3つの、命令



『んじゃ、取り合えず語尾に「にゃあ」ってつけて喋って。それでもう1回おねだりしてみてよ』


『えっ? えっとぉ……こ、こんな感じかにゃあ……?』


【ヨシ! 定番だが可愛いに可愛いを掛けて凄く可愛いになってる!】

【羊だか猫だかわからなくなっるが可愛いからヨシ!】

【枢は猫キャラ好き……覚えておこう】


 枢リスナー及び、めいとの面々が猫っぽく話す芽衣の姿に歓喜する中、その状態で彼女は、改めて枢へと命乞いの言葉を口にしてみせた。


『く、枢くん。1回だけでいいから、見逃してほしいにゃあ。お願いします……にゃあ』


『う~ん。このたどたどしさがいいなぁ……! 予想通り、とても可愛い』


『リア様! あの変態が悦に浸ってる間に早く!』


『急いでる! わーも一生懸命急いでますから!』


【可愛い芽衣ちゃんのおねだりの裏でやってるドタバタの激しさに草】

【そっちは無言になった方が色んな面でいいんじゃないかな?】

【これがあるから枢は余裕なのか……】


『く、枢くん。私は他に何をすればいいのかにゃ? これで見逃してくれるのなら、万々歳だけど……にゃあ』


 このままだと愛鈴を救助するだけの時間は稼げないと悟った芽衣は、恥を覚悟で枢へと更なる命令を求めた。

 そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、まだ余裕を見せている枢は次なる命令……もとい、質問を投げかける。


『ん? それじゃあ、正直に答えてね。ここ1週間、晩ご飯に何を食べてる?』


『ぎくっ!?』


『……最近、2期生ウィークの準備で忙しくって差し入れとか出来てないから、気になってたんだよ。まさかとは思うけど……また、カップラーメンだらけの食生活に戻ってはいないよね?』


『ぎくぎくぎくっ!?』


 もう既に反応で答えを言っているような気がしてならないが、つまりはそういうことである。

 実際に顔を合わせているわけではないのに、ゲームの中のハンターよりも恐ろしい形相を浮かべて自分のことを睨む枢の姿を思い浮かべながら、ごくりと息を飲んだ芽衣は正直にその質問への答えを口にした。


『あ、あはは……! そのまさかです、にゃあ……』


『……1週間に何回、夕食をカップラーメンで済ませた? それと、朝ご飯はしっかり食べてる?』


『い、1週間に……7回くらいかなあ? 朝ご飯はその、あんまり食べてない、です……』


『語尾ににゃあがついてない。っていうかそれよりも、そんな食生活してると身体壊すよ!?』


『ふにゃぁぁぁ……く、枢くんだってちょっと前に倒れたくせに、自分のことを棚に上げてにゃあ……!』


『それとこれとは話が別です! まったく、ちょっと目を離すとすぐに不健康な食生活に戻るんだから……!!』


【出たぞ、枢ママだ! あのしゃぼんの食生活にも干渉してる、正真正銘のママだ!!】

【ドS枢んどこ? ここ……? ママしかいないんだけど……?】

【反撃を一撃でシャットアウトする枢ママ、やっぱ強いなぁ……】


 つい数秒前まで冷酷な殺人鬼だったはずの枢が、すっかり我が子の食生活を心配する母親になっていることに困惑しながらも大笑いするリスナーたち。

 そんな彼らの前で芽衣へのお説教を開始した枢は、第3の命令を彼女へと告げた。


『よ~し、わかった! 今日から1週間、晩ご飯に食べる物の写真を撮って俺に送りなさい! あんまりにもひどいようだったら、直接指導しに行くから!』


『ええっ!? にゃんでそんにゃことするにゃあっ!? それに、そんにゃことしたら枢くんの負担がまた増えちゃうにゃ……』


『それが嫌ならきっちり外に出て、カップラーメン以外の食品を買ってきなさい! 最近はちょっとした調理だけで美味しく仕上がる品も増えてるし、お米の炊き方も教えたでしょう!?』


『お、お米が重くって持ち帰るの大変なんだにゃあ……』


『なら俺が買って持って行くから、とにかく食生活をどうにかしなさい! このままでいくと、柳生さんみたいな怠惰な人になっちゃうよ!?』


【あ、母さんじゃなくて柳生さんになってる。本当に縁を切ったんだ】

【裁判のこと、根に持ってるんだなぁ……】

【これで許して、マイサン……¥3000 柳生しゃぼんさん、から】

【#お小遣いで息子の機嫌を取ろうとするなしゃぼん】


 若干の被害をしゃぼんにも及ぼしながら、芽衣への説教を続ける枢。

 ただでさえ小さな体を更に小さくさせてそのお小言を聞き続けていた芽衣であったが、そんな彼女に天の助け(?)が舞い降りた。


『ぼへえっ!? け、煙瓶!? 檻の周囲に仕掛けてあったの!?』


『あ~ん……? な~にこっそり逃げ出そうとしてるんだ、愛鈴? 俺がお前を逃がすと思ってんのか!?』


『ば、バレてまったぁ! に、逃げよう、愛鈴さん!!』


『待って! まだ私、治療してもらってないの! 次に殴られたらダウンで終わりになっちゃうからぁ! せめて怪我の治療だけでもって、また煙瓶だぁ!』


 先のリスナーたちの助言を参考にしたのか、無言で救助を行ったリアと愛鈴であったが、そんなことは既に枢に予想されていたようだ。

 檻の近くから逃走経路にかけて仕掛けられた罠を次々と踏んで居場所を知らせている彼女たちを捕えるべく、枢は芽衣へのお説教を中断して、2人のいる方へと向かっていく。


『芽衣ちゃん。約束通りここでは見逃してあげるけど……さっきの約束を忘れたら、もっとひどい目に遭わせるからね? 主に、現実世界の方で』


『ひ、ひにゃぁ……!?』


 捨て台詞よろしく脅しの文句を残して追跡を開始する枢の後ろ姿を見送りながら、猫語で怯えの感情を表す芽衣。

 なお、この配信の翌日、枢は本当に購入した米の袋を彼女の部屋へと届けに来たことをここに記しておく。


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