SAKUSEN
雪見なつ
第1話
緑の迷彩服を着た男たち六人は、地図を広げた机を取り囲んで、難しい顔をしている。テントは蒸され、男たちの額には汗の粒がじわりと滲み出る。
七月の東南アジア。太陽光が地上を焼き、昨夜の雨で濡れた地面から白い湯気を出している。
男たちは、その中で男たちは沈黙を続けた。
「失礼します!」
その沈黙を破るように、テントの幕が開かれる。
そこには若い青年が、立っていた。
「自分は第三分隊松田一等兵でございます。第二偵察隊からの報告によりますと、敵陣に動きが見られてとのことです。キャンプ地を畳んで、我が軍に接近しているとこのこと。このまま動かなければ敵軍の奇襲という形で接敵してしまいます。どうか早めのご判断を!」
松田と名乗った青年は敬礼をしながら、偉い男たちの反応を待った。
男たちは驚きの表情を浮かべて、生唾を飲んだ。
「なぜ、それを早く言わぬ!」
六人の中のハゲた頭の男が、声を荒げた。
「黒羽中佐。それを怒っても何も始まらんぞ。松田一等兵、敵軍の動きを詳しく教えてくれたまえ」
「はい!」
松田一等兵は、少し足取りを重くして、男たちの間に歩みを寄せる。
男たちは、地図を見せるように、一人分の隙間を作った。
地図の上には、赤色と緑色の三角形のコマが置かれている。赤色のものが敵軍のいる位置を表していて、緑色が自軍を表すのものだ。
松田一等兵は、赤いコマを掴んで、動かし始めた。
「敵軍は、三つに隊を分けてこちらに進んでおります。一部隊は、正面に進んできており、残り二部隊は、左右に分かれて行動しているようです」
松田一等兵は、震える手でコマを動かした。
「なんだって!」
そこにいる男たちは驚きの声を上げた。その男たちの中で一人だけ、静かなままそのコマを見ていた男がいた。
その男たちの中で、一番若い高橋少佐だ。一重の細い目は、その赤いコマを睨みつけた。
「葉山大佐殿。自分に意見がございます」
「なんだ、高橋少佐。今の状況を打開する案があるのか?」
「はい。敵軍は我が軍を囲んで叩くことが目的だと考えられます。ここは一度引いた方が良さそうかと思います」
「何を言うか、貴様!」
ハゲ頭の黒羽中佐が、高橋少佐の頬を拳で殴った。高橋少佐は、深いため息をつく。
「やめたまえ、黒羽中佐」
「はい」
黒羽中佐は、握った拳を解いた。
「だがね。高橋少佐、逃げるという判断は、ここではできぬ。のこのこと敵軍に背中を向けて逃げてきたのなれば、我が軍の恥だ。それはあってはならぬ。ここで我が軍は、敵軍を迎え撃つ。兵たちに戦闘準備を伝えよ」
葉山大佐は、松田一等兵にそう伝え、生温いブラックコーヒーを飲んだ
SAKUSEN 雪見なつ @yukimi_summer
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