第2試合後攻・秋月すすき


 こちらも気合十分といった様子のすすきの雰囲気に、同じチームであるさくらもごくりと息を飲んだ。

 性格上、愛鈴の演技を見たからといって怖気づくとは思っていなかったが、ここまでやる気を見せるとは……と、驚きを露にする彼女に代わって、もう1人の進行役であるたらばが演技開始の号令を出す。


『では、第2試合後攻、秋月すすきちゃんの演技です! 張り切って、どうぞ!!』


『……ここは短く、簡潔に行かせていただこうと思います』


 たらばからの促しを受けたすすきが、画面が切り替わる寸前にリスナーや枢に向けてそう告げる。

 そのまま、これまでもそうであったように彼女の立ち絵が大写しになった画像へと切り替わった配信の中、彼女は『バイカムⅡ』に向けて息を吸い、小さな呼吸音を響かせた。


『……蛇道さま――』


 静かな呼吸音から溜めを作り、これまた静かな声ですすきが枢の名を呼ぶ。

 間を上手く使い、無言ながらも雰囲気を盛り上げていった彼女は、溜めに溜めた末に絶妙なタイミングで囁いてみせる。


『――月が、綺麗ですね』


 ……それは、あまりにも簡潔でありながら、途轍もなく大胆な一言であった。

 そのままの意味で取れば2人で見上げる月の美しさへの感想を口にしているだけだが、その言葉の裏にはもう1つの意味がある。


 『I LOVE YOU』の和訳……遠回しに愛を伝える奥ゆかしさと大胆さを併せ持つその囁きは、短いながらもそれを聞いた人々の心をがっちりと掴んだ。

 たった一言の演技を終えたすすきは、緊張に深く息を吐き出してから共演者たちへと告げる。


『……終わりました。拙い演技でしたが、如何だったでしょうか?』


『これは……愛鈴選手とはまた違った、というより、真逆の演技でしたね……!』


『こっちもこっちで凄い! というわけで、すすきちゃんの演技について、枢くんに感想を聞いてみよ~!』


 長く話を続け、自身が持ち得る武器全てを使っての演技を見せた愛鈴と、短いながらも深くまで心を貫くような台詞で場を掌握してみせたすすき。

 この両名の演技について、枢はどう思っているのか? たらばの促しを受けた彼は、その感想を語っていった。


『……正直、結構ドキッとしましたね。実質告白されたようなものですし、短かったけれどその雰囲気を作るのがお上手でしたんで、びっくりしました』


『確かにバイタルを見ると心拍数が急上昇してる部分があるってわかるね。でも――』


『ええ、まあ……炎上の危険性を感じるってことで、ストレス値も跳ね上がってるんすよね』


 そう、苦笑しながら自身の正直な反応を述べる枢。

 場の雰囲気を存分に活かした告白というシチュエーションを作り出したすすきの演技は実に素晴らしいものであったが、逆に素晴らしく大胆であったが故の危機というものも彼の下に忍び寄っている。


 というより、現在進行形でその弊害が出ていることを理解している彼は、ちらりと横目でコメント欄を確認し、その内容に浮かべている苦笑を強めた。


【すすきに告白されたか……潰すぞ】

【断っても受け入れてもデッドエンドが待ち受けてるって、実質詰みだな】

【デッドエンドとかバッドエンドというより、炎上エンド?】

【う~む、これは……ギルティ!!】


 演技とはいえすすきから愛の告白をされた枢の下には、当然ながら嫉妬の感情が混じったコメントが多く寄せられている。

 まだこの時点では可愛いものだが、この後にガチ恋勢からの濃厚なクソコメントが送られてくることを想像すれば、多少なりとも心の中にどんよりとした気分が渦巻いてしまうというのが本音だ。


『ときめきはなかったけれども穏やかな気持ちになれた愛鈴さんか? 緊張してしまったけれど胸の高鳴りを感じたすすきか? 判断が難しいところですね……』


『でも勝負であるからには勝ち負けを決めてもらうさ~! 枢くん、結果発表をどうぞ!!』


 1戦目とは打って変わって判断が難しい好勝負となった第2試合の勝敗の行方は、審査員である枢の手に委ねられた。

 じっくりと熟考し、悩みに悩んだ後、枢はその結果を視聴者と共演者たちへと告げる。

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