公開説教、開始



 その言葉を聞いたリスナーたちは、驚きのあまり言葉を失ってしまった。

 火消しどころか、下手をすれば再炎上の可能性すら有り得る状況下で同期が集結し、愛鈴との対話に臨むというこの配信の内容に対して困惑する彼らであったが、それと同時に今しがた沙織が口にした「この配信を再出発の場としたい」という言葉が本気であることを理解する。


 不用意なSNSへの投稿から連なる事件のせいで崩壊しかけた2期生の関係性を見直し、これまで言えなかったことを言い合って、本心でのぶつかり合いをしようとする覚悟。

 炎上のリスクを承知の上でこの配信に2期生がやって来るということは、彼女たちもまた愛鈴と共に前に進む気持ちがあるということへの証明となる。


 ここで本気でぶつかり合うことで、彼女を許すか否かを決める判断材料にしようと思う者もいるかもしれない。

 そう考える者の詰め方は想像以上に恐ろしいものになるだろうし、それを数万のファンの前で見せるというのだからその人物だって決して被害を受けないというわけにはいかないだろう。


 謝罪配信を観に来たはずが、なにかとんでもなく過激で危険なことを行おうとしている愛鈴とたらばのことを見守る配信を視聴することとなったリスナーたちがようやく彼女たちの思惑やこの公開説教配信に対する意味というものを理解し始める中、一番手を担うこととなった沙織が静かに天へと語り始めた。


『……じゃあ、まずは私からいくね。いっぱい言わなくちゃいけないことはあると思うけど……今回のやらかしの原因は、愛鈴ちゃんが周りの人のことを信じようとしなかった部分にあるんじゃないかなって思うよ』


『……はい』


 淡々と自分の考えを述べる沙織の言葉に返事を返す天。

 彼女が自分の話に真摯に耳を傾けていることを感じながら、沙織は話を続ける。


『それは良く言えば責任感が強いってことなんだろうけど、悪く言っちゃえばええかっこしいってことなんだと思う。枢くんにも近い部分があるけど、あの子は周りの人たちが大好きだから自分から負担を抱え込んでるところがあるさ~。でも、愛鈴ちゃんはその逆。スタッフさんや同期である私たちのことが好きじゃないし、信用してない。信用してない人たちに弱みを見せたくない。だからパンク寸前まで自分を取り繕って……それが限界に来た結果が、こういう炎上に繋がったんじゃないかな』


『……そうですね。確かにこれまで、花咲さんや事務所のスタッフさんから心配してもらったり、相談の切っ掛けを作ってもらうことはありました。それを拒んだのは私で、その理由も……今、花咲さんが言った通りです』


 天は沙織の意見を肯定しつつ、自分の悪かった部分を更に追加で挙げる。

 他者からの評価や説教を素直に受け止める彼女の姿を、多くのファンたちが見守り続けていた。


『誰かの手を借りることが恥ずかしいって思う気持ちはわかるよ。嫌なことがあって、お酒に走っちゃう気持ちもわかる。でも、愛鈴ちゃんはそこに至るまでに出来たであろう対策をほとんどすっ飛ばしちゃってると思うさ~。不満を溜めても薫子さんにも同期たちにも相談しない。自分だけじゃどうにも出来ないっていうこともわかってるのに意固地になって抱え込み続ける。それで、このレベルの大炎上を自分のミスで引き起こして……ってなったら、私たちだってどうすればいいのって気持ちになっちゃうよ』


『本当にその通りだと思います。私は足並みを揃えているふりをしているだけで、皆さんとはどこか違うんだという気持ちが心の中にありました。私を除く4人が団結しようとしている中で、私だけが自ら進んで孤立しようとしていたんだと思います』


『……愛鈴ちゃんがストレスを溜めてるっていうか、色んなことを抱えて、我慢してるってことは私にもわかったよ。多分それは事務所のみんなも同じだったと思う。だから、そういう風に見えていたのに積極的に心に踏み込もうとしなかったっていうか、距離を詰めようとしなかったって部分は私たちのだめなところだったさ~。距離を縮めることで逆に関係性や事態を悪化させちゃうんじゃないかっていう不安があって、踏み込みにいけなかったことは私も反省してます。ごめんなさい』


 天の問題点を指摘しつつも、同時に自分や【CRE8】側の行動の不備に対しても言及した沙織は、天へのフォローの意味も兼ねてその点を謝罪する。

 周囲の人々を信頼せず、1人では解決出来ない問題を自分だけで抱え込んでしまった上で炎上を招いたという心根的な部分を指摘された天は、暫し押し黙った後に口を開いた。


『これはもう本当に裏での話になるんですが、私、炎上した時に心配して駆け付けてくれた蛇道くんと花咲さんにようやく色々なことをぶちまけたんです。それで、その時に「もっと私を見てよ」的な発言をしたんですが……今になって考えてみれば、何言ってんだって話ですよね。自分から孤立することを選んだくせに、どうして周囲から助けてもらえると思ってたんだか。そういう甘い部分も含めて、私の性格が駄目だったんだと思います』


【改めて考えてみたけど、他の4人が同期の話題とかをちょくちょく出してるのに、ラブリーだけはそういうの殆どなかったもんな】

【いや、まあ、うん……登録者数とかでコンプ抱えてたんだろうけど、だからといって孤立するのは悪手でしょ】

【たら姉ぬるいわ。お説教してるけど甘さがある。もっと厳しく言い聞かせないと駄目だよ】

【↑お説教ってそういうものだからいいんじゃね? ただキレて暴言吐くだけなら俺らと変わらないじゃん】

【駄目なところは駄目だと言いつつ、凹み過ぎないようにフォローする。俺はこれでいいと思うけどな……】


 いまいち不透明であった裏でのやり取りが透けて見える沙織と天とのやり取りを聞いたリスナーたちの反応は、賛否両論様々なものだ。

 少なくとも、この公開説教とでもいうべき配信に対しては悪感情を抱いていないようだが、たらばの説教には甘さがあるという意見も相応に見かけられる。


 そういったリスナーたちの反応を確認した沙織が、改めて口を開こうとした時だった。


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