本日の料理・豚の生姜焼き


『……はい、手洗いと準備は完了しました。改めまして、今回は芽衣ちゃんに豚の生姜焼きを教えさせていただきますね』


『よ、よろしくお願いします、枢先生!』


 カットが入った後、キッチンに立った2人がテンポよく番組を進行していく。

 野菜も取れる主食である生姜焼きの作り方を教えることで、まずは有栖に日々の食事の基盤を作らせようと考えている零は、今回のレシピについてオーバーなリアクションで彼女に語っていった。


『これはもう、本当に簡単だから! お肉も野菜も取れる上にご飯が進むっていう最高の料理なんで、是非ともマスターしてほしいね!』


『でも、大丈夫かな……? 手を切っちゃったり、指をすり下ろしちゃったりしないかな……?』


『その辺のことは安心して! 今日は極力危なくならないよう、初心者用のレシピにしておいたから!』


 色々と熟考に熟考を重ねた零が自信満々といった様子で有栖に言う。

 その態度に少しだけ緊張を解した有栖がぐっと拳を握り締めてやる気を見せる中、零は材料についての説明を行っていった。


『まずはメインの豚肉! お店とかで出るのは大きめのロース肉だと思うけど、今回は豚コマを使います! 厚さもサイズも丁度いいから包丁を入れる必要もないし、綺麗に並べて焼く必要もないからね!』


『わ……! 前に食べさせてもらったのとは違うレシピなんだ。どきどき……!』


『お次は生姜だけど……これはチューブのやつで大丈夫かな。すり下ろした方が美味しいとは思うけど、いちいち料理する度にそんなことするのも面倒だし、慣れないうちは危ないからね。何より準備が簡単! これは助かる!!』


『よかったぁ……! おろし金使う時に指を擦っちゃわないかっていうのが1番心配してたところだったんだよ……』


『で、もう1つのメインである玉ねぎ! 包丁を使うのはこいつを切る時だけ! 感覚も少し太めで構わないから、初心者でも安心!!』


『ごくっ……! やっぱり包丁は使うんだね。放送事故にならないよう、ががが、頑張る!!』


『残りは各種調味料となっておりま~す! これに関してはこの辺にテロップ出てるだろうから、視聴者諸君はそっちを参考にしてくれい!』


―――――――――――


砂糖、酒、みりん、醤油(生姜焼きのタレ用)


塩、こしょう、小麦粉(肉の下味用)


後はフライパンにひくサラダ油な! by蛇道枢


―――――――――――


 メインの材料である3種を紹介しつつ、残る細々とした材料に関しては編集に丸投げする零。

 有栖も実に初心者らしい良い反応を見せており、スタッフたちも和やかに2人のことを見守っている。


 その後、軽く会話パートを入れた2人は、早速料理の下拵えを始めた。


『じゃあ、まずは肉に下味をつけようか。パックから出さず、軽く広げてくれればいいよ』


『えっと、こんな感じ……かな? 味付けには何を使うの?』


『基本は塩コショウだよ。全体的に塗して軽く揉んだら、小麦粉と絡めていこうか』


『は~い! うんしょ、こらしょ……』


 言われた通りの材料を使い、豚肉に下味をつけていく有栖。

 零はそんな彼女の手助けをしつつ、料理番組らしく解説を行っていく。


『下味っつっても生姜焼きの味付けはタレでやるから、そこまでがっつりやる必要はないからね。小麦粉は味付けじゃなくて肉を柔らかくするために絡ませてるから、こっちも適量を見極めて塗していこう』


『うん! ……お肉のパックから出さずに下拵えが出来るから、洗い物が出なくていいね!』


『そこも豚コマの良いところかな。ロースだとパックから出さないとスペース足りないってこと多いし、洗い物も含めての料理だからね』


 日頃から自炊している零らしい意見に頷きながら、有栖がしっかりと豚コマ肉に小麦粉を絡ませていく。

 ややあって、丁度いい具合に肉の表面に白い粉が塗されたことを確認した零は、そこで肉の下拵えを終えると次の準備に移った。


『じゃあ、一旦手を洗ってもらって、次は玉ねぎを切ろうか? 俺はその横で調味料を合わせておくよ』


『うぅ……っ!? 遂にこの時が……!』


 まな板の上に置かれた半分の玉ねぎと、それを切るための包丁を目にした有栖が緊張した面持ちを浮かべながら息を飲む。

 刃物を使う……という、料理初心者らしい恐怖に怯える彼女を、零は励ますと共に注意事項を伝えていった。


『あんまり緊張しないでも平気だよ。包丁をこう握って、左手は軽く握って……』


『こ、こう、かな……?』


『そうそう! で、あんまり高く上げず、ゆっくりでいいから玉ねぎに当てて……斜め前に押し出すようにしながら下ろしてみて』


『ゆっくり、慎重に、斜め前に下ろす……!』


 零からのアドバイスを繰り返しながら有栖が包丁を動かしていけば、気味の良いザクザクという音がテンポよくキッチンに響いた。

 多少の幅のバラつきこそあるものの、問題なく包丁を扱えている有栖の様子に笑みを浮かべた零は、素直に彼女のことを褒め称える。


『上手い、上手い! 芽衣ちゃん、ちゃんと包丁使えてるじゃない!』


『で、でも、玉ねぎの大きさがバラバラだし……スピードも遅いし……』


『そんなのは続けていけば身につく技術だから問題ないって! 生姜焼きの玉ねぎはある程度大きい方がボリュームがあって良いと思うし、このくらいが丁度いいんじゃないかな?』


『そ、そう? そっか、よかったぁ……!』


 1番不安だった包丁捌きを零に褒めてもらえたことが嬉しかったのか、有栖は満面の笑みを浮かべて照れている様子だ。

 そんな彼女のことを最後までしっかりと見守った後、零は自分の用意したタレも含めた3種の材料をカメラの前に出す。


『はい、これで準備は完了! ここから炒めに入るから、要チェックな!!』


――――――――――


※くるるんは先に調味料を混ぜましたが、自信がある人は材料を炒めながら順番に調味料を投入していっても構いません。

そっちの方が味の調節とかしやすいかも! by蛇道枢


――――――――――

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