部分は共通している。
誰かが夢を叶えたらそれを自分のことのように祝い、誰かが問題に直面したらそれを乗り越えるために手を取り合って協力して……そうやって、自分たちはこれからもVtuberとして活動していくのだろう。
やっぱり、死ぬほど面倒くさい毎日の中で、絶望的に過酷な仕事の日々の中で、そういう風に思える仲間を作れたことこそが、Vtuberになって得た、最大の収穫なのではないかと……そう思いながら、しんみりとしていながらも温かい空気の中で、枢がコップを傾けてウーロン茶を飲んでいた時だった。
『……く……なぁ』
『ん? リア様、どうかしました?』
ぼそりと、俯いているリアがなにか呟きを発したことに気が付いた枢が、彼女へとその言葉を聞き返す。
総括的な振り返りの中でも無言だった彼女へと、視線を集中させた2期生たちは、顔を上げた彼女の表情を見て、驚きに息を飲んだ。
なんと、先程まで無邪気にお好み焼きを頬張っていた彼女が、目から大粒の涙を溢れさせながら泣きじゃくっているではないか。
端正な顔立ちを歪ませて、子供っぽい泣き顔になっているリアのことを枢たちが唖然とした様子で見守る中、彼女は改めて先の言葉を大声で口にする。
『終わりたく、ないなぁ……! もっと、みんなと一緒にいたいよぉ……!!』
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