乱入、アルパ・マリ
「なんだ、こいつは……?」
妙に馴れ馴れしいというか、距離が近いコメントを目にした零が眉を顰め、独り言を呟く。
コメント自体はすぐに流れてしまったものの、そのコメントを目にしたリスナーたちが急に興奮し始めたこともまた、彼の疑問に拍車を掛けたようだ。
【えっ!? マリちゃん!? 本物!?】
【マリちゃん来た!! しかもコラボのお誘い!?】
【もふもふコラボ実現なるか!?】
『アルパ・マリのもふもふチャンネル』……と記載されているコメント主の名前を確認した零は、視聴者の反応と合わせて彼女(?)が有名人であることを察する。
配信画面はそのままに、新しいウィンドウを開いてその名前を検索してみれば、チャンネル登録者1万ちょっとのVtuberの情報が出てきた。
「アルパ・マリ……アルパカと、ラマがモチーフか? 俺たちより少し前にデビューした個人勢みたいだな……」
デビューはおよそ1か月前。配信記録を見るに、雑談を主としか活動を行っているマリのチャンネルの概要欄を見た零は、素直に感心の言葉を発した。
自分はそこまでこの業界に詳しくはないが、どこの事務所にも所属していない個人Vとしてこの戦績はなかなかのものなのではないだろうか?
配信の頻度も高いし、羊坂リスナーも彼女の名前を知っているところを見るに、結構有名どころのVtuberみたいだな……と感心する零であったが、問題はそんな彼女が急に芽衣の配信に登場し、コラボを誘うコメントを発したところだ。
予想外のゲストの登場に湧き立つコメント欄とは裏腹に、羊坂芽衣の方はなんとコメントを返した方がいいのか分からず右往左往している。
やはり、人見知りの有栖はこういった不測の事態への対処は苦手のようだ。
配信中という衆人環視の中で、突如として声をかけてきた同業者への対応に彼女が悩んでいる間にも、コメント欄の盛り上がりはますます過熱していった。
【中止になったコラボの時間帯、もしも暇だったら一緒に配信しません?】
【うおおっ! マジ!?】
【マリちゃん積極的過ぎワロタ】
【でも俺も見たい! マリ芽衣コラボ観てみたい!!】
『え、えっと、あの……』
……この状況はマズいのではないかと、零は思う。
盛り上がるコメント欄に反して、現在の視聴者数を表示する数字は緩やかに減少しており、低評価の数も先程確認した時より随分と増えている。
一見、アルパ・マリの登場で盛り上がっているように見える配信だが、羊坂芽衣のリスナーが観たいのはこういった熱狂ぶりではなくて、彼女がゆったりとお喋りする配信なのだ。
マリの登場によってその雰囲気が壊れ、一気に芽衣の配信がらしさを失ってしまった。
芽衣とマリ、双方のファンにとっては嬉しい状況かもしれないが、芽衣のみを応援しているリスナーからすれば、この状況は望まざる事態なのだ。
徐々に減っている視聴者数が、逆に増えている低評価の数が、そのことを証明している。
そもそも、今の羊坂芽衣はこの熱狂を抑える術を見いだせずに狼狽するのみで、明らかに1人喋りをしていた時よりも口数が減っていた。
このままではマズい……先日に薫子から聞いた、有栖がパニックになりやすいという話を思い出した零が改めて危機感を抱く。
今、芽衣こと有栖は目の前の状況にいっぱいいっぱいで気付いていないだろうが、何かの拍子に減っているリスナーや増えている低評価に気が付いてしまったら、完全にパニック状態に陥ってしまうだろう。
コラボ配信を持ちかけるマリを、それを観たいと騒ぐリスナーたちを、どうにかして止めなければ……と、有栖への救援方法を考えていた零が、ふとコメント欄を見た時だった。
【コメント欄に蛇道枢いない?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます