3番目、そして――


「えっ……!?」


 不合格……沙織と零を除く3人の歌をそう評した玲央の言葉に、天の口から呆然とした呟きが漏れる。

 それは零も有栖も同じで、2人は信じられないと言わんばかりに目を見開いた表情を浮かべて、完全に言葉を失ってしまっていた。


 いったいこれはどういうことなのだろうか? 沙織は当然のこととして、その次に歌が上手いと零が名前を挙げられたことだけでも理解出来ないというのに、そんな彼よりも明らかに歌の技術があるスイと天が不合格とは、意味が分からない。


 零が合格なら、2人も間違いなく合格であるはずだ。なのに、玲央はそんな彼女たちの歌声を動画に出来ないものだと言い切ってみせた。

 彼女にそこまで言わせる理由はなんなのか、それがわからずに言葉を失う零の前で、玲央は更に一同を驚かせるようなことを口にする。


「3番目……おひつじ座。音程も声質も悪くないのにおどおどし過ぎてる。自信の無さがそのまま歌に出て、技術的にも悪影響を及ぼして、そのせいでまた自信を無くして……の悪循環に陥ってるよ。重ねて言うけど、あんたの歌自体は悪くない。胸張ってしゃっきり歌えば、それなりに良いものに仕上がると思う。そんな簡単に気持ちを切り替えられないって言うなら、とにかく歌え。歌って歌って歌って、努力したって意識を自分のハートに刻み込め。そうすれば、自信の無さも多少は緩和されるだろ」


「あ、は、はい……! あ、ありがとうございま、す……」


 先程零が味わった驚きを、今度は有栖が体験する番だった。

 不合格の烙印を捺されながらも、自分よりも圧倒的に歌が上手いはずのスイと天よりも自分の方が良い評価を与えられたことに対して理解が及ばないでいる有栖は、混乱しながらも具体的なアドバイスをしてくれた玲央へと感謝しながら頭を下げる。


 自分でも痛感していたであろう自信の無さ、謂わばメンタルの弱さを指摘された有栖は、玲央の歌に対する評価を疑っているわけではない。

 ここまで明確に自分たちの歌の良い点と悪い点を聞き分けるだけの実力がある彼女が、どうしてスイと天のことを素人である自分以下だと言っているのかがわからないのである。


 零の歌声を高く評価した点に関しては、納得は出来ずともまだ理解が出来る範囲だった。

 ロックというか、粗削りながらもその中にキラリと光る何かを見つけ出した彼女が、個人的に零の歌を気に入ったというのであれば、単純な好みの問題としてその評価を受け止めることが出来る。


 だが、有栖をスイと天よりも上だと評価したことに関しては、完全に理解も納得も出来ない。


 声優を目指し、声の出し方や歌の技術に関してもしっかりと勉強している天と、歌声に関してはNo.1といって過言ではない技量を誇るスイ。

 この2人が不合格の烙印を捺されたことだけでも予想外なのに、彼女たちよりも明らかに劣る有栖の歌声が3番目に良い評価を与えられるだなんて、誰がどう考えたって納得も理解も出来るわけがないではないか。


 いったい、玲央は何を以てそんな評価を下しているのだろうか?

 ちょっとだけ歌が上手い素人である零を合格とし、メンタル面も技術も決して優れているとはいえない有栖を残りの2人よりも上だと判断した彼女がなにを考えているのか、零たちには完全に理解が出来なくなっている。


 だが……残されたスイと天にとっては、今は判断基準なんてどうでもいいことだった。

 ここまで評価が進み、残りはブービーと最下位のみ。つまり、自分たちのどちらかが2期生の仲間たちの中で最も歌が下手だという恥ずべき称号を与えられてしまう。


 せめて、せめて……最下位だけは避けたいという想いが、2人の緊張した面持ちから伝わってくる。

 ここまでの評価で既にプライドをズタボロにされているであろう2人が、最後の望みを胸にしながら玲央の話に耳を傾ける中、軽く息を吐いた彼女がそれと共に言葉を発した。


「それで、残った2人についてだけど――」


「「……っ!!」」


 これが、落として上げるというやつだったらいいなという淡い希望を持ちながら、そんなサプライズを仕掛けてくれるような相手ではないなという想いで生温い願望を打ち砕いたスイと天がごくりと息を飲む。

 最下位だけは嫌だ。これ以上、予期せぬ事態で精神を摩耗したくない……と、懸命に神へと祈る2人に玲央が投げかけたのは、想像だにしていなかった最大級の酷評であった。


「――あんたらの歌は評価出来ない。一言で言っちゃうと、

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