演技の、感想



 静かだがはっきりと自身が抱く感謝の気持ちを枢へと告げた愛鈴の演技には、見る者全てを引き込む力があった。

 司会を務めるさくらもまた、その演技に若干興奮しながら出演者たちに感想を伺っていく。


『愛鈴選手、これは……期待以上の演技だったのではないでしょうか!?』


『はい。お世辞抜きにそう思います。持ち前の演技力に加え、既に構築済みである蛇道さまとの関係や飾らぬ素の自分といった武器を遺憾なく発揮した、素晴らしいASMRでした』


 対戦相手である愛鈴へと、すすきが最大級の賛辞を贈る。

 リスナーたちもまた、予想外の愛鈴の好演に驚くと共に喜びを見せており、コメント欄は大盛り上がりになっていた。


【やるな、愛鈴! お前はやる時はやる女だと思ってたよ!】

【たらばもそうだけど場の雰囲気を作るのが上手いんだよな。情景が頭の中に浮かんできたわ】

【いいんじゃないか? いけるんじゃないか!? CRE8チーム、2連勝出来るんじゃないかな!?】


『さあ、かなりの好演を見せてくれた愛鈴選手の演技に対して、蛇道さんはなにを感じたのでしょうか!? 早速、お話を伺ってみましょう!』


 たらばとはまた違った風の良いASMRボイスを聞かせてくれた愛鈴。

 審査員である枢はそんな彼女の演技をどう評価するのかとさくらが期待を込めて彼に話を振ってみれば、枢もまた素直に賞賛の言葉を口にしてみせた。


『いや、凄かったと思いますよ。たら姉の後でやりにくい空気だっただろうに、そのプレッシャーを全部吹っ飛ばしましたしね』


『おお~っ! 蛇道さんの中でも高評価みたいですね!』


『ただ、その……ドキドキはしなかったかな? 普通に同僚としての関係性っぽかったですし、たら姉の時みたいな緊張とかはなかったっすね……』


『まあ、そうでしょうね。でも逆に私があんたに甘々でイチャイチャに接したらキモイを通り越して怖くない?』


『それはある。だからこれが最適解だったと思うし、すげー自然だったから気持ちは落ち着いたよ。そういう意味では、こちらこそありがとうだな』


 演技力は高いし、現在の関係性のままでのやり取りであったが故に燃える心配や自分の知る愛鈴との性格の差を感じなかったお陰で気持ちこそ落ち着いたが、恋人同士のような甘いやり取りではなかったが故にときめきもしなかった。

 そんな枢の評価を証明するように、彼の心拍数は全く増えておらず、逆にストレス値はたらばの演技によって起こされるであろう炎上を想起していた頃よりぐっと低くなっている。


 だが、愛鈴も枢もこれが彼女にとっての最適解であったということは理解しているようで、少なくともこれが失敗であるとはこれっぽっちも思っていないようだ。


 無理をせず、着実に自分のベストパフォーマンスを引き出すという、破天荒に見えて意外と堅実というか、小心者らしい部分がある愛鈴らしいその演技は、枢だけでなくこの配信を観ている者全員が賞賛する出来である以上、それも当然のことだろう。

 先のたらばの演技にも食われない、十分彼女の演技に比肩し得る内容のASMRボイスを聞かせてくれた愛鈴へと出演者やスタッフたちが惜しみのない拍手を送る中、さくらが同じチームの仲間へと声をかける。


『どう、すすき? ライバルの演技を目の当たりにして、自信は?』


『……絶対に勝てる、とは言えなくなりましたね。正直、こちらが経験者であるという部分で驕りがありました。私が先攻であったならば、その隙を突かれて負けていたでしょう』


 正直に……自分が愛鈴を舐めていたことを告白した後、すすきが軽く息を吐く。

 それが自分の中のスイッチを切り替える合図であるかのように、ゆっくりと顔を上げた彼女は、瞳に炎を宿しながらこう宣言した。


『ですが、今の私にはそういった油断は微塵もありません。我が全霊を以て……この勝負、勝たせていただきます』


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