加害者の、言い分
ヤケクソか、あるいは開き直りか。叫び声を上げて自身の悪行を認めた静流が、荒い呼吸を繰り返しながら自分を見つめる面々を睨み返す。
彼女の変貌と、その言葉にショックを受け、【SunRise】メンバーをはじめとした大半の人間が言葉を失う中……いち早く呆然自失とした状態から復帰した李衣菜が、静流にも負けない鋭い視線を彼女へと向けながら、涙ながらに吼えた。
「どうして!? なんでそんなことをしたの!? あなたの身勝手な行動のせいで、沙織は――っ!!」
「どうして? なんで……? 私だってそう言いたいわよ!! こんな大事になるなんて思ってもみなかった! 私だって、被害者の1人なのよ!」
これまで取り繕っていた冷静さの仮面を脱ぎ捨てた静流は、完全に取り乱したように喚き、叫び続けている。
李衣菜からの問いかけにもヒステリックに叫びながらの返答を口にした彼女は、仲間や所属事務所のスタッフたちの同情を誘うようにして訴えを上げた。
「私はただ、ストレス発散のために匿名のアカウントで愚痴を吐いただけじゃない! 確かにいいことじゃあないのかもしれないけど、そんなこと誰でもやってることでしょう!? 私は悪くない! 悪いのはあんな愚痴を真に受けた馬鹿なファンよ! そいつさえいなければ、誰も苦しむことなんてなかったじゃない!!」
「詭弁よ、そんなものは!! あなたが迂闊な書き込みさえしなければ、沙織は今でも私たちと一緒にステージに立ててたはずなのにっ!!」
「こ、小泉くん! す、少し落ち着いて――」
感情のままに吼える李衣菜を、【ワンダーエンターテインメント】の重役がなんとか宥めようと口を挟む。
そんなものは関係ないと静流に食って掛かろうとする彼女を止めたのは、この事件の最大の被害者にして、彼女の最大の親友である沙織その人だった。
「いいよ、李衣菜ちゃん。もう、いい。どんなに怒ったって、どんなに静流さんを問い詰めたって、私の身に起きたことは変わらない。もしかしたら静流さんも本当にこんな大事になるだなんて思ってもみなかったのかもしれないし、そこを責めてもしょうがないさ」
「沙織、でも――っ!!」
自身の言葉に納得がいかないと食い下がろうとする李衣菜を、視線で抑える沙織。
そうした後、視線を肩で呼吸する静流へと向けた彼女は、一息ついてから静かな口調でこう問いかけを発した。
「静流さん、私はもうこの首の傷のことはどうだっていいさ。この件に関しては怒ってもないし、あなたをどうこうするつもりはない……ただ、1つだけ教えてほしいんよ。なんであなたは奈々ちゃんや羽衣ちゃんを仲違いさせたり、私との対立を煽ったりして、【SunRise】を悪い方向へと突っ走ろうとしてたの? 私のことは不測の事態だったのかもしれない。でも、その行いは間違いなくあなたがそうしようと思ってやったことのはずさ。なんでよ、静流さん?」
「……だって、しょうがないじゃない。そうするしか、道がなかったんだもの……!!」
真っ直ぐな沙織からの視線に顔を逸らし、爪を噛みながら苛立ちと不安をごちゃ混ぜにした声を漏らす静流。
血走った眼で床を見つめ、ぶるぶると握り締めた拳を震わせながら、彼女は沙織からの質問へと答えを返す。
「センター格が1人抜けた上に、妙な噂まで広まったのよ? そんなグループに未来があると思う? 【SunRise】は成功しない。大成しないグループに所属し続ける意味なんてある? 私は当時22歳、今はもう24歳、アイドルとしての寿命なんて尽きたも同然の年齢なのよ? だったら、もう……こんなグループはなくなった方がいいじゃない」
「なっ……!?」
静流が口にした暴論に、誰もが言葉を失った。
沙織も、李衣菜も、【ワンダーエンターテインメント】の代表や薫子、あの祈里ですらも絶句し、表情を驚きと絶望の一色に染める中、静流が見苦しい言い訳を語り続ける。
「これは他のメンバーのためでもあったのよ! 【SunRise】は言わば前科持ちのグループ! そんなグループに固執したところで時間を無駄にするだけじゃない! だったら早くに解散して、次のステップに行った方がまだ可能性があった! 私はただ、他のみんなにリセットの機会を与えようとしてただけなのよ!」
「静流、さん……あなた、は……っ!!」
あまりに身勝手で、詭弁が過ぎる言い訳。
静流の叫びを、訴えを耳にした面々が、段々とその言葉に怒りの感情を燃え上がらせていく。
【SunRise】最年少の恵梨香にすらも呆れと激憤の感情を抱かせる主張を口にした静流は、それでも見苦しく自身は被害者であると訴え続けている。
そんな彼女に対して、誰もが何か文句を言いたくとも、感情の整理が出来ずに声を詰まらせる中、反撃の一声は、予想外の人物の口から発せられた。
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