第1回くるるんキッチン!(ゲスト・羊坂芽衣)

料理配信、開始


『……この番組は、料理技術どころか家事スキル皆無な【CRE8】所属Vtuberのために、料理出来る系男子である蛇道枢が美味しいご飯の作り方を教えてあげる、優しさと温もりに満ち溢れた番組です……なので彼を燃やさないであげてください、お願いします。【CRE8】スタッフ一同より』


『……なあ、なんかおかしくねえ? スタッフ一同、俺が燃やされることが前提で話を進めてねえか? どうしてそんな奴に公式番組を任せたんだよ? おい!?』


 夜7時ぴったりに配信された動画の冒頭で、いきなり零が怒りの叫びを上げる。

 ははは、という楽し気なスタッフたちの笑い声に対して、若干引き攣った表情を浮かべて先の咆哮はパフォーマンスでもなんでもないぞと宣告した零は、そこで一度気を取り直すと改めて自己紹介を行った。


『え~、はい。配信を観てくださっている皆さん、どうもこんばんは。【CRE8】所属Vtuber、蛇道枢です。どうしてだかはわかりませんが、こんな自分が【CRE8】公式チャンネルの方で配信される冠番組を持つことになってしまいました』


 画面に表示されている蛇道枢はまさにどうしてこうなった? と言わんばかりの表情を浮かべており、未だにこの事態に困惑しているようである。

 この事務所のスタッフは無茶ぶりが基本スタンスになっているのか? という疑問を抱きながら、それでも与えられた仕事を全うすべく、零は粛々とこの料理番組を進行していった。


『冒頭でもナレーションで言ってありましたが、この番組はどうやら俺が他の【CRE8】所属Vtuberさんたちに料理を教えるっていうコンセプトの下に制作されてるみたいです。……ってか、2Dモデルと実写映像で料理番組作るって時点で難易度高くねえ? 無茶振りが過ぎなくないっすかね?』


 企画内容を説明しつつ、愚痴をぽろり。

 スタッフたちの笑い声が再び響く中、大きく溜息を吐いた零は諦めた様子で今回のゲストを紹介する。


『いつまでも愚痴っててもしょうがないので、早速ゲストをお呼びしましょう。初回のゲストは……羊坂芽衣ちゃんです、よっ!!』


『みなさん、こんばんめ~、です。【CRE8】所属2期生タレント、羊坂芽衣です。今日はよろしくお願いします』


 やや緊張した声と共に羊坂芽衣の立ち絵が表示される。

 スタジオで零と共にエプロン姿で並び立つ有栖もまた、緊張しているのか表情を強張らせていた。


『いや、もう、本当に……ゲストが芽衣ちゃんでよかったよ。俺にとっては芽衣ちゃんがこの空間で唯一の癒しだもん』


『んぇっ!? ちょ、恥ずかしいよ……! そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私本当に料理出来ないし……枢くんの指導を受けてもまともな料理が作れるようになるとは思えないんだけど……』


『その辺は任せておいて! もうしっかり練習してきたから! 芽衣ちゃんの健康的な食生活のためにも、今日はしっかりレシピを覚えて帰ってもらいます!』


 軽くイチャつきを見せつつ、不安がる有栖をフォローする零。

 気心知れた仲であり、調理技術の拙さを熟知している相手である有栖に料理を教える絶好の機会が訪れたことだけはスタッフたちに感謝している零は、入念に準備を重ねた上で収録に臨んでいた。


 というわけで、完全に料理初心者である有栖へと、零が本日教える料理というと――


『今日はね、芽衣ちゃんに豚の生姜焼きの作り方を教えようと思います! 簡単だし肉も野菜も取れる上に、作り置きも出来るからね。芽衣ちゃんにぴったり!』


『わぁ……! 前に食べさせてもらったやつだよね? でも、私に作れるかな……?』


『そこは先生役の俺がばっちり教えますから、安心してください! それじゃあ、調理前の手洗いからやっていきましょう!』


『はい、枢先生!!』


 本日のメニューを教えつつ、短いながらも仲睦まじいやり取りを有栖と行った零は、彼女に料理を教えるべく、その準備へと移っていくのであった。

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