2度目の、会議



 翌日、正午。

 【CRE8】本社ビルの会議室に再び集った零たち5人は、2度目の同期コラボに関しての会議を開始しようとしていた。


 前回の終わり方が終わり方であったため、室内にはピリついた雰囲気が漂っているが……その空気の中で、意を決したスイが口を開く。


「あ、あの……この間は、すいません、でした……! 私が、消極的だったせいで、折角の話し合いの機会を潰してしまって……本当に、ごめんなさい」


 訛りを出さないよう、それでいて言葉に不備がないよう、一生懸命に気を張りながら同期たちへと謝罪するスイ。

 前日に零に付き合ってもらって何度もイメージトレーニングを重ねた彼女が頭を下げて自分たちに謝る姿に、有栖たちも驚きの表情を浮かべている。


「そんなに気にしなくていいよ~! 色々とショックだった気持ちはわかるし、そういう気分を切り替えることが出来たのなら大丈夫さ~!」


「わ、私も、大して話し合いに参加出来てたわけじゃあなかったですし……三瓶さんのことを悪く言うことなんて、出来ないですから……」


 沙織が、続いて有栖が、スイに対して反応を見せる。

 好印象というか、謝罪を受け入れつつ彼女のフォローをしてくれた2人に感謝した零は、最後に残った最も心配な人物へと視線を向けた。


「……私の方こそ、ごめん。ちょっと大人気なかったね。場の空気を悪くしちゃったのは私にも原因があるから、三瓶さんだけが気に病む必要はないよ」


 そうして、先日の会議の終わり際にスイへの不満をぶちまけた天が同じように謝罪をしてくれたことを確認した零は、これで前々からの問題が解決したと安堵の溜息を吐いた。


 スイの謝罪を仲間たちが受け入れ、気持ちを切り替えたことで、前回から続いていた禍根は断ち切れたはずだ。

 ここからは改めて5人で協力して同期コラボに関する企画を練り上げ、それを成功に導くだけだ……と、意欲を燃え上がらせた零は、咳払いをした後に場を取り仕切るような発言を行う。


「んじゃ、これでこの前の喧嘩は解決したってことで……第2回のコラボ会議、始めましょうか!」


「そうだね! 歌ってみた動画の投稿をするってところまでは決めたから、今日は曲とかの具体的な部分を詰めていこうか!」


「そ、それについてなんですけど……私、色々と考えてきました。皆さんの声とか、歌の特徴とか、男女比とかから幾つか候補を絞ってきたので、良ければ意見を聞かせてください……」


 第2回同期コラボ会議は、スイのそんな言葉からスタートした。

 前回の終わり際に沙織から投げかけられた質問への答えを大分遅れながらも出したスイは、用意してあったリストと音楽プレーヤーを鞄から取り出すとそれを机の上に置く。


 どこか自信がなさ気な彼女であったが、沙織たちは前回と打って変わって積極性を見せるようになったスイの姿に目を丸くしつつも、その変化を大喜びしているようだ。


「スイちゃん、考えてきてくれたの!? 助かるよ~! ありがと~!!」


「凄い……! ジャンルとか歌の難易度とか、色んなことが書いてある……!」


「あくまで私の主観なので、参考になるかどうかはわからないです、けど……少しでも役に立てたら嬉しい、です」


「少しどころかとっても役立ってるよ~! これでイメージがつきやすくなるし、お陰で話し合いもスムーズに進みそうさ~!」


「そうっすね。そんじゃあ、今日は三瓶さんが用意してくれたリストを確認しながら話を進めるってことで!」


 第1回の話し合いが嘘であったかのように、とんとん拍子に進んでいく会議の良い雰囲気を感じ取った零が胸を躍らせる。

 これでいい。スイが少しずつでも自分を出せるようになって、仲間たちを信頼出来るようになっていけば、きっと彼女の心境にも変化が起きるはずだ。


 大丈夫。スイは素直ないい子なのだから、必ずこのコラボを切っ掛けにいい方向へと進んでいける。

 後方彼氏面というわけではないが、2週間ほど彼女の面倒を見続けてその性格や人柄を知った零は、スイの成長を楽しみに思いながら、前のめりにVtuberとしての活動に取り組む彼女の姿を見守り続けるのであった。


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