謝罪配信、改め……



『……配信、開始出来てるでしょうか? 音が聞こえていたら教えてください』


 配信の始まりは、そんな確認の言葉から始まった。

 映像がきちんと映っているか、自分の声が聞こえているかをリスナーたちに確認した天は、彼らからの反応を確認すると共に改めて配信の始まりを宣言する。


『ありがとうございます。では……始めさせていただきます』


 確認に協力してくれたリスナーたちに感謝した後、小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせる天。

 高速で流れ始めたコメントには視線を向けないようにしながら、彼女は真っ先に今回の件に関しての謝罪を行った。


『皆さま、お久しぶりです。【CRE8】所属バーチャルタレント、愛鈴です。……この度は、私の軽率な言動によって同期をはじめとした多くの方々にご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした』


 PCの前で頭を下げて謝罪の意を示す天だが、二次元の立ち絵である愛鈴にはその動きは反映されない。

 それを理解しながらもそういった行動を取った彼女は、頭を上げると共に再び口を開いた。


『……本日は、私がしてしまった発言とその内容について、改めて私自身の口から皆さまに説明させていただくために、こういった配信をさせていただいております。また、今後の活動の中で同じことを二度としないようにするためにはどうすべきかということについても考えましたので、それについても話をさせてください』


 冒頭から数分は、普通の謝罪配信といって差し支えのない内容のそれであった。

 炎上の切っ掛けを改めて天自身の口から解説し、自身の過ちを視聴者たちへと述べ、何が問題であったかを話す。


 自身のプライドを優先して事務所や仲間たちを頼ることを拒んでことや、不満を裏垢に愚痴るというあまり褒められたことではない習慣を身に付けてしまっていたことなどの問題点を挙げた天は、その前に説明していた自身の問題行動も含めての謝罪を再度リスナーたちへと行う。


『今回の件は、私が私自身の感情を優先してしまったことが最大の原因だと思っています。自分のプライドを優先して事務所や同期たちの手助けを拒み、カッとなった感情のままに不平不満をぶちまけるという自己中心的な考えのせいで、多くの方々にご迷惑とご心配をかけてしまったこと、本当に申し訳なく思っています。今後はこういった自身の悪癖を律し、事務所スタッフ、及び【CRE8】所属のタレントたちとの信頼関係を構築していくことを心掛けていく所存です』


 炎上の切っ掛けとなった問題の説明と、その反省と防止策について話す天。

 口調も、内容も、何もかも……全てが模範的な謝罪の形であったが、だからといってそれを聞き、観るファンたちが納得するわけではない。

 およそ5分で謝罪と説明を終え、話を区切った愛鈴に対するリスナーたちからのコメントは、辛辣が過ぎるものであった。


【いや、そんなもん今更改めて説明されなくてもとっくに知ってるとしか言えんわ】

【信頼関係を構築とか、それをぶっ壊した張本人に言われても……って感じです】

【リア様には情状酌量の余地があるかもしれないけど、お前は1発アウトだろ。車で例えるなら、免停になったのに二度と事故を起こさないための対策について話してるみたいで凄く違和感がある】


 正論とアンチコメントが入り混じるファンたちの反応を見た天がぐっと唇を噛み締める。

 予想はしていたが、やはりこういった事態に直面すると想像以上の苦しみを感じるものだと……痛みと共にファンたちからの叱責を受け止めた彼女が、再び口を開こうとした時だった。


『うん、そうだね。みんなの意見はご尤もだよ。本当に、ぐうの音も出ないくらいの正論だ』


 明らかに天のものではない声が配信に乗り、その声を聞いた者たち全員が驚きに息を飲む。

 唐突な登場を果たした彼女はそこで言葉を止めると、配信を観ているリスナーたちへと自己紹介を行った。


『突然の登場、申し訳ありません。【CRE8】所属バーチャルタレント、花咲たらばです。今回は、訳あって愛鈴さんの謝罪配信にお邪魔させていただいております』


 普段の陽気な沖縄方言交じりの口調を封印し、厳粛な言葉遣いでの自己紹介と配信に乱入したことへの謝罪を行う沙織。

 リスナーたちが改めて突然配信に凸した彼女の登場に驚き、言葉を失う中、沙織は自分が何故この場に姿を現したのかを説明し始める。


『今日、私がこの配信にお邪魔させていただいた理由は……愛鈴さんときちんと話をするためです。もっと言うならば、。何が駄目で、どこが悪かったのかをしっかりと話すためにここに来ました。そういったことは裏でやるべきだとか、そもそも私にそんなことをする権利があるのかという意見があることも理解しています。ですが……本当の意味で、2期生が再出発を果たすためにこれは必要なことだと考えて、愛鈴さんや事務所の皆さんと話した上でこういった措置を取らせていただいています』


 そう、沙織こと花咲たらばが語る話を聞いたリスナーたちは、彼女が登場した時以上の驚きを覚えていた。

 炎上したVtuberが行うありきたりな謝罪配信が突如として公開説教へと変わったことに驚く視聴者たちであるが、更にその驚きを加速させる言葉を沙織が口にする。


『そして、こういった配信をするということは、休養中の蛇道枢くんを除く残りの2期生にも伝えてあります。愛鈴さんに言いたいことがあるのなら、この機会にぶつけてほしいと……彼女たちがこの提案を承諾してくれたのならば、2人もまた私と同じようにこの配信にやって来るかもしれません。私たちは、この配信をただの謝罪配信ではなく、2期生全員の関係性を改めるための再出発の場として扱いたいと考えています。もしかしたら、皆さんにとってはお聞き苦しい内容になるかもしれません。ですが……出来ることならば最後まで、この配信を視聴していただけたらと思っております』

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