愛情を、どうぞ


「それってやっぱり、ご家族が原因で……?」


「うん、まあ、そんな感じ」


 ぽつり、ぽつりと自身の抱えているトラウマを語り出した零は、前に彼女と病院で行ったやり取りのことを思い出していた。

 あの時は有栖が話をする側で、自分はそれを聞く側だったな……と思いながら、たった数か月の間にこうして誰かの悩みを聞けるようになるくらいに強くなった有栖の成長を立場が逆転した現状から噛み締める零は、そのことに対してどこか嬉しさを感じているようにも見える。


 プリン、という甘い食べ物にまつわる家族との苦い思い出と、その経験から抱えるようになった孤独感や疎外感といった感情を有栖へと吐露した零は、深く息を吐いてから小さく笑みを浮かべながら、彼女へと言った。


「……ま、わざわざ俺が話さなくとも、事情は把握してるんでしょう? じゃなきゃ、そんな箱なんて持ってこないだろうしさ」


「……うん。ごめんね」


「いいさ。大方、薫子さんあたりに話を聞いたんでしょ? あんだけ妙な反応したら有栖さんたちが気になっちゃうのも当然だし、事情を知ってそうな人に話を聞きに行くのもまあ、妥当だしな~」


 自分と別れてから有栖たちが取った行動を看破した零が、からからと笑いながら言う。

 自分の知らぬところで自身の痛々しい過去を勝手に話されたことにも一切の怒りを感じていなさそうなその姿に小さな胸をちくりと痛めた有栖であったが、その痛みを乗り越え、顔を上げ、真っ直ぐに彼の目を見つめて口を開く。


「……私たちみんな、零くんに感謝してる。零くんが私たちに手を貸してくれたからこそ、今、こうしていられるんだって……Vtuberとして今も活動出来ているのは、なにか問題が起きた時に真っ先に駆け付けてくれるあなたがいたからなんだって、私も、みんなも、そう思ってるよ。その恩返しをしたいって気持ちもあるけど、でも……それ以上に、単純に、大好きな零くんが困ってるなら、手助けしたいって、あなたがしてくれたことを同じようにしようって、そう思ったんだ」


「ありがとう。その気持ちだけで、俺は十分だよ」


「零くんならそう言うだろうなってことも予想してた。でも、無理しないでよ。たまにでいいから、私たちに甘えてほしい。私たちだって、零くんのために出来ることが、少しくらいならあるんだから」


 そう言いながら、有栖が手にしている紙箱を零へと差し出す。

 カラン、カラン、というガラス製の何かがぶつかる音を耳にした零がその箱へと視線を向ける中、有栖は箱の中身について端的にこう述べた。



「え……?」


「零くんにとってプリンが家族から除け者にされ続けたっていう嫌な思い出の象徴だとするなら、そのを作ればいい。料理苦手な人が多いから、あのレストランで出るような極上の逸品みたいにはならないと思うけどさ……零くんが大好きって気持ちをいっぱい込めて作ったんだ」


 ホールケーキが余裕で入るような箱の中にある、沢山のプリン。

 不器用で、料理下手で、決して絶品とはいえないだろうけれども、零への感謝と愛情だけは何にも負けないという想いを胸に彼へと告げた有栖は、更にこう続ける。


「みんなで一緒に食べよう。これは、私と、喜屋武さんと、秤屋さんと、三瓶さんと、加峰さんが、零くんのために作ったプリン。零くんに笑って、美味しいって言ってもらうために、一生懸命頑張ったんだ」


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