親子で、配信



『お待たせしました~っと。じゃあ、改めて全体図から解説な。母さん、よろしく!』


『はいは~い! え~、蛇道枢の水着衣装は、皆さんももうわかってる通りのライフセーバーモチーフとなっております! これまでお友達を何度も助けてきた枢のレスキュー隊員っぽさと、夏の海の雰囲気をマッチさせられたんじゃないかな~って感じで、自分的には満足してるっすね』


『色合い的にも上半身はライフセーバーさんっぽいけど、下半身は普通の水着だね。この辺も何か考えがあるの?』


『そうっすね。やっぱ配信って上半身しか映んないことが大半じゃないっすか。だから、上半身は元々のモチーフであるライフセーバーとしての姿をしっかり出しておこうと思ったんすよ。で、全体図を出す時には――』


『あ、これね。ちょっとお待ちを……』


 水着をデザインした張本人である梨子の解説の下、蛇道枢の新衣装お披露目配信を進めていく零。 

 一度話を切った彼はアプリを操作すると、この衣装の差分である素肌にラッシュガードを羽織った立ち絵を表示してみせた。


『は~い、差分だぞ~! 帽子とTシャツも脱いで、代わりに服を羽織った感じで~す』


【うおおおおっ! 枢が、枢が脱いだ!!】

【腹筋!! おへそ!! ありがとうございます!!】


『えぇ……? お前ら、野郎の肌でどうしてここまで騒ぐんだよ……?』


『はいはい、それ以上近付くなら1人1万円っすよ~! お触りは禁止! 破った奴は即刻退場っすからね~!!』


『ちょ、母さん!? そんなこと言うとこいつら本気にして……ああ、ほら来た!!』


【腹筋感謝代\10000】『フラッシュさん、から』

【ママが払えって言うから……¥10000】『ニヤニヤニーヤさん、から』

【親子コラボ祝いに赤スパ¥10000】『アクマカイザーXさん、から』

【俺と芽衣ちゃんとたら姉以外の奴の前で肌を出すな¥30000】『Pマンさん、から』


『赤スパの量エグッ!? うわっ、私の息子人気過ぎ……!?』


『ちょっと刺激するとすぐにこうなるんだよ! お前ら、そろそろ落ち着けって!』


【¥100】『くるるんに餌付けしたいさん、から』


『お前は今日もいるのな!? また無言スパチャなのな!?』


 とまあ、息子のリスナーたちのキャラの濃さに驚愕する梨子を宥めつつ、送られてくるコメントに突っ込みを入れて捌きつつ、新衣装のお披露目へと話の内容を戻していく零。

 母親の余計な一言から始まったスパチャタイムを切り抜けた彼は、差分衣装を表示しつつその説明を梨子と共に行っていった。


『差分に関しては、さっきのTシャツと素肌にラッシュガード、Tシャツ&ラッシュガードの3つが用意されてるな。服を着てる時はライフセーバー感が強く出るけど、脱いだ時には普通に海辺に遊びに来てる奴って感じがするね』


【乳首は見えないのか……残念】


『自分としてもちょっと描きたかったって気持ちはあるんすけどね。センシティブ判定くらってBANだけは避けないとなんで、今回は隠したっす』


【この配信サイトの運営は童貞ばっかりだから……仕方ないね……】

【枢の乳首がOPENされてしまったら全ガチホモニキたちが暴走するぞ】

【息子の乳首を描きたがる母親というワードの強さよ……】


 差分の絵を表示しつつ、他にも用意されている小物たちを紹介する零と梨子。

 服と帽子を身に着けた状態だとライフセーバーに、それらを脱ぐとビーチに遊びに来た青年になるという、1粒で2度美味しい新衣装の出来にはリスナーたちも非常に満足しているようだ。


『海パンだけじゃなくてラッシュガードの袖とかサーフボードの方にも蛇のマークを入れてくれたんだ。通常衣装のアクセサリーよりデカいから、目立っていいね』


『水着っすからね。ノーマル衣装みたいにアクセサリーを着けられない分、数少ない衣類とかにガンガン柄として取り込んでみたっす』


【とにかくセンス、ヨシ! 流石はしゃぼんだ!!】

【#息子と一緒でもいいから配信しろしゃぼん】

【初めての新衣装お披露目配信が初の親子コラボ配信にもなるなんて素敵やん?】


 そんな和気あいあいとした雰囲気のまま配信は進み、デザインや差分、小物などの紹介を終えた後は、背景を黒くしてのスクリーンショット撮影時間となった。

 アバターとはいえ、自分の姿を多くの人に見てもらいながら撮影されるという慣れない状況に戸惑いながらも、零はリスナーたちの要望に応えて笑顔を作ったり、衣装をチェンジしたりして、彼らと共に楽しい撮影時間を過ごしていく。


 そんな彼の姿を見守る梨子もまた、息子の晴れ姿を間近で見られることを喜んでいるようだ。

 自分が撮影されている間、柳生しゃぼんのアバターが常に笑顔であることを目にした零もまた、新衣装を作成するために尽力してくれた彼女に親孝行が出来たことを喜んでいた。


『……はい。そんじゃあスクショタイムもこの辺で十分でしょ。時間も区切りがいいし、そろそろ終わりにしますかね』


【最高の新衣装だった! くるるんもしゃぼんもお疲れ様!!】

【これからも親子コラボガンガンやってくれよな!】

【#とにかく配信しろ、しゃぼん】


『観に来てくれたみんな、本当にありがとうな。母さんも、俺のために頑張ってくれてありがとう。この衣装は大事に使わせてもらいます』


『こっちこそね、晴れ舞台に呼んでもらえて嬉しかったっすよ。親孝行な息子を持って、自分は幸せっす!』


 新衣装のデザインからお披露目配信の参加まで、様々な面で自分のために動いてくれた梨子に零が感謝を告げれば、彼女もまた自分を想って行動してくれた息子へとそれと同じくらいの気持ちを込めて感謝の言葉を返す。

 一時はどうなることかと思ったが、炎上することなく新衣装のお披露目をこなせたことに安堵しながら、零が配信を締めようとした、その時だった。

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