とあるVtuberの1日・昼
「すいません、遅れました!」
「大丈夫だよ、私も今来たところだからさ~!」
スイとの打ち合わせから暫し時間が経ち、昼。
【CRE8】本社近くにあるイタリアンのレストランにやって来た零は、そこで自分を待っていた沙織に頭を下げながらテーブルに着いた。
彼女と向かい合い、急いで走ってきたが故に早鐘を打つ心臓を落ち着けるように深呼吸をする零。
そんな彼のことをからからと笑いながら見つめていた沙織は、先に注文していたアイスコーヒーを差し出しながら話を始める。
「本格的な話し合いは後でするとして、軽くそこで話す議題について触れておこうか。2期生コラボで歌う曲のことなんだけど――」
「ジャンルとか、パート分けとかをどうするかって話っすよね? 収録は事務所のスタジオでやるとして、MIX作業とか編集とか、動画にするためにも色々と必要なことはありますし……」
「やっさー。歌動画に関してはスイちゃんが詳しいだろうから、普段お世話になっている人とかに連絡してもらえたら助かるかな~って思うんだけど、零くん的にはどう思う?」
「あ~……どうなんでしょう? 三瓶さん、あんまりそういう話しないからな~……」
これまで幾つかの歌ってみた動画を出しているスイだが、その制作に協力してくれた関係者たちと密な関係を築けているとは考えにくい。
編集等はあまり行わず、ほぼ生声の歌をそのまま出しているようなイメージがある零は、せいぜいスイと関わりがあるとしたら絵師くらいのものなのではないかと自信なさ気に沙織へと答えた。
「う~ん、そっか。でも、スイちゃんの知識は色々と役に立つだろうし、次の会議では意見を出してくれるようになるといいね」
「そうっすね……そうなると助かります」
ミルクとガムシロップを入れたアイスコーヒーを飲み、喉を潤す零。
そのタイミングでウエイトレスがメニューを持って来たため彼との一旦会話を中断した沙織が、パラパラとそれを捲りながら言う。
「零くん、お昼食べてきた? 話し合いも長丁場になるかもしれないし、何か食べていこうよ。お姉さんが奢っちゃうからさ~!」
「ははは、あざっす。でも、あんまり腹減ってないから、適当にサイドメニュー頼むだけでいいっすよ」
「およ? 朝ご飯を食べるのが遅かったの? でも零くん、私が朝活配信してるくらいには起きてたよね?」
「暑さのせいか食欲がないんですよ。食ってないわけじゃないんで、心配しないでください」
「ダメだよ~! 若いんだからしっかり食べなきゃ! 私、パスタとピザのセット頼むから、シェアして食べよ! ねっ!?」
まだ10代だというのに食欲がないとのたまう零を軽く叱りつつも、彼のことを心配した沙織がそんな提案をする。
困ったように笑った零は小さく溜息を吐くと、彼女の思いやりをありがたく受け取ることにしたようだ。
「すいません。それじゃあ、少しだけいただきます」
「遠慮しないでって! まだ若いんだし、食べないと体がもたないよ~! ピザとパスタ、食べたいのある? 好きなの頼んでいいさ~!」
こうやって誰かに体調を心配されるのは、いつぶりだろう?
少なくとも家族からはこんな温かい言葉を掛けられたことはないなと振り返った零が、自分の身を案じてくれる沙織の存在にありがたみを感じて微笑む。
まあ、自分的には不調を感じているわけでもなく、ただ食欲がないだけなのだが……ここで反発する意味もないし、こうして気を遣ってもらえることに対して嬉しさを感じている部分もあるので、黙っておこうと彼は思った。
「ここの料理、すっごく美味しいんだよ~! 盛り付けも綺麗だし、今度有栖ちゃんを誘って一緒に食べに来るといいさ~!」
「ははは、そうっすね。2期生コラボが終わったら、お疲れ様の意味も込めて食べに来ようかな……?」
そんな、未来の予定を考えながら沙織と話をする零は、まずは目の前の課題を解決せねばと一層2期生コラボへの意欲を燃え上がらせ、その成功に向けて努力することを誓うのであった。
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