だから、そういう配信じゃあないって
『くっ! 思ってたよりもキツいな……でもっ!!』
有栖からプレイヤーの座をバトンタッチされた零は、想像以上の難度を誇るゲームの内容に汗を流しながらランニングを続けていた。
少しでも手を抜けば途端にゲームキャラの動きが鈍くなる設定は、プレイヤーの怠けを許さない鬼畜難易度の名に相応しい過酷さをみせている。
確かに有栖が即座にバテてしまうのも頷けると思いながら、運動能力に自信のある零は徐々にゲームに慣れ始め、スムーズなプレイを視聴者たちに披露していった。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅっ……! ふっ、ふっ、ふぅぅ……っ!!』
【くるるんの息遣い助かる】
【芽衣ちゃんの時とは打って変わった素早い動き、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね】
【水着衣装の割れた腹筋見た時から思ってたけど、やっぱくるるん運動神経いいんだな】
『あたぼーよ! こちとら学生時代の体育は5以外取ったことねえっつーの!』
【おお、地味に凄い!】
【枢はスポーツマン、俺は記憶した】
【何気に枢が学生時代のことを語るのって珍しいな。テンション上がってる?】
『まあ、なっ! こんな風に体を動かすのは久々だけど、やっぱ運動すると心が躍動する感じがあるじゃん?』
『わかるよ~! いい汗かくと気持ちいいよね~!』
『わ、私には全然わからない感覚だぁ……ひぃ、ひぃ……』
リスナーたちと会話をしながら、呼吸を荒げながら、それでも平均以上のパフォーマンスを披露しつつフィットネスゲームをプレイしていく零。
有栖が苦戦したバトルも難なくこなし、基本のワンツーコンビネーションにフックやアッパーといったパンチを組み合わせたアクションにも対応した彼の動きに、リスナーたちだけでなく有栖と沙織もまた感嘆の声を漏らす。
『ふっ、しっ!! はっ、はっ、はっ!!』
『いいです! 枢選手、キレのあるパンチで対戦相手を追い詰めていく~っ!!』
『ふぇぇ……! 私がプレイした時とは全然違う……! かっこいい……!!』
【かっこいい枢助かる】
【もっとセンシティブな感じのが欲しかったけど、これはこれで……!!】
【これ以上芽衣ちゃんの好感度を上げるな】
【↑カンストしてるからこれ以上は上がらないぞ】
防御のターンも新たに加わったダッキングの動きで相手の攻撃を回避し、華麗なカウンターでトドメを刺してみせた零のプレイに、視聴者たちも大盛り上がりを見せている。
そうやって、非常に順調にゲームを進めていった零であったが……途中、大きめな敵シンボルマークと接触し、所謂中ボス的存在とのバトルに突入した瞬間、眉をひそめた。
『あれ、なんだこれ? 普通のバトルじゃないのか?』
『相手によってはミニゲームで勝負することもあるみたい。頑張って、枢くん!』
『ほへぇ~、単調にならないように色々と考えられてるんだな~……』
そんなシステムにもなっているのかと感心しつつ、中ボス戦となるミニゲームの説明を受ける零。
どうやら、今回のミニゲームは放り投げられるフラフープを体でキャッチしつつ、腰を動かしてそれを回転させ続けるという内容のもののようだ。
『制限時間は3分! 目標回転数は300回だ! 気合を入れてプレイしていこう!!』
『うげっ! 結構厳しくないか?』
思っていた以上の難易度を要求するゲームに対して、ついつい本音が漏らす零。
そんな呟きを口にしたところでゲームが手加減してくれるはずもなく、簡潔な説明の後に早速ミニゲームが始まってしまった。
『うぇっ!? もう始まんの? えっと、腰を動かせって……こんな感じ、か?』
指示されるがままに重心を意識しながら腰を大きく動かす零。
その甲斐あってかフラフープは勢いよく回り出したわけなのだが、これを制限時間いっぱいまで続けなければならないというのは思っていた以上に辛そうだ。
……あと、純粋に腰を動かすポーズを間近で有栖と沙織に見られているというのがそこそこに恥ずかしい。
リスナーたちもまた、ゲームに表示されているキャラクターの腰の動きから現在の零の姿を想像しているようで、色々と危ういコメントが寄せられている。
【くるるんが、あんなに激しく腰を動かして……! 駄目っ、俺、壊れちゃ~うっ!!】
【なんで3D配信じゃねえんだよ~っ!? 腰を振る枢の姿が見たかったよ~っ!!】
【さっきまでスポーティだった息遣いがセンシティブに聞こえてるのは俺だけでしょうか? いいや、違うね!(セルフ反語)】
『あんま腰腰言うなっての! 俺だってどうやりゃあいいのかわからなくって、いっぱいいっぱいなんだから、よっ!!』
『でもいい感じにフラフープは回ってるよ! ほら、体を傾けて投げられたのもキャッチして!!』
『うぇっ!? こ、こうかっ? こんな感じでいいのかっ!?』
放り投げられたフラフープをキャッチするため、バンザイの格好で体を傾ける零。
悪戦苦闘する彼の姿が面白かったのか、元気を取り戻した有栖はくすくすと笑うとそんな零へとからかうようにしてエールを送ってみせた。
『頑張れ~、枢く~んっ! 腰の動き、いい感じだよ~っ!』
『芽衣ちゃん、見る側に回った瞬間に調子に乗ってぇ……! 後でひぃひぃ言わせてやるからなっ!』
【小悪魔芽衣ちゃんとSくるるん助かる】
【これは体格差と体力の差で芽衣ちゃんがわからされるパターンですねぇ……】
【くるめいのわからせっ〇〇の薄い本マダー?】
【俺のスパチャによって枢が3Dの肉体を得ると信じて¥10000】『Pマンさん、から』
疲れのせいか若干余裕のなくなっている零の反応にまたしても大喜びするリスナーたちがギリギリどころか完全にアウトな発言を繰り返す。
突っ込む余力もなくなってきた零は、必死になって腰を振り続け……ようやく、制限時間の3分が過ぎた。
『目標クリア、おめでとう! さあ、次のステージに進もう!!』
『くっそ……一旦休憩入ってもいい? 思ってたより、疲れた……』
【くるるんのセンシティブな腰振り見れたんで満足です。チャンネル登録しておきました】
【色々と悪いこと出来そうな素材が生み出される配信だぁ……】
【息遣いがセクシー、エロい!】
『うん、もう枢くんも十分頑張ったしね~! ここからは、お姉さんが本気を出しちゃおっかな!』
肉体的よりも精神的な疲弊を訴えた零に代わり、プレイヤーの役目を引き受けるために名乗りを上げる沙織。
軽く準備運動をした後、台座の上に立った彼女は、意気揚々とランニングをするために腿を上げて走り始めた。
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