CRE8Animation、略してクリアニ
「な、なんか、滅茶苦茶に期待されてません?」
「ああ、うん。多少はこんな反応が出てくるとは思ってたけど、流石にこれは良い意味で予想外だったね」
スレッドに書き込まれたファンたちの期待の意見に若干のプレッシャーを感じる零が口元をひくつかせながらそんな言葉を口にする。
薫子の方も予想以上の反響にちょっと驚いているようで、改めて蛇道枢と羊坂芽衣、そして2人のカップリングであるくるめいの人気っぷりを実感しているようだ。
現在時刻午後3時。場所は、【CRE8】本社内にある収録スタジオ。
様々な機械が並び、本家本元のアニメスタジオ顔負けの設備が整っているブースを眺めながら、零と薫子はこのスレッドで話題になっているクリアニについて話し合っている真っ最中だ。
クリアニ……正式名称、『CRE8Animation』。
その名の通り、【CRE8】公式チャンネルで不定期に配信されている、同事務所所属のVtuberたちを出演させた5,6分程度の短編アニメーションを指すその単語は、今やファンたちの間にも広く浸透している。
予算を潤沢に使い、アニメらしくキャラクターたちをぬるぬると動かして、内容としても短いながらも纏まっているストーリーは結構好評を博しているようだ。
2,3週間に1回程度の配信ペースではあるが、【CRE8】の箱推しファンたちは毎回のようにクリアニの投稿を楽しみにしていた。
先日も久々に投稿された動画を大喜びで開き、その内容を存分に楽しんだ彼らであったが……最後の最後に、とんでもない爆弾が投下されたのである。
それこそがスレッドでも話題になっていた、『CRE8Animation』くるめい回。
次回予告を観たファンたちはある者は驚きにぶっ飛び、ある者はそのまま思考を停止させ、またある者はこれが夢でないことを確認するために自身の頬を抓ったそうな。
なんだか大袈裟な話だな……と思われるかもしれないが、決してファンたちの反応は異常というわけでもない。
色々と、それだけの衝撃を与える材料が、しっかり揃っていたのだから。
まず、枢と芽衣の出番が完全に不意打ちで告げられたこと。
人間は誰しもサプライズに弱い。それが良い情報ならば尚更の話だ。
次に、これまでのクリアニの中で、2期生の登場回は未だに放送されていなかったということ。
2期生の初登場回にしてメイン回。これで歓喜しない方がファンとしてはどうかしている。
更にいうならば、彼らの登場を皮切りにして他の2期生メンバーも今後のクリアニで出演するかもしれないという期待が、その興奮に拍車をかけているようだ。
そして、まあ、これが最も大きな要因なのだが……枢と芽衣の人気、もっといえば2人のカップリングであるくるめいの人気が凄すぎた。
【CRE8】で唯一の男性Vtuberである蛇道枢と、そんな彼とデビュー当時から絡んでいる羊坂芽衣のコンビはファンたちにも広く認知されており、枢は芽衣が唯一対等に接することが出来る良き友人にして同僚であるという見方が一般的だ。
やや乱暴そうに見えて意外と面倒見の良い青年である枢と、彼に対してのみ心を開いている気弱で臆病な女の子の芽衣。
実に妄想力が逞しくなるカップリングであるくるめいは高い人気を誇り、双方のガチ恋勢にも「くるめいならば推しを譲る」と言わせるだけの人気を誇っていた。
そんなファンたちの人気が高いくるめいが、クリアニの2期生出演トップバッターを自分たちのメイン回で務める。
しかも、その内容が完全にガチ勢を殺しにかかっているデート回とくれば、盛り上がらないわけがない。
「……今更なんだけどさ、あんた、炎上とかしてないのかい? 有栖のガチ恋勢からメッセージとか飛ばされてない?」
「いや、来てることは来てるんですけど……それ以上に、歓迎されているっていうか、なんていうか……」
予想外の反響に甥の身の安全を心配した薫子であったが、そんな彼女からの言葉を受けた零はなんとも言えない表情を浮かべながら自身のSNSアカウントに届いているダイレクトメッセージを見せた。
若干の恐怖を覚えながらそれを確認した薫子は、これまた予想外のメッセージの数々に苦笑を浮かべる。
【枢、俺はお前を信じていたよ!! お前の正妻はやっぱり芽衣ちゃんだよな!!】
【デート代が必要だったら遠慮せずに言ってくれ! 幾らでもスパチャ投げるから!!】
【枢……お前、俺以外の奴とデートするのか……? でも芽衣ちゃんと枢が幸せならOKです!(血涙を流しながら)】
【アイドルとかたら姉とかおっぱいとかとの絡みに萌えるファンもいるみたいだけど、やっぱりくるめいが至高にして究極なんだよなあ……やっぱわかってんねえ!】
【枢! これはもう公式がお前と芽衣ちゃんの関係を認めたってことでいいんだよな!? 結婚式場は何処だ!? 俺も参列する!!】
【正妻は芽衣ちゃんでいいので側室としてたらばと一緒に娶ってください。Pマンより】
ざっと目を通しただけでもこの有様。あまりにも濃いメッセージが今も雪崩のように蛇道枢のアカウントへと押し寄せている様に、流石の薫子も反応に困ってしまった。
だが、ありがたいことに寄せられるメッセージの大半が好意的なもので、事務所主体のアニメ作品内でのこととはいえ、女性Vtuberとのデートを行うことを咎めたりするメッセージはほぼほぼ見受けられない。
これもまた、くるめいの人気が故の反応か……と、ありがたいんだかそうじゃないんだかわからない状況に苦笑しながらも、前向きに事を考える薫子。
取り合えず、ファンたちの反応という第一関門は無事に突破したわけだが、彼らには目下最大級に優先して解決すべき難問が存在していた。
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