その夜の2期生、有栖の場合


「うん、そう。今ね、2期生のみんなで一生懸命企画とか考えてるから、めいとのみんなにも初めての同期コラボを楽しみにしててほしいな」


 同時刻、配信を行っていた有栖は、2期生コラボに関する話題を視聴者たちへと話していた。


 流石に会議がぎくしゃくしていたことや玲央から歌の評価をされたことは話はしなかったが、今日、2期生全員が顔を合わせてコラボ企画に関する話し合いを行ったという、なんとも聞く者たちの期待を膨らませる話題を提供した彼女へと、めいとたちは歓喜と共に思い思いのコメントを送っている。


【遂に2期生コラボが現実のものとなるのか! 前回は色々あって芽衣ちゃんとくるるんが参加出来なかったけど、今度こそ5人揃っての配信が出来るんだね!!】

【5人で勢揃いしてわちゃわちゃする配信を楽しみに待ってる!!】

【企画会議とかで大変かもしれないけど、ファイトだ! 応援してます!!】


「うん、ありがとうね。みんなの期待に応えられるような、楽しい配信が出来るように頑張ります!」


 ぐっ、と気合を入れるポーズを取り、リスナーたちからの声援に応える有栖。

 残念ながら羊坂芽衣の2Dモデルの肉体はその動きをトレースすることは出来ないが、声と表情だけで十分に彼女の意気込みは伝わったようだ。


 そうして、2期生コラボの情報を伝えられたことにめいと一同が盛り上がる中、ちょっとした不安を滲ませるコメントが有栖の下へと届く。


【でも大丈夫? たら姉とくるるんは別として、ラブリーとリア様は初対面でしょ? 芽衣ちゃん、緊張してない?】


「ん~……正直に言うと、凄くしてる。これはお2人に問題があるわけじゃあなくって、私のメンタルが弱いからだから、早く慣れないと駄目だな~って……実際、今日の話し合いでもあんまり役に立てた気がしないしね」


【初めてなんだし、緊張しちゃってもしょうがないよ。ちょっとずつ2人とも仲良くなって、普通に話せるようになれるといいね!】


「そうだね。しっかりお話出来るようになって、私も会議に参加しないと……初めての2期生コラボに自分もなにか貢献したって、胸を張って言えるようになりたいもん」


【頑張れ! 応援してる!!】

【ちっぱいをえっへんと張る芽衣ちゃん、いい……!】

【↑通報しました。ちっぱい警察の到着を震えて待て】


 女性恐怖症を抱えている有栖が、初対面であるはずのスイと天と普通に話すことが出来たのか? という心配と不安を滲ませるコメントに正直に答えつつ、これからの目標を語る有栖。

 めいとたちはそんな彼女のことを改めて応援しているが、同時にこんなコメントも送られてきた。


【くるるんに頼っちゃえばいいじゃん! 慣れるまでの間はくるるんに他のメンバーとのクッション役をしてもらえば、芽衣ちゃんも気持ちが楽になるでしょう?】


「あ~、うん。確かにそれはそうだけど、いつまでも枢くんに頼るわけにはいかないっていうか、今は枢くん自体も色々と大変だと思うからさ……」

 

 男性であり、仲のいい同期である枢に他の2期生との間に入ってもらえばいいという意見に対して、少しだけ言葉を詰まらせながら有栖が答える。

 正直な話、有栖自身もほんの少しだけその案を考えていたのだが……つい先程、零が自室でスイの相談に乗っている現場を見た彼女は、その考えを頭の中から消去していた。


 明らかに涙を流していたと思わしきスイの様子から察するに、彼女は零に自身の悩みを吐露していたのだろう。

 相当に深刻で、重大な問題を彼と分かち合っていたであろうスイの姿を想像した有栖は、今の零が優先すべきは自分ではなく彼女の問題を解決することなのだと自分に言い聞かせた。


 先程部屋に行ったのも、零に現状の報告をしつつ自分の不安を聞いてほしかったというか、彼に相談に乗ってもらって、胸の内のもやもやを晴らしたかったというか……とにかく、零を頼るというより、甘えようとしていた部分がある。

 だが、零には零のやるべきことがあって、そこには自分の面倒を見るという仕事は含まれていない。

 有栖が自身のメンタルを好調に持っていくことは、有栖自身が自分の責任で行うべきことなのである。


 リア・アクエリアスが炎上したタイミングで唐突に彼女と蛇道枢のコラボが決定したことや、零自身の行動から振り返ってみても、おそらくは彼は薫子からスイのフォローをしてやってくれと頼まれたに違いない。

 沙織だって、会議で暴走してしまった天のメンタルをケアするために話し合いの後で2人で一緒にどこかに行ったようだし、きっと彼女も似たような頼みを薫子からされているのだろう。


 コラボの話し合いに、自分自身の活動に、同期のメンタルケア。零と沙織はこれらの仕事を一生懸命に頑張っている。

 そんな状況で零に自分の愚痴を聞く相手になってくれと頼むのは、有栖には気が引けた。


 彼に更に負担を掛けたくないと、いつまでも彼に助けてもらってばかりでは駄目に決まっていると、心のどこかで零に頼り切っていた自分の弱い心を戒めた有栖は、この2期生コラボ中は彼に甘えることは止めるという決意を固め、配信や諸々の活動に臨んでいる。

 多分、きっと、ここから暫くは零がスイと一緒に行動することが増えるんだろうなという寂しさと、それを想像する度にちくちくと胸を衝く痛みを感じながらも、ここが自分にとっての正念場だと言い聞かせた有栖は、以前のようなことが起きないようにはっきりとリスナーたちへと言った。


「いつまでも枢くんに頼るわけにはいかないよ。強い自分になるためにも、何かある度に枢くんに頼っちゃう自分自身とはお別れしないと」

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